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汚部屋掃除をしましょう

――アーロットとの、あまりにも衝撃的な初対面から、数分後。

レアナは、静かに深呼吸をした。

(……うん)

吸った空気が、普通に臭い。

(……これは……無理)

まるでドブ川に顔を突っ込んでるかのような芳しさ。

感情を殺し、現実を受け入れる。

床には書類。机の上にも書類。椅子の上にも書類。そして――謎の粉と、謎の染み…………

壁は薄く黒ずみ、天井には蜘蛛の巣。窓は、いつ掃除されたのか分からないくらい曇って外が見えない。

もはや屋敷というより、研究廃棄場である。

「…………」

レアナは、ゆっくりとヴィクセンを見る。

「……ここで、寝てるんですか?」

「……えっと……」

ヴィクセンは視線を逸らした。

「今までは……旦那様、研究室の椅子で……」

「椅子」

「……か、床で……」

「床」

「……たまに机……」

「論外」

即答だった。

レアナは、額に手を当てる。

(この人……生きてるだけで奇跡では?)

一方。

部屋の隅では。

「ぴ……ぴぃ……」

アーロットが壁に張り付くように縮こまっていた。

「な、なな……なぜ……婦女子が……ぼ、僕の巣に……」

「巣じゃありません。家です」

レアナからの鋭いツッコミが飛ぶ。

「ぴぇっ……」

アーロット、さらに縮む。

完全に怯えた野生動物。臭いスメルつき。

レアナは一度、深く息を吐いた。

そして。

「……よし」

顔を上げる。

「まず、寝る場所を作ります」

「……え?」

ヴィクセンが瞬く。

「今日はここに泊まるので」 「この状態では無理です」

「た、確かに……」

レアナは袖をまくった。

「掃除道具、ありますよね?」

「……一応、倉庫に……」

「案内してください」

即断、即決、即行動。迷いゼロ。

その姿を見て、ヴィクセンは内心で叫んでいた。

(つ、強すぎる……この奥様……)


数分後。

レアナは、雑巾・バケツ・箒・古布を両手に持って戻ってきた。

「まず床です」

バン。

いきなり書類をまとめ始める。

「え、えっ!?」 「そ、それ、ぜ、全部大事な研究資料……!」

アーロットが慌てる。

「分類して積みます」 「捨てません」

「ほ、ほんと……?」

「当たり前です」

きっぱり。

その一言で、アーロットは黙った。

そして。

レアナの作業速度が異常だった。

・書類は種類別に山分け

・壊れた器具は即隔離

・ゴミは即袋詰め

・埃は徹底除去

無駄な動きゼロ。完全にプロの領域である。

 30分後。

 床が、見えた。

「……」

ヴィクセン、感動で無言。

アーロット、呆然。

「……ゆ、床が……」

「床です」

「……床がある……」

「あります」

この屋敷に文明が復活した瞬間だった。


 さらに一時間後。

部屋の一角に、簡易ベッドスペースが完成していた。

布を敷き。毛布を干し。換気も済ませ。臭いもだいぶ軽減した。

「……よし」

レアナは満足げに頷く。

「今日はここで寝られます」

「……す、すご……」

ヴィクセンは感動している。

アーロットはというと。

「……ぼ、僕の部屋が……」

「……人間用になってる……」

半泣き。

「嫌ですか?」

「い、いえ……」 「……その……」

もじもじ。

「……落ち着きます……」

ぽつり。

レアナは一瞬だけ、微笑んだ。

(……この人、なんか可愛い。臭いけど)


夜。

一段落して、レアナは椅子に腰を下ろした。疲れているはずなのに、不思議と気分は悪くない。

(……実家より、マシかもしれない)

あちらでは、やっても感謝されない。責められるだけ。

ここでは。

「……あ、あの……」

アーロットが小声で言う。

「……あ、あ、ありがとう……ございます……」

必死に絞り出した言葉。耳まで真っ赤。

レアナは、少し驚いてから。

「どういたしまして」

穏やかに答えた。

(……うん)

(ここなら、やり直せるかもしれない)

こうしてレアナの怒涛の1日目は終了したのだった。

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