今の私
――10年後――
「お母さん、いってきます」
「美々、いってらっしゃい」
小学校1年生になった美々はおしゃれに目覚めて、家を出るまでに時間がかかる。仕方ないか。女の子だもんね。少し大人になった後ろ姿に手を振り、家の中に入った。
私は、30歳で結婚した。相手は同じ職場の人。そして彼の名前は広樹。ちょっとヒロに似ていた。別に容姿だけを好きになった訳じゃないけど、なんだか運命を感じてしまったのは事実だった。それから順調に交際、結婚、出産で今に至るって感じ。
あの後、ヒロは2回だけ会いに来てくれた。2回ともあのイケメン姿で現れて、他愛もない話をして、笑って、朝になるといなかった。2回目に会ったときに、恋人ができたことをヒロに伝えた。一瞬、寂しそうな顔をして満面の笑みで喜んでくれた。でも、その日は次に会う約束をせずにいなくなってしまった。
そして、ヒロは私に会いに来るたびに必ず何かを置いていってくれた。でも、朝にはいないせいで「ありがとう」と伝えられなかった。
家事が一段落して、なんとなくドレッサーの引き出しからアクセサリーボックスをだした。フタを開け、中身をテーブルに並べた。2枚のハンドタオル、ムーンストーンの指輪、手紙、月の石、天使の羽根、七色に輝く貝殻。
天使の羽根は友達の天使が、貝殻は知り合いの天使と妖精のハーフにもらったって言ってた。さすが妖精、交友関係が広い。
彼がくれた物を見るたびに、あの時間を思い出す。古い友人を懐かしむ気持ち。ヒロとはもう会えないかもしれない。それでも、いつかまた会いたいな。そして「ヒロ、ありがとう」って伝えたい。




