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「実力的には秋葉以上です。
ですが、自分に対する自信が圧倒的に足りないのです。……自分はダメ人間だと思っているみたいでですね、ですから秋葉のように単独行動が出来ないんです。
ですが、上司がいれば違います、彼はきっと実力以上の能力を発揮してくれるでしょう」
朔斗が実力者と認めただと……?
これは雨の代わりに槍が降ってくる、それくらいあり得ないことだぞ? どんな優秀な奴でも、いえまだまだですとそう言う奴なのに。
「朔斗、その男どこらへんが優秀な奴だとそう感じさせた?」
だから、私は疑り深くそう聞けば、
「そうですね、自分の実力を過剰評価されても変わることなく過小評価なところですかね。
過大評価をし、油断をすることで大切なものを失うことだってあります。そんな思いを、月穂様にはして欲しくはありませんから。
それに、彼の見る目は確かです。超能力がある訳ではないのに先見の目があり、物事の潮時や力を入れ時をしっかりと理解しています。そして、1番評価に値するのは人の見る目があることですかね。
ああ、それから努力家ですね。
私がもし、別の仕事をしていた時にあなたが攫われたとしても、彼になら安心して任せられます。……絶対に攫われたあなたを救い出せると」
咲夜は、まるで自分の息子の良いところを話すかのような、親馬鹿な父親の顔をしていた。
そんな朔斗の表情を見て思い出した。
雨の中でも、まるで雨なんか降ってないかのように鍛錬を続ける、背が高くて骨角がしっかりしている男の子のことを何故か思い出す。
自信のなさげな表情しながら鍛錬を続けているものだから、印象深く残っていたようだ。
……確か、彼の名前は……。
「佐倉理玖か?」
そう思わず彼の名前を口にすれば、朔斗はとても驚いたような顔をして、呆然としたような声で、
「そうです。何故、お分かりに?」
そう聞かれたが、言える訳がないだろう?
……雨の中、1人。自信のなさげでありながらも真剣な顔をして鍛錬をしている姿がとても綺麗で、印象深く残っていただなんて。
……そんなの、言える訳がない。
「私は候補生のプロフィールは全て記憶済みだからな、それ以上の理由なんてない」
その言葉に嘘はない。
部下のプロフィールを完璧に覚えていなければ、的確に仕事を割り振りが出来ないからな。
勿論、父上も候補生のプロフィールを全て頭に入れているようだし。
嘘はついていない、その男の名前がわかった理由の1つを隠しているだけで。
「そうですか。彼を右腕として、作戦の協力者と共に入学させますか?
護衛見習いとして側におくことを、領主様に許可は頂いております」
まだ理由があるって、10年も側にいてくれれば見破られてしまうようで、微笑ましそうにしている表情を見ればあえてもう1つの理由を気づいていない振りをしてくれているとわかってしまう。
そんな朔斗の気遣いを無駄にする訳にもいかず、ため息を1度だけして気持ちを切り替える。
「そうしてくれ。彼を私の右腕として育て上げてくれ、朔斗」
「はい。全ては姫の仰せのままに」
朔斗は、あたかもそうすることが当然かのように私の手の甲に口づけを落とす。
私もそれを受け入れる。朔斗がそうするのは、……私だけにだから。
それから1年後。
「月穂様、主人であるあなたに案内させてしまい、申し訳ありません」
困ったような表情を浮かべて、13歳だとは思えないくらいに背の高い理玖は、普段ならもっと大きな歩幅で歩けるはずなのに、私の歩幅に合わせて歩いてくれていることに気づいていないとでも思っているのか?
部下とは言え、後輩だ。迷子になって困っているのなら案内するのが先輩の務めとも言える。
だが、まだ13歳だから他の男子生徒は女子の歩くペースに合わせるのがぎこちない人が多い中、不自然さを感じさせないとは、しっかりと朔斗の教育が行き届いている証拠でもあり、その教育を素直に受け入れていると言うことでもある。
……右腕としての能力は今のところ文句のつけようがないな、さすがは朔斗が直々に育て上げた愛弟子と言ったところだな。
そろそろ朔斗に戻ってきてもらわなくてはな、次の候補生の指導は夢が向いていると思うしな。
考え事に耽っていると、困ったような表情を浮かべながらも私が機嫌悪くしたとは勘違いしてはしていないようだ。むしろ、私の性格をよく理解して、返答を待ってくれているようにも見える。
……朔斗、君は私の右腕として文句のつけようがないくらい、そして私が欲していた能力を持つ人材を的確に優秀に育て上げてくれたようだ。
「別に案内するくらい大した労働ではないよ、それくらい構わない。申し訳ないと思うのなら、私の右腕として尽くすように。……裏切りはけして許さない」
そう言った時、思わず無表情になる。
そんな私に、理玖は初めて困ったような表情ではなく、穏やかな笑みを見せてくれた。
「勿論です。私の唯一の姫君」
その一言を聞いて、確信した。
……間違えなく、完全に理玖は朔斗の意思を受け付いでいると。
そして、私を絶対に裏切らないと。
「私は姫君と言う言葉は似合わないが、私以外の人間に姫君なんて言ってみろ、このかんざしに宿るあやかしに食らわれることを覚えておくんだな」
それでもトドメをさすことをやめられなかった。
そんな私の心情を察したかのように、具現者としての私と契約してくれているあやかし達が、本気の半分くらいの殺気を外気に流してくれた。
だけど、その殺気に怖がる素振りすら見せることなく、こちらが怖くなるくらいの満面の笑みでニコニコニコと笑ってられるくらいの余裕を持っていた。
そしてそんな理玖はこう言ってきた。
「そんなこと、あなたが私をいらないと言わない限り永遠にありえないことです」
私は、その一言が何よりも嬉しかった。




