第二章
二
遥か昔。地球の汚染は深刻な状況になっていた。マスクやフィルター無くしては呼吸の出来ない空気と、直接当たることの出来ない強力な日光。年々上がり続ける気温。水位の上昇で大陸が縮小し、国土が減り、人口も低下。
それでもなお、環境破壊を止める事の出来ない人類は、地球保護と自らの生存の為に最後の手段を取らざるを得なくなった。それは全ての生産と廃棄を止め、地球の自然治癒に任せるというもの。すなわち地球での生活を止め、新天地へ移住するという計画だった。
あまりにもリスクの大きすぎる道のりであることが分かっていながらも、その決意しなければならないほど、地球は人類の生活には不適合になっていたのだ。
移住先として選ばれたのは、この星、マナだった。当時の天文学者達が、この星の環境が地球に似ていることを発見、人類の生存と繁栄の望みを掛け、やってきたのだ。何十年、何百年か後にまた地球に戻れる事を願いながら。
しかし、希望と不安を抱えた人類の大移動は、様々な障害に阻まれた。未知の空間であった大気圏外への逃避行は、長期に及んだ。各国の最新技術を駆使した飛空艇でさえ、その長旅に耐えることのできなくなるものが続出していく。命取りになる計器の故障を抱え、結果行く先を見失い、道しるべもない真っ暗な闇に飲み込まれる艇もあり、その旅路は困難を期した。
その中で、数隻の日本の飛空艇のみが、無事マナにつくことが出来た。それがケン達の祖先にあたる。
この星にはLUVと呼ばれる種族が住んでいた。外見は人間と酷似しているが、人間にはない色素の髪の毛や瞳を持っているのが特徴だ。ラウ・ジンの赤い瞳やグレーの髪の毛はその中でもかなりポピュラーなものになる。当初より、LUVと人間との婚姻を禁じる法が作られたので、その混血が生まれることは無かったが、LUVの中にも人間に近い色をしている人もいる。それに、人間のそれを真似て染髪をするファッションも好まれていたので見た目のみでは、人間であるか否かを断定することは出来なかったが、ケンのように全くLUVの血の入ってない、「PURE」と呼ばれる純粋な人間が、そのことを隠していけるのも、そういう環境だからだ。
しかし、問題は他にあった。
この星への移住は成功したように見えた。が、惑星が変わり、地球には存在しなかった耐性のない外線や、慣れない物質を取り込んでいった事で、遺伝子異変が起き、この星に来た人間の人口は徐々に、でも確実に減っていた。
更にケンが生まれた頃からPUREの人口減少は著しく加速し、ケンの中学入学時にはその数は激減、とうとう今年に入って生存の確認できるPUREは自分達三人のみになったと父から聞かされた。
この広い世界にたった三人。ケンはその時「絶滅寸前」と言う言葉が浮かんだ。
今でこそ隠してはいるが、小さい頃はPUREであることを誇りに思え、とずっと父に言われてきた。
だが今、自分達が数少ないPUREだと周りにバレたら好奇の目で見られるからだろう。父も、そんな状況を受け、
「PUREだと言うことは、心にしっかり留めて置いてくれればそれでいい。父さんと母さんがちゃんとわかっているから。だから、周りにはあえて言うことはない」
そう言うようになった。
ケンはそう言われて、少し寂しい気持ちと、以前までの父の態度との違和感を持ったのを覚えている。しかし、それもこの境遇の変化の中では、当然のようにも感じた。