第2話 「俺が、変えてやる!」
朝。
白雪は窓から差し込む淡い光で目が覚めた。目覚まし時計の針は5時を指しており、起きる予定より1時間も早かった。不思議と眠気も感じず、二度寝をすることはやめ、寝巻きにカーディガンを羽織る。
階段を降りてリビングに行けば、台所から祖母の声がした。
「あら、白雪ちゃん…おはよう」
「おはよう…」
銀髪と白髪が混じる長い髪を後ろで一つに結わえ、少し曲がった背中が特徴的だ。ニコニコと白雪の方を見る祖母に、白雪も微笑みを返す。
しかし、思った以上に笑えていなかったらしい。
俯きがちにカーディガンの裾をいじる。
「ほらほら…可愛い顔が台無しじゃよ…?」
よぼよぼと白雪に近づき、白雪の手を優しく包み込む。
「ありがとう…ちょっと外行ってくるね…」
「ああ…行ってらっしゃい。気をつけてね」
白雪はこくりと頷き、玄関の扉を開けた。入ってきた肌寒い風が、白雪の頬を撫でた。
*
外は冬を過ぎたと言っても、まだ少しだけ肌寒い。しかし、白雪にとってそれはとても心地の良いものだった。まだ早い時間というのもあり、聞こえるのは森の葉と葉がこすれ合うざわめきの音と、鳥の囀りくらいだった。
再び白雪の頬を冷たい風が撫でる。すーっと深く深呼吸してみる。自然の香りが胸いっぱいに広がり、心が癒される。
白雪は隠れるように森の中にある家から出て、お気に入りの広場に向かった。
開けた場所から、昨日の夜とはまた違う街の景色が見える。
朝のぼやぼやとした空気が街中を包んでいるのがわかる。
広場にあるベンチに腰掛ける。
(今日も、学校…)
少しだけ気が重くなった。
昔から人の多いところは嫌いだった。文香がなんとか助けてくれていたが、それでも…やはり恐い。
(ナグモ…くん)
また彼の姿が浮かぶ。
そしてまた消える。
昨日の夜からそれの繰り返しで、白雪はどこかうわの空だった。
ばれたのが恐いから…あの瞬間のことを思い出すと、今でも胸が苦しくなって息苦しくなる。
白雪ははっとなり、誤魔化すように首を横に振る。
心を落ち着けるためにこの場所に来たのだ。再び大きな深呼吸をする。
だから白雪は気がつかなかった。
近付いてきている存在に。
「はぁ…はぁ、ーーー…え」
バウッバウッ
犬の吠える声に白雪は驚いて、ベンチから立ち上がった。
声のする方を向けば、こちらに向かって走ってくる人影が見える。
そして、見た。
黒い髪、短パンに黒いジャージを着て腕捲りをしている。
真っ黒の二つの目が、驚きに大きく見開かれた。
彼ーーナグモは白雪の姿を見て、足を止めた。