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第三章

 インターネット・スクールの良いところ(悪いところかも)は、手抜きできないところ。必ず授業ごとに小テストが出題されて、その結果に応じて宿題や補修が一人ずつ課せられる。ちゃんと勉強してれば、宿題も補修もナシとなるし、サボっていればもれなくその分のつけが回ってくる。一人一人の進捗の管理が完璧にされているという事だ。

 ケンは、やっと一日の授業が終わったところでぼやいていた。

「ああー、補修が多すぎるー! こんな日に限って!」

 周りでは、授業が終わった生徒達が、口々に挨拶をし、接続解除して画面から消えていく。

 ラウ・ジンが後ろから嬉しそうに突っ込んでくる。

「なんだ、またサボってたんだろ? すぐぼけーっとするからな、ケンは。しっかりしごかれてなさい」

 ムスっとしながら後ろを向くケン。

「なんだよ、冷たいな、おまえ。俺、今日は家族で夕飯、外食するんだよ。こんな補修やってたら間に合わないよ。なぁ、ラウ・ジン。ちょっとだけでいいから、たのむっ! 手伝ってくれ!」

 情けない顔をして懇願しているケンを横目に、ラウ・ジンは澄まして答えた。

「悪いねぇ、ケン君。僕、今日これからデートなんだ」

「うわ、やな感じ!」

「へへへ。外食って、いつもんとこ?」

「まあね」

「そうか、まあ、自業自得だ、がんばれよ。僕は彼女待たせちゃ悪いから、そろそろ行くわ、じゃあな」

「お、おい!」

 プシュン。

 ケンの画面からラウ・ジンの姿が消えて、その代わりにその後ろの席で話していた女子三人がクスクスこっちを見ているのが見えた。

 本当に行っちまいやがった!

 自分の顔が赤くなるのを感じながら、今日は自力で適当に終わらせるしかなさそうだと感じていた。

 今のうちに、母親に遅くなりそうだから先に行ってくれ、と言っておこう。

「待たせてる、と思うと益々捗らなくなるタイプなんだ、俺は」

 と一人零した。

 

 さすがに母は勘が良かった。

「さては、補修でもさせられるのね?」

 出来れば理由は言いたくなかったが、ここはさっさと説明して部屋に戻ったほうが良さそうだ。

「いや、あの、まあね。授業中ちょっと考え事しちゃって。終わったらすぐ追いかけるから!」

 顔の前で手を合わせ、許しを請う息子の頭をポンっと叩いてニッコリ笑う。

「あんまり遅いと、お父さんと全部食べちゃうわよ。わかった?」

「了解! いつもの店だよね。俺、バイクで行くから父さんと母さんは車で先行ってて。ちゃんと俺の分も残しておいてくれよー」

 言うが早いか、転びそうな勢いで部屋に戻るケンの後姿を見つつ、まったく、と溜息を漏らす。

 次の瞬間、母はふと思う。

 今日の食事の席で父は、あのことについてちゃんとケンに話すつもりだと言っていた。少なからずケンには驚くべき事だろう。

 面倒くさがりでだらしの無いあの子は、この事実をどう受け止めるのだろう。

 言い知れぬ不安を感じながら、時計をちらっと見る。そろそろ夫の会社まで車で向かえに行く時間だ。母は晴れない気持ちを引きずりつつも、出かける用意を始めた。


 しかし、この後、夫婦の乗る車が約束のレストランに到着することはついになかった。


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