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「月穂、後で候補生のプロフィール化を頼む。私も、候補生の候補を探しておこう。
カモフラージュに孤児院の資金提供、勿論これは実際に孤児院の様子を見てやるから安心してくれ。それから、孤児院の設立も行っていく。
孤児院の設立をすれば、違和感なく候補生の育成も捗るだろう。満が講師として向かう日は1ヶ月に7日くらいが妥当だと言えるだろう。
それ以上、満がいないと私が困るから、どうしても行かなければならないと私が妥協しない限りは1ヶ月に7日、講師として彼らに指導してくれ。
多分野の才能の持ち主を、私も探してはおくが、引き続き月穂も候補生を探しておいてくれ」
どれだけ満さんに依存してるの、父上。
……まあ、私も人のことは言えないが。
「わかりました。明日、諸事情により、孤児院に向かう予定ですので、何人か声掛けておきます。実際に見て才能があるか見た訳ではないので、諸事情を済ませてから、子供達と話してみようと思います。
書類でわかるのは目に見えて、形に残る才能ばかりです。ですから、実際に1人1人話してみて候補生の候補を見つけて来ようと思っています。諸事情のカモフラージュに、何件か孤児院に行って来ようと考えてますので、他に候補生の候補がいる孤児院を見つけたら私が足を運びましょう」
今回は提案するだけにしておこうと思っていたのだが、すっかり話が進んでいるな。
まあ、そっちの方が有難いのだが。
この会社を設立するのは、早ければ早い方が良いと考えているからな。
出来れば、私が16歳くらいの年齢までに、安定した運営にしたいものだ。
まあ、焦ったところで良いことはない。
裏切りをしない、優秀な人材を確実に育て上げなければ意味がないからな。
例え、相手が私の身内だとしても、確実にその罪を裁けるくらいの優秀さが欲しいから。
「それから、候補生が従業員となり、引退する前には引き続きとして、後継者を育ててもらおうと考えております。その後継者が、候補生の身内の場合、水月家が面談して向き不向きを判断し、その従業員の後継者に向かないが、他の従業員の後継者に向いていると判断した場合はその者の後継者にします。
親の七光りと言う言葉があるように、向かないと判断した場合は容赦なく許可を出しません。出来れば、身内以外の人材を後継者にして欲しいと考えております。
後継者については、縛りを厳しくしようと思います。まあ、厳しくと言っても、後継者選びのことについてだけ水月家が目を光らせることになりますね。常に公平でいられる人材であることが重要ですし、それに次世代にも残る組織にしなければなりませんから」
だが、立場はあくまでも中立。中立の立場で考え、無実の罪を着せた時や悪事を世間へと引きずり出すのがあくまでも役割としたい。
つまり、目立ってはいけないのだ。
だが、次世代に残る組織にしなければならない。矛盾していることは重々承知だよ。
だがな、そうする必要があるんだよ。
「なるほどな、そう言う縛りは私が簡潔にまとめておこう。出来れば、縛りがない方が良いとは思うのだが、次世代にも残る組織にすると言う目的がある以上、必要性のある縛りはしなければならないのは致し方ないことだ。
明日は予定が埋まっているから、付き添いは出来ない。お前の秘書2人に付き添うことになる。秘書2人は、私との話が終わったら会ってもらうぞ。
次の機会は共に行こうか。そしたら、孤児院を作ると言う噂も立つし、本来の目的も悟られることはないだろう。水月家の人間は物欲よりも知識への探究心の方が強い傾向があるからな、幸い孤児院を作り、候補生の育成したとしても会社に影響はない。お爺様も、賛成されるだろう。
表向きの企業は何にするかは私が考えておこう。代表も、お前が成人するまでは私が引き受けよう。そうすれば、雪夜くんも疑問に思わないだろう。
私も優秀な才能を持つ子供達の才能と言う芽が摘まれてしまうのは心が痛むし、惜しいと思うからな、私が出来ることは何でもしよう。
幸い、お爺様はまだまだ現役だ。有難いことに私が引き受けている仕事はお爺様がこなす仕事の4分の1でしかないからな、1つ代表の座が増えようが痛くも痒くもない。
それに、私は水月家の会長職に就かないしな。継ぐのは穂波か、お前らの子供かだろうな」
椿家の人間は代々短命だと言われている。
椿家の役職から離れた父上はわりと椿家の中では長生き出来るだろう。だが、それは椿家の中ではの話で、他の人よりは長生きは出来ないだろう。
だから、父上はお爺様の後継者にはなれない。何せ、お爺様は藤夜様と同じく、瞑想系の予知能力者で、長生きしてしまうタイプの能力者である。
お爺様は確実に父上よりも長生きするのだ。
だけど……。
「出来るだけ長く生きてください。父上が居なかったら、誰が母上の暴走を止めるんです?」
お願いだから、長く生きることを諦めたようなことだけは言わないで欲しい。
「父上が居なかったら、満さんが悲しみます! 勿論、私も母上も兄上もお爺様もです!」
短命がなんだ!
代々そうだったとは言えど、父上だけは例外になるかもしれないじゃないか!
「2度と長生きすることを諦めたような発言はしないください、馬鹿父上!」
感情的になり過ぎて、思わず涙が出てきた。そんな私を見た父上は慌てて駆け寄ってきて、包み込むように抱きしめてくれた。
そんな父上の様子を見て、呆れたようなような顔を満さんはしていた。
「今回はあなたが悪いです。猛省してくださいませ、冬利? 私も月穂様と同意見です」
「ご、ごめんなさい……」
なるほど。父上の弱点は、満さんと言う訳ですな。父上関係で困ったら満さんを頼ろう。
ちなみに、涙腺が崩壊したのか、泣き止むのに10分かかりました。
ごほん、と父上は空気を変えるために1回咳払いをしてから、淡々とした口調で話し出す。
「情報収集を欠かさない月穂は知っているだろうが、一応な。月穂には13歳になったら、萌芽学園に通ってもらうことになる。
月穂も、穂波も、2人とも私とお爺様の遺伝子を強く受け継いでいるのか、強い霊視の力を受け継いでいる。そのため、月穂にも穂波にも「具現者」や「憑依遣い」のどちらかの力を得てもらう。強すぎる霊視の力を活かすにはこの2つの能力が1番良いのだ。
月穂や穂波くらいの霊視の力の持ち主だったら、超能力をわざわざ身につける必要はないんだが……。月穂や穂波も、武器さえあれば霊視を応用して能力者と戦えるからな。多種類の武器を使いこなせるようにもなってはいるが、万が一のことを考えると超能力を身につけて欲しいんだ。
月穂や穂波にも、私のような思いはして欲しくないんだ!! 頼む、この2つの能力のどちらかを身につけて、自衛出来るようになってくれ」
最初、淡々とした口調で話していたと言うのにどんどん口調が感情的になっていった。
その口調の変化に、どれだけ自分と同じ目には合って欲しくないと思ってくれているのか、強く強く伝わってきて、父上がどれだけ子供である私を、兄上を愛していてくれているのかわかったような気がした。
「わかりました、父上。私、「具現者」の能力を身につけたいと思います」
私も憑依している身。
2重で憑依していまえば、どうなるかは私にはわからない。消えないと言う保証もない。
だから、私は「具現者」の能力を身につけることにした。「具現者」の能力なら武術も活かすことが出来る可能性が高いだろうし。
「そうか……」
超能力を身につけると聞いて安堵したのか、父上は気の抜けたような声でそう返事した。
だけど、「具現者」の能力を身につけることを選んだ理由は聞いては父上は聞いて来なかった。




