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第2話 リゾート都市の未来

                -Tel Aviv

 翌朝、思いのほか早く目が覚めたので散歩に出てみることにした。海岸と平行する大通りを歩く。さすがに交通量は少ない。気温もまだ上がっておらず、明るい陽射しが爽やかに感じられる。風が心地よい。


 海岸通りはホテル銀座だった。片側二車線の道路と砂浜とに挟まれた細長く狭いエリアに高層のリゾートホテルがいくつも建ち並んでいる。もちろん客室はオーシャンビュー。海に沈む夕陽を眺めながらワイングラスを傾けることもできる。これならモナコやニースにだって負けてはいまい。


 建物が切れ、広場に出た。片隅にリゾートチェアが積まれている。目の前はもう地中海だ。


「おはよう」

「どこから来たの?」

「イスラエルは好き?」


 若い女性の二人組が声をかけてきた。朝だというのにテンションが高い。夜遊びの帰りなのだろうか。カメラを向けると両手足を大きく広げてポーズをとる。やはり酔っぱらっているようだ。やれやれ。


 広場から砂浜へと続く階段を下りる。浜辺は意外にも混んでいた。ジョギング、犬の散歩、ズボンの裾をまくっての波打ち際での砂遊び。若者から年配まで、観光客から地元民まで、実に大勢の人々が思い思いに戯れている。見ていると黙ってはいられない。さっそく靴下を脱いで彼らの仲間に入ることにした。


 砂浜は驚くほど深かった。歩いているとくるぶしのあたりまですぐに埋まってしまう。まだ熱せられていない砂はひんやりとして、足の裏はもちろんのこと、指と指の隙間から甲にいたるまで、さらさらと撫でていく。その感触が気持ちいい。歩いているだけで楽しくて、何度も行ったり来たりする。


 遠くで妻が呼ぶ声がした。波打ち際まで入って海に手をつけている。ポーズを決めているつもりらしい。さっそく写真に撮る。


「地中海制覇!」


 彼女は嬉しそうに駆けてきた。そして、しばらくふたりで明けてゆく空と海を眺めた。


 20世紀の初め、一介の砂漠に過ぎなかったこの土地にヨーロッパから少数のユダヤ人家族が入植した。それをきっかけとしてテルアビブは急速に発展することになる。第二次世界大戦後は各国の大使館やマスコミ、企業や大学、美術館や博物館などが集中し、イスラエルの政治・経済・文化の中心地となった。そして今、一大リゾート地としての顔を新たに付け加えようとしている。


 砂浜はどこまでも続いていた。穏やかな波が寄せては返す。その光景は決して戦争のイメージとは結びつかない。人々は憩い、無邪気に遊び、時には歓声を交えて大騒ぎをする。報道を通して伝えられるイスラエルとはまったく別の世界がここにはある。


 海岸を後にした僕たちは、住宅街を回ってホテルに戻った。街路樹の緑が綺麗だった。アパートのベランダは植物であふれ、赤や黄色の花が鮮やかに咲いていた。そこには豊かで平和なヨーロッパの街角と同じ空気が確実に流れていた。


 美しく平和な国際リゾート。それがこの街の未来なのか。願わくばそうあってほしいと思うのは旅行者の感傷に過ぎないと言ったら、言いすぎだろうか。

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