朝
――ピッピピー、ピッピピー、ピッピピー
「うる、さ、い……」
強烈な機械音で目を覚まし、アラームを止めた。隣に居るはずのヒロは居なかった。なんとなくこんな気がしていた。
ヒロがおじさんだった時も、私が寝ている間に居なくなってしまったから。
寝室をぐるっと見ると、サイドテーブルの上に何かが置いてあるのに気付いた。
「何、これ?」
それはどう見ても石だった。白っぽくって、表面がごつごつしていて、ちょっと岩塩に似てる感じがした。その石の下には、半分に折られた紙が1枚あった。石を手に取り、紙を開いた。
『美月、おはよう。
昨日はよく眠れた?
美月と一晩、一緒に過ごせて楽しかったよ。
この手紙の上に乗っているのは月の石です。
月って、地球から見るとあんなに光輝いているのに、
本物の月は意外と普通の石だよね。
僕はこれって人も同じだと思うんだ。
輝いている人も元は普通の人なんだと思う。
特別だから輝いている訳じゃないと思うんだ。
美月もこれから、もっともっと輝ける人だと思うよ。
僕はずっと応援してるからね。
また、会いにくるよ。
ヒロ
P.S. 朝まで一緒に居なくてごめんね。
朝まで一緒に居たら妖精の義務、放棄しちゃいそうだからさ。』
私は自分の手の中にある月の石を眺めた。何だかキザな気もするけど、ヒロらしいと思った。
「ヒロはありがとうって言いたいときに、いないんだから。でも、ありがとう。ヒロ」
ヒロがいつ、また会いに来てくれるかは分からない。もしかしたら来月の満月の夜かもしれないし、もっと先で、ヒロが言うように私が誰かと結婚してるときかもしれない。それでも、あの律義な妖精はきっと会いに来てくれる。そのときに手紙と月の石のお礼を言おう。
私はベッドから出て、ドレッサーに置いてある小ぶりのアクセサリーボックスを開けた。その中にはあのオレンジ色のハンドタオルとブルー色のハンドタオルが入っていた。そして寝るときはここにムーンストーンの指輪を入れている。その上に、手紙と月の石をそっと置いた。そして、フタを閉めた。




