最初に
人間には、多くの被検体が必要だった。
荒廃が垣間見えるこの地球は空気が汚染され、毒性のウイルスが飛び交い、ガスマスク無しでは外を出歩けない死の星と化していた。
廃れた星の環境に耐えられない生物は死に耐え、人間の数も激減した。絶望に苛まれる人類に残された道は、この劣悪な状況を生き抜く事だった。
ウイルスに対抗できるワクチンの開発。それには科学技術を更に発展させ、多くの実験を繰り返さなければならなかった。
しかし、人間がこれまで被検体として利用してきた猿やマウスなどの動物は、絶滅の危機にさらされ、地球上に存在しているのは、もうごく僅かだった。彼らもまたウイルスに抗えず、多くの仲間を失ったのだ。
絶滅危惧種を絶滅させる訳にはいかない。絶滅させたら、どのような悪影響が及ぼされるか。人間はそう考えた。
更に空気を清浄しなければならないので、多くの労働力が必要だった。
しかし、同じ種族を奴隷の様に扱いざるを得ないこの状況でも、人類は抵抗をおぼえ、奴隷扱いを躊躇った。
死者はどんどん増え、もうこの星も終わる。そう思い、多くの科学者や生物学者が匙を投げた。
ところがある日、とある博士が自らの研究室にある生物を連れ帰った。
従業員達や弟子達は驚いた。その生物は、人間に酷似していたのだ。
銀の髪と体毛に覆われ、尻尾があり、耳は尖っている。それでも、全体的な体のつくりやパースは人間のそれに酷く近い。人類は、探し求めていた新しい被検体を手に入れたのだ。
発見者の博士の名前を取り、コルタと名付けられたこの生物は、なんと次々に見つかる。その多くは、かつて熱帯雨林と呼ばれた地域のあちこちに生息していた。その数は、現在の人間の半分程の数だった。
人類はコルタを次々と捕獲。大きな施設を作り、コルタ達の全てを閉じ込めた。
人類生存のための実験は、早急に行われる事になった。
体の構造、学習能力、特徴、主食、子作り、鳴き声など、人間はコルタの隅々を調べ尽くした。
ワクチンを大量に作り、注射した。中には死ぬ者もあった。
嫌がるコルタ達もいる。そんな彼らに人間は、調教を行った。痛みを与える事により、コルタ達は学習し、やがて人類に従うようになる。
力のあるオスは特に、空気清浄装置の荷運びなどに駆り出され、多くのメスは、無理矢理子作りをさせられ、その子供は、人間による調教を受けた。
そして多くのコルタ達の犠牲の結果、人類は、ウイルスに対抗できるワクチンの発明に成功する。