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あの夏の一日だけの思い出


「すっげぇ、金髪なんて初めて見たぜ。」



「や~い、外国人は国に帰れよ!」




「グズ、エック。私のぬいぐるみを返してよ。」



夏の夕暮れの小さな公園で数人の子どもが金髪の少女からくまのぬいぐるみを取り上げてイジメている。彼らの見た目は7歳くらいだろうか。



「皆、なにやってるの?」



公園の外から同じくらいの歳の男の子が走ってきた。



「見ろよ。外国人だぜ。孝一、お前もやるよな。」



そう言うと少女から奪ったぬいぐるみを投げてきた。僕はそれを丁寧にキャッチする。



「何キャッチしてるんだよ!もっとぐちゃぐちゃしてやろうぜ!」



「私のヒク、ぬいぐるみを…エク、返して。」



「…正谷(しょうや)、その子は嫌がってるじゃないか。やめようよ。」



孝一が正論を言う。



「…もういい。ぬいぐるみをよこせ!」



正谷は孝一からぬいぐるみを奪い取ろうする。



「な、何すんだよ!?」



孝一と正谷は殴りあいになる。ぬいぐるみは地面に転がっていく。暫く殴りあいが続いたがやがて正谷が根負けしたのか舌打ちをして公園から去っていく。他のイジメっ子も正谷に着いていった。



「だ、だい…じょうぶ?」



その様子を見ていた少女がぬいぐるみを拾った後恐る恐る孝一に近づいて来た。孝一は少女を見た瞬間に言葉を失った。そのフランス人形見たいに可愛い顔に目を奪われてしまったのだ。目はしっかりした大きな黒目で整った顔立ち。髪の毛もしなびやかにツインテールでまとめてられていた。



「……ぼ、僕は大丈夫だよ、き、君こそ大丈夫?」



僕は照れを笑顔で誤魔化しながら少女に言う。少女は暫くきょとんとこちらを見ていたがやがて満面の笑みでこう答えた。



「………うん!」



「そ、そう、良かった…………さてと、祭りに行こうかな。皆待ってるだろうし。」



見つめられて恥ずかしくなった僕は逃げる様に公園から走って出ていこうとするが出る時にもう一度公園を見ると少女が動く様子がなかったので気になってもう一度少女の元に戻ってきた。本当はやっぱり名残惜しかったからだ。



「……い、家に帰らないの?」



「……家…何処か分からない…。」



少女は小さな元気のない声で言う。そして孝一の服をうつ向きながら掴む。



「わ、分かったから………じゃあ取り敢えず元気を出す為に祭りに行こう。そ、その後家も一緒探してやるから。ほ、ほら、行くぞ!」



僕は照れくさそうに手を出す。少女がそれを掴むのを確認すると手を引いて走り始めた。祭りに連れていくのは少女に楽しんでもらいたいのと皆との約束の時間に遅れそうだからだ。



「ま、まって、はぁはぁ、は、はやい。」



「ご、ごめん……。」



僕は少女に合わせて歩く事にした。案の定神社に着いた時には既に皆はいなかった。



…まあ来るの遅かったし、仕方ないか。中で会えるだろう。



「…行こう。」



僕と少女はゆっくりと石段を登って行く。去年に親と来た事のある祭りなので何処に何があるかは分かっているつもりだ。



「うわぁ~、凄い!」



少女は祭りを初めて見たのかとても感動している。孝一を置いて店に行き始めた。



「ちょ、ふう。まあいいや。」



僕はその後に着いていく。少女が最初に興味を示したのは金魚すくいだった。



「これってどうやるの?」



え?お金最後まで足りるかな?一応考えて使わないと…。



「ははは、お嬢ちゃん。こういうのがないと出来ないんだよ。」



店のおじさんが福沢諭吉様と樋口さんと野口さんをピラピラ見せてきた。実に嫌みに見える。



「……これ?」



少女はそれを見てポケットからゆっくりと財布を取り出すと諭吉様を出す。



「お、おお!?な、何回するんだい?」



驚きながらおじさんは少女に聞く。



「10回。孝一を合わせて20回。」



「はい、まいどあり。」



…凄い…一万円札を大人以外が持ってるの初めて見た…。



孝一は戸惑いながらも少女の隣にかがみこみ挑戦する。



……1匹……。



「これ簡単。楽しいね。」



隣でどんどん金魚を取っていく。暫くして最後の1枚が破れた。



「うん。楽しかった!」



少女は大量の金魚をゲットして満足そうだ。対する僕は1匹だった……泣ける……。



「次はあれ行こう!」



金魚が沢山取れた事でますますテンションが上がったのか今度は少女に引っ張られて次々に神社を回っていく。射的では孝一がぬいぐるみを狙って何故か弁当箱が取れたりした。暫くして少女は疲れたのか足取りが重たくなってくる。それを見た僕は少女を引っ張り始めた。



「着いてきて。いい所があるんだ。」



祭りの会場からちょっと離れて森の中を歩く。



「……祭りは向こうだよ?」



少女は周りを見ながら不安そうに言う。



「良いからもう少し。」



不安そうにする少女の手を引いて連れていく。やがて見通しの良い高台に出た。それと同時に夜空に花火が上がり始めた。



「うわぁ……きれ~い!」



少女はさっきまでの不安は吹き飛び花火を見ている。



「ここは僕しか知らない場所なんだ。皆とかくれんぼしてたら見つけてさぁ………。」



「ふうん…。」



少女は空に上がる花火に夢中のようだ。それから暫くして花火が終わると祭り会場に戻ってきた。



「こっちだぁ!!ここにいたぞぉ!!」



サングラスをかけた黒服の人達が突如周りに現れた。



「う、うわぁ!?な、何だぁ!?」



僕が驚いているなか黒服が喋り始める。



「お嬢様、勝手に居なくなってしまったら困ります。」



「ふん。少しくらいいいじゃない。」



「はぁ、取り敢えず帰りますよ。」



黒服は肩で息をしながら安心した様に言う。



「……分かったわよ……孝一、楽しかった。また祭りに一緒に行こう。これ、あげるから大切に持っててね。」



少女は熊のぬいぐるみを渡すと満面の笑みで歩き出した。黒服はその後ろと前に張り付く。僕はそれをただ呆然と見ていた。



「家まで送ろう。」



その後どうやって家まで帰ったか分からないが取り敢えず黒服に送ってこられたらしい。



激動の1日だった………。

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