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pool

作者: 白崎

青いバケツが

青い空が

青いあなたのジャージが

目に沁みた。



罰則のプール掃除。

私は聖といられるのでむしろ幸せだと思った。

土日返上で清掃活動に勤しまなければならないのだが、裏を返せば土日も聖を見つめられ、さらに独占できる。

私の興奮具合はMAXだった。

「やぁちょっと」

前を歩いていた聖が振り向いた。

「どしたんですか」

振り向いた君にどきどきしたのは、内緒だよ。

私は平静を装って、よいお返事。

聖は嬉しそうな顔で言った。

「プール、きれいだよ」

「えっ」本当だった。

プールには、きれいな青く光る水が張ってあった。

ああ、ふざけんなよ誰だいプールを掃除した馬鹿は。

「白咲、大丈夫?」

聖がきょとんとした顔であたしを見ている。

「いや暑すぎると私泣くんです」

苦し過ぎる言い訳が口からすべり落ちる。

「へぇえ?」

聖は笑った。「変だよそれ」

聖の笑い声を背に受けながら、私は水道で顔を洗った。

きゅっ、と蛇口を閉める。

「いやぁ暑い」ショックで暑さなんてほんとは感じないんだけれど。

「本当に暑いな、泣きそうだ」そんな変な奴、実際にいるわけないでしょう?

「あー…」嗚呼、泣きそうだ。

気づくと聖は少し離れたところでホースと戯れていた。

「…なんてこったい」

あたしの発言は知らぬ間に独り言となっていたのだ。

恥ずかしくてなんとなく蛇口を捻る。

当然の如く水が出た。

まだまだ捻る。

大量の水が放出され、あたしのジャージに、水滴が飛んだ。

悲しみよ、この水と共に流れてゆけよ。

そもそもそんな大したことではないのだろうけど、確かにあたしは悲しいのだ。

どうやらあたしには大したことのようだ。

きゅっ

再び蛇口を閉める。悲しみが流れたというよりも、精神的な水分が流れていったようだ。ぱきぱきに気持ちが乾いてしまった。

「よし、帰ろう」ネットサーフィンでもしよう。

からからと干上がった感情。

もう何にもあたしは求めないぞ。

今日明日、とっておきの甘酸っぱい青春を期待していた自分を恥じよう。

もしさっきまでのどきどきと期待に胸を膨らませていたあたしに出会ったなら、頬でも打とう。

「お前は馬鹿では無かろうか」と。

「ようし帰るぞ」

「ようし遊ぶぞ」

決意を固めたその瞬間、背後で声がしてあたしに何かが起こった。

頭から一気に熱が奪われたのだ。

「ぎゃ」

びちゃびちゃと、あたしの脳天から水が振りかけられている。

頭に手をやり拙い防御をしながら振り向くと、びしょ濡れの聖がにこにこと微笑んでホースであたしに水やりをしていた。

しかしあたしは植物ではないので外部からはそんなに水を摂取しないのです。

あたしは当然水を避けた。

「追尾ーっ」

聖がさらににこにこして、また頭上に大量の冷水が振りかけられたので、呆けたあたしの顔も存分に濡れた。

ジャージも、ジャージの下に着ている体操着もすでに、乾いている部分はほとんど無くなった。



「…なんてこったい」

そう呟いて見上げた空は、目眩がする程青かった。

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