第1話 (6)
「なんかさーさっきからおかしいぜ?日向よー」
「おー」
日向と浩平は二人とも部活動見学が終わり、帰路についているところだった。
日向の古くからの親友である浩平は、友人の異変に首を傾げていた。
その異変は日向に会った時から感じていた。
何処か遠くを見ているようにうわの空(いつもそんな感じだけど)
手の中にある、白い猫(本人は拾ったの一点張り)
(何かあったんだろうけど…日向はこんな時、無駄に頑固だからなぁ…)
浩平は手を頭の後ろで組み、空を仰ぎ見る。赤黒い空が、少し生々しく感じた。
隣を歩く日向を見れば、腕に抱きかかえた猫の頭を撫でている。
(まあ、別に深追いもしねーけどさあ〜…)
少しだけの不満が、浩平の中に見え隠れした。
*
「…見なかったことにして」
「ごめ、んな…さい」
頭の中で先ほど言われた言葉がぐるぐるとリピートされる。
決して好きな曲ではないのに、壊れた音楽プレーヤーのごとく勝手に流れる流れる流れる…
しまいには映像付きで。
まるで世界の終わりを告げられたかのような、はたまた自身のあったテストが赤点だった時みたいな…
"悲痛"の一言だった。
さきほどから日向はその時の白雪の顔が忘れられず、考え込んでしまっている。
隣を歩く浩平が何かを言っているが、正直日向の耳には入っていなかった。
日向が助けた猫は、始めは怯えていたが今は日向の腕の中でリラックスしている。まだ産まれて間もないのか、小さく、痩せていた。
そのまま置いていくこともできなかった日向は、とりあえず連れて帰ることにしたのだ。
撫でてやると、気持ち良さそうに手にすり寄ってくる。それになんとも愛おしさを感じた。
「でもさーやっぱりラッキーだったよなーまさかあんな美少女と同じクラスになれるなんて」
「…」
今まで耳に入らなかった浩平の言葉が、今だけは鮮明にくっきりと聞こえた。そして名前も出ていないのに、美少女という単語で再びさきほどの映像が流れる。
「しかもちゃっかり日向もさ、氷室ちゃんが困ってたの助けてたし。さすがの日向も美少女には興味ある?」
「別に…助けた覚えはないし、興味もない」
「ふ〜〜〜ん」
日向は不機嫌そうに唇を尖らせてぼそりと言った。視界の隅に浩平がニヤニヤと嫌な笑みをしているのが見える。それに無性に腹が立って、右足で浩平の脚を蹴ってやる。
「イデーよ!お前さあ!昔、柔道かじってたんだから手加減しろや!」
「浩平がキモいのが悪い」
蹴りはどちらかというと空手の部類だけど…と日向はぼんやり考えた。日頃から鍛えているだけあり、力はそこそこある。
浩平はしくしくと泣き真似をしいる。日向が冷たい…だの、愛がないだのぐちぐち言っている。
「うえ〜〜ん日向が恐いよ〜しくしく」
「ああ"〜〜〜わかった、アイス奢るからうぜえ」
「え、マジで?俺、"ゴリゴリくん梨味"な」
「切り替え早いなおい」
そんな他愛のない話を適当にして、学校から一番近いコンビニに立ち寄って約束通りアイスを奢る。
それから十字路で浩平と別れ、自分の家へと向かった。
明日、また氷室白雪に会う。
特に話す必要はない。彼女の言ったとおり"何も見なかった"ことにすればいい。
そうすればいいのに。
何故だか胸がもやもやした。
第2話につづきます
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