昼下がりのお客さん
ここは地方にあるとある宝石店。今日も今日とて店主に宝石の楽しい話を聞きに来ました。
時間は穏やかな昼下がり。店主に興味深い話と素晴らしいダイヤモンドを見せて頂いている時に事件は起きました。
「招かれざる客」…、覆面を被った男がナイフを手に入って来ました。「金!!宝石をこの袋に入れろ!!」そう言うと乱暴に袋をカウンターへ放り投げます。店主は、従業員、私、外にいる他のお客などのことを考え、瞬時の判断で言われた通り袋に詰めていきます。店主は長年この業界にいるのでとても肝が据わっています。用意が出来て黙って男に差し出します。
男が袋に手を伸ばしたその時、私の中で何かが動き出しました。それは、「心の鼓動」とでも呼ぶべきでしょうか。私の身体が勝手に動きます。同時に、心にも不思議な声が響いてきます。
『モード縮地!!モード合気!!』
自分でも驚くほど落ち着いています。自然と言葉が出ました。
『警告弌、ナイフを下ろし大人しくしなさい。』
男は眼球だけでこちらを見据え微動だにしません。
『警告弍、もう一度だけ言います!!ナイフを置きなさい!!』
こちらの語彙が強くなったのを感じたのか、男の眼球が一瞬揺れます。
『警告弎、最終確認です!!ナイフを置け!!』
静かな空間に私の声が響きます。男の眼球が揺れています。動揺しているのが手にとるように私にも伝わってきます。その眼球が再度私を捕らえた時、男は右手に持つナイフを振りかぶっていました。
『最終確認完了!!正当防衛に移ります!!』
刹那、相手と呼吸を合わせ縮地で懐に飛び込みます。男の「ギョッ!!」とした眼球が私を見ていました。合気でナイフをいなしつつ、右手に溜めていた『氣』を男の腹部にそっと押し当てます。
『氣合塊!!』
男は一瞬身体をビクン!!と跳ね上げると、膝から崩れ落ち、白眼をむいて失神してしまいました。
『モード解除!!』
私はフッと一息つくと、床にへばりついている男を見やります。完全に気を失っているようでピクリともしません。後ろで見ていた店主が警察へ通報し、男は引きずられるように連れていかれました。私も周りの安全を確認し、事件は幕を閉じました。
それから数日後…、私は今日も今日とて店主との会話を楽しむ為に宝石店を訪れています。モードチェンジの件は、今では店主と私の共通の秘密になっています。
おしまい




