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小種62:初めての悲劇

 悲劇はここから始まった。


 ―― ……かちゃ。


 私はいつものように、ギルド依頼をこなして寮に戻った。時計を見れば、まだ時間には余裕がある。みんなは何をしてるかな? と、軽い気持ちでお向かいの部屋をノックした。


 返事はないけど鍵が開いていたから開けた。

 カナイは本に没頭しているとノックくらい軽く流してしまうから、いつものことだ。


「……どうしたの? 二人とも机に突っ伏して……」


 開いた先の景色はいつもと全く違っていた。

 いつもなら、アルファはこの時間ロードワークに外に出ている。カナイは、読書中とか、エミルと意味不明な話をしているか、なんだけどな。


 今日はアルファとカナイが居て、中央のテーブルに二人して突っ伏している。

 どうして、そんなに机が好きなんだろう? 空気が重いことこの上ない。


 首を傾げた私に、カナイからスケッチブックが向けられる。


「は? 何それ……『今日は遊べないから出て行け』って、何、アルファも行かなくて良いの? ロードワーク」


 アルファまで、スケブを出した。お前らは水をかぶった系の大熊猫かっ?!


「えーと『行く気になれない』……って、どこか悪いの?」


 私は良く分からないけど、つかつかと二人に歩み寄る。


「あ、マカロンだ! 今日のおやつだったの? 一つ貰うね?」


 なんか良く分からないけど、二人の前に置いてあった、色とりどりのマカロンを一つ取り上げて、パクリと半分かじったところでカナイとアルファは揃って、がばっ! と立ち上がった。


「「!!」」


 ごくん。


「……は?」


 指先に残ったクリームを舐めて、ご馳走様……なんだけど、顔を上げた二人の顔が蒼白だ。


「というか、今、変な声が聞こえたぴょん」


 ん?


「今、私何かいったぴょん?」


 んん?


「ぴょん、ぴょん???」


 んんん?


 ちょ、ちょっと待ってっ?! 私、なんで勝手に私の意思と関係なく語尾に“ぴょん”がつくの? 私の頭上に浮かんだ疑問符に、青くなっていたアルファが爆笑した。


「ぴょ、ぴょんっ。マ、マシロちゃん、可愛いじょ」


 声を出したあと、慌ててアルファは口を押さえたけど遅い。じょ……アルファの語尾には「じょ」がついた。


「カナイっ! どういうことだぴょんっ!」

「恐くないじょ、ちょ、面白すぎるじょーっ」

「いや、アルファ、あんたも十分面白いぴょん……」


 ウザイ。

 なんだこれ。明らかにこの机上に残っているマカロンが妖しい。


「『俺のせいにするな』って、もう、ヘンテコ語尾になってるのは知ってるぴょんっ! 鬱陶しいから、喋りなさいぴょん!」


 しつこく、スケッチブックを使うカナイからスケブを取り上げた。


「何するヅラっ」


 ぶふっ!

 私は噴いた。ヅラだって、ヅラっ! カナイの語尾はヅラーっ!! アルファは過呼吸になりそうなほど笑っている。

 そうとうツボに入ったらしい。


「でも、カナイのせいじゃないってことは、エミルぴょん?」

「そうだじょ」

「―― ……」


 ―― ……シリアス感が足りなさ過ぎる。


 いったあとで、机に片手をつき溜息。シゼがこんな性質の悪いことするわけがない。エミルは何かの実験だとか、冗談でやりそうだ。


 王子様はときどき悪ふざけが過ぎるのだ。


 これまでは、カナイだけの被害だったのに……もう、この部屋にあるものは口にしないことにしよう。


「でも、珍しいぴょん。アルファまで、エミルの作ったものを口にするなんて、これまでなかった気がするぴょん」

「クリムラのマカロンかと思ったじょ。陰険魔術師が止めてくれなかったんだじょ」


 しょんぼり口にするアルファに、私は……


 ぶふっ!


 噴出した。

 仕方ない。仕方ないじゃないかっ!? 目の前の天使の語尾が「だじょ」とか有り得ないって。

 そして「酷いじょー」と重ねたときには、狙ってだと分かったけど素直にツボにはいった。


 お、お腹が苦しい。


 机に手をついて、笑い死にしそうな私にアルファが纏わり付く。


「マシロちゃん可愛いじょー。大好きだじょー。ねーねー、マシロちゃん、ちゃんと聞いて欲しいじょー」

「や、やめ、やめてぴょん。おなきゃ……いちゃ、痛いぴょん!」


 笑いすぎて色々噛んだ。


「嫌だじょー! 笑うなんて酷いじょー」

「あ、あははは、も、もう、」

「お前らうるさいヅラっ!! いー加減にするヅラっ!!」


 事態に乗り切れないカナイだけが真面目に怒鳴る。怒鳴るけど。


「「ぶっ! あはははは」」

「ヅラだじょー! カナイさんはヅラだじょー!」

「俺はヅラじゃないヅラ!」

「カナイ突っ込むとこそこじゃないぴょんっ」


 ***


 三人で、ぜぇぜぇいうくらいある意味盛り上がったあと、とりあえず……くだらないことに消費しすぎた体力を回復させるために、椅子に座る。

 それに続いて二人とも席につき、三人揃って中央のマカロンを見て


「「「はあ」」」


 溜息…… ――。


「お前ら楽しいヅラか?」

「……カナイだって楽しんでたぴょん」

「僕もう嫌になったじょー……」


 ぐったりと、三人で項垂れたところで、かちゃりと扉が開いた。


「液薬になったけど、良いよね。早いほうが良いって……」


 妖しげな煙を上げる瓶を片手にエミルが部屋に入ってきた。手元から顔を上げて、可愛らしく首を傾げる。


「―― ……あ、あれ? 一人増えてる」


 諸悪の根源様降臨。

 三人揃って勢い良く、さっとスケッチブックを出した。


『早く治せっ』


 満場一致。エミルはその勢いに、半歩下がって曖昧な笑みを浮かべた。


「う、うん……え、えーっと……ごめんね?」





 そうこれが、私が始めて王子様から

   実害を被った、初めての悲劇のお話 …… ――

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