名前
「僕はね、妖精なんだ」
「へえ~」
「あれ、驚かないの?」
「驚いてるよ。まあ、初めておじさんを見た時、幽霊、座敷わらし、宇宙人、天使、悪魔とか考えてたから。妖精もアリよね」
「そっか」
彼は綺麗な顔を、犬みたいな人懐っこい笑顔で笑った。
「ねぇ、名前なんて言うの?」
「ないよ。妖精には名前なんて」
「そうなんだ。じゃあ何て呼べばいい? さすがにおじさんって訳にはいかないし、妖精って呼ぶのも変だし」
「なら、名前付けて」
「えっ? 私が?」
妖精に名前なんて付けたことない。当たり前だけど。ペットも飼ったことないから、生き物自体名前を付けたことがない。イケメンの顔をジッと見る。
う~~~ん。浮かばない。新作アクセサリーの名前はバンバン浮かぶのに。
彼の目が不思議な色をしているのに気が付いた。前から見ればダークブラウンなのに、角度によって緋色だった。
緋色……ひいろ……ひろ。
「ヒロ、なんてどう?」
「ヒロ……。いい名前だね。すごく気に入った。ありがとう、美月」
妖精のヒロに呼び捨てされて、不覚にもドキッとしてしまった。世の女子はヴァンパイアだって、悪魔だって、イケメンには弱いよ。もちろん、妖精にだって。
「で、ヒロはどうして、今、おじさんじゃなくて、男の人なの?」
「僕、変身できるから」
「変身……ですか?」
「うん、変身」
非現実的な言葉を笑顔で語らないでよ。妖精には当たり前のことでも、人間にはあり得ないことなんだから。
「元の姿があるの? あの、本当の姿が」
「うん、白い水晶みたいな玉のような姿かな。仲間がお墓をその姿でいたせいで、人玉に間違えられたことがあった。人玉みないなやつの方が分かりやすいかな。見てみる?」
「いや、別にいい。なんか、頭がおかしくなりそう」
「さっき、妖精って言っても、大して驚いてなかったのに?」
「だんだん、驚いてきた」
ヒロはなんだか楽しそうだった。こんなイケメンが元の姿は人玉って、見なくて正解な気がする。あれ、さっき仲間とか言ってなかった……。
「ねえ、妖精って他にもいるの?」
「居るよ。世界中に」
「そうですか、そんなにいるんですか」
もうなんでもありなんだ。真実を知れば知るほど訳が分からなくなる。ちっさいおじさんの時はビックリしてしまったけど、なんか馴染んでしまった。一緒にいるのも悪くないかなとか、癒されるなとか、思っていた。ただ、姿が変わって、しゃべれるだけなのに、この変化ってなんだろう……。
ヒロはソファと自分の背中の間にクッションを入れて、少し斜めに座って、私を真っ直ぐ見詰めていた。




