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彼は私とは違う。

私のように、加害者に温情も掛けずに冷酷に、復讐としか思えないような行動は出来ないだろう。父上はきっと理解してる、表向きでは秘書である彼の本質は従者であることを。だから、きっと彼に告げているはずだ、自分が殺められる結末になろうとも復讐をしようとするなと。

だが、お嬢様は違う。

1番側にいた私にはわかる、彼女は裁くことを望んでいたと。だから、聡明な彼女は復讐をするなと私に告げずに無実の罪で裁かれた。

復讐はきっと望んではいなかっただろうが、この世界の均等を守るため、彼女はあえて命じなかったのだと思う。彼女は頭の良い女性だったから。

よっぽど彼女は、あいつらよりも政治を動かす力に長けていたと言うのに、あいつらは……!

あいつらの目はただの飾りか!

あいつらの才は見かけだけか!

あいつらの家名はただの七光りか!

たった1人の、自称凡人な隠れ美少女な小娘に惑わされやがって、どんな教育を受けている?

謎だ、何故だ? あいつらはお嬢様と同じ教育を受けているはずなのに何故、そんなに差がある?

思い出しただけてイライラしてきた。


「わかってます。精神は従者ですが、私の今の立場は秘書であります。今度こそは冬利を守るため、どんな情報でも掻き集めてみせましょう」


そうだ、それで良い。

私のようにはなってはいけないのだ。

……復讐をするためなら、悪逆非道にだってなれるそんな私のようには。


「そうですか、それなら良いです。

では、そろそろ世間話は終わりとしましょう。長時間話すのはさすがに怪しまれますからね。

また、何処か会えた時にはまた、こうしてゆっくり話せると良いですね。それでは、また」


またの機会はないだろう。

会ったとしても、こうして2人っきりで話すことは叶わないだろうな。

きっと、私が慕う雪くんがそれを望まないだろうから。自惚れかもしれないが、きっとそう。

彼は、凄くヤキモチ妬きだ。


「月穂様!」


私が数歩歩いた時、私は引き止められた。その時、無視することだって出来たはずだ。

だけど、それを私はしなかった。

何故か、その呼びかけに答えなければならないとそう直感が言ったから。


「なんですか? 満さん」


だから、わざわざそう聞いた。

すると彼はこう聞いてきたのだ。


「ちゃんと、雪夜様を愛しておいでですか? 敬愛ならば……、あなたは……!」


ああ、心配させてしまったか。


「敬愛ではないですよ。

でも、怖いんです。いつか、いつか彼に対する気持ちが憎愛に変わってしまわないか」


私は、満面の笑みでそう言った後、満さんの返事を聞かずにその場から立ち去ったのだった。




暇つぶしをすることを諦めた私は、大人しく自室に戻ることにした。

すると、3件の電話が入っていた。

……雪くんからだ。

躊躇うことなく、折り返し電話する。


「もしもし、月穂? 君が連絡して、繋がらないことがあったことがなかったから、何かあったのではないかとそう心配したよ」


ああ、依存してるのは私だけじゃないんだとその言葉を聞いてそう安心できた。

まあ、共依存ほど、共倒れするものはないのだけれどそれでも構わない。

私は初めて会ったあの日から、雪くん以外の異性のことを強く想ったことはないんだ。

満さんに向けた感情は仲間意識だ。

自分に似た感情を持つ男を見つけてしまったものだから、少し助言をしたくなってしまっただけだ。特に、特別な感情は持ち合わせてない。


「心配させてすまない、雪くん」


心配性な彼を心配させてしまった、本当に申し訳ないことをしたな……。

そう考えてれば、電話の向こう側でクスクスと雪くんが笑う声がした。

何故、笑われているのかよくわからなかった。


「いいんだよ、僕の方がいつも心配させてるからね。たまには心配する側もいいものだ。

まあ、君の心配はいつも僕への気づかいだけど……、僕の心配はいつも僕の都合だ。妬いちゃうよね、君は僕が誰と居ても何にも言ってくれないのに僕だけは僕以外の人間を君の側に置かないでって叫んでる。君はいつもそう、いつも僕だけの側にいてくれない」


本当に、あなたは6歳児なの?

前から思ってた。私と、雪くんには似た雰囲気を出す時があると……。


「雪くん、私に秘密にしてることがあるよな? そしたら、私も雪くんに秘密にしてること、明確には話させないが、大筋のことは話そう」


私が、山城唯だと言う訳にはいかない。

彼は知ってはいけないのだ。

私の想いを、敬愛と勘違いされては困るからだ。私は雪くんのことを、それ以上の感情を持ち合わせているから、それで私を見てくれなくなるのは困る。

私は、雪くんに一目惚れしたのだ。

彼に信じられなきゃ……、私は!!

……きっと壊れてしまう……。

だから、お願いだ。話してくれ!!


「わかったよ、月穂。

僕には前世の記憶がある。葉月家が、まだ穂月家に忠誠を誓っていた時の時代の人間だ。

僕は、守れなかった。愛しい彼女を。

僕と彼女はけして結ばれることのない立場だった。だから、伝えられなかった。愛していると。

それでも良かったんだ、彼女さえ生きていれば僕は我慢出来た。諦められた。

なのに、彼女は殺された。

それを奴らはもみ消した!! 許せるものか!! あいつらはきっと繰り返す、彼女に犯した罪と同じことを。あの子にした酷い罪を!! あいつらはまた繰り返すはずだ。だから、強くなりすぎた5つの家系を崩し、新しい先導者を作り出すとそう決めた。

僕は復讐はしない。これからのために、これからの民の未来のために新たな先導者を作るため、僕は今から外堀を埋め、1つの結末にするためにこれから動くんだよ。

その隣には月穂、君にいて欲しい。

どうしてだろうね? 僕は、彼女に抱いた感情と同じものを、月穂を初めて見た時に抱いた。

僕のこれからの隣にいる存在は、君じゃなきゃ嫌だ。他の人物ではダメなんだ、君が側にいるなら僕はしっかりと前に進めるから。僕の側からいなくならないで欲しい」


電話の向こう側から、引きつったような声が聞こえてくるから、この話は本当なんだろう。

何、言ってんだよ。そんな目的があるならもっと早くに言ってくれればよかったのに……!


「お前はとんでもない馬鹿だな。

私は雪くんの側から離れるつもりなんてさらさらないのに。本当、雪くんは心配だな。

やはり私と同じだったんだな。私も転生者だ、だが誰かかは聞くな。お前はもうわかっているはずだろう? だがその名前を呼ばないで欲しい。私は今は月穂なんだ、自分の前世とは言えど他の女性の名前を呼ぶなんて怒り狂いそうだ。

私だって嫉妬深いんだぞ?

もし、お前の側に私以外の女がいたとしたら、憎愛に変わってしまいそうだ」


私はそう言って、唇を指の腹で触れる。

ああ、今私はきっと6歳児らしからぬ顔をしているはず。この想いを抑えられないの……!

もう、我慢する必要はないんだって思うと、自分を自分で制御出来ない……。


自分が狂ってることは理解してる。

でも、もう変われないんだ。

私には、あなたしかいない。そうとしか思えないから、私は自分を変えることが出来ない。

ほかの人から引かれてもいい。

あなたが私の側に居てくれるなら、ううん……あなたさえいれば私は例え四面楚歌耐えられる。


「ねぇ、雪くん。こんな私でさえも受け入れてくれるのか? こんな私でも好きだと言ってくれる? 私、雪くんに嫌いだと言われたらきっと生きていけない」


私の愛が重いのは知っている。

だけどさ、止められないんだ。

だから、誰か……受け止めて?


「受け入れるよ、僕が望む女性は月穂だけだ。嫌いになれるはずがない、むしろ離れることの出来ないくらい強い縁を持てて嬉しいよ」


ああ、私達は狂ってる。

それでもいいの、他の人に迷惑かけるようなことはしないからこの関係を否定しないで。

……依存することの何が悪いんだ?


愛の形は人それぞれ違うんだろう?

恋愛に正解はないんだろう?

だったら、構わないじゃないか。




「私も嬉しいよ、雪くん」




……どうか、この人の側に居させて。




















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