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王命と嫁ぎ先

三日後の朝。

アシュフォード子爵家の門前が、妙に騒がしかった。

豪奢な馬車、甲冑の擦れる音、見慣れない紋章。

「……なに、あれ?」

庭に出たレアナは、思わず足を止めた。

そこには――

王城直属の使者団が並んでいた。

先頭に立つのは、深紅の外套をまとった中年の男。 胸元には、王家の紋章。

ただ者ではない。

「……まさか……」

嫌な予感が、現実になる。

「アシュフォード子爵家当主、ならびに家族の者に告ぐ」

低く、よく通る声が門前に響き渡る。

「王命により、調査および通達を行う」

その瞬間。

父も母も、顔色を失った。

「お、お待ちください……!」

慌てて父が前に出る。

「何かの間違いでは……」

「間違いではない」

使者は冷たく言い切った。

「貴家の財務状況、借入状況、虚偽申告について、すでに調査は済んでいる」

「……っ」

空気が凍る。

「王家は、これを重く見た」

「よって――」

使者は、一通の封書を取り出した。

金色の封蝋。王印。間違いなく、本物だ。

「これより、正式な王命を読み上げる」

その場にいた全員が、息を呑んだ。

「――アシュフォード子爵家は、財務不正および管理不行き届きにより、王家の監督下に置かれる」

「当主の権限は制限され、今後の財政運営は王の管理官が担当する」

母が、小さく悲鳴をあげた。

「そんな……!」

その場に崩れ落ちる。

「また、子爵令嬢ミリアと、ヴォルフラム子爵令息との婚約は、無効とする」

「……え?」

 ミリアが呆然とする。

「な、なんで……!? 私たち、結婚する予定で……!」

「両家ともに信用を欠いた以上、許可できぬ」

 容赦はなかった。

 そして。

「――最後に」

使者は、一度だけレアナを見た。

「長女レアナ・アシュフォードに関する命である」

レアナは、静かに背筋を伸ばした。

(……来る)

直感した。

「レアナ・アシュフォードは、グレイヴ伯爵家当主、アーロット・グレイヴとの縁談を命ずる」

場が、完全に静まり返る。

「王命による政略婚であり、拒否は認められない」

「即刻、準備に入ること」

「……え?」

母が声を失う。

「ま、待ってください……! どうして、レアナが……!」

使者は、淡々と答えた。

「貴家の負債処理の一環だ」

「伯爵家が一部を肩代わりする代わりに、縁組を結ぶ」

「つまり――」

冷酷な宣告。

「これは、救済措置である」

救済。

――誰の?

もちろん。

家の、だ。

レアナ個人ではない。

沈黙の中。

レアナは、ゆっくりと息を吐いた。

(……なるほど)

全部、理解した。

借金による信用失墜。婚約破棄、王命縁談。

全部、一本道につながっている。

私は、売られた。それだけの話。

でも、不思議と悲しくはなかった。むしろ……

(……やっと、終わる)

この家から、出られる。

帳簿も。借金も。両親と妹の尻拭いの日々。

全部、終わる。

レアナは、一歩前に出た。

「……謹んで、お受けいたします」

その声は、驚くほど落ち着いていた。

 両親とミリアが、振り向く。

「レアナ!?」 「ちょっと待って!?」

もう、聞く気はなかった。

「どうせ、私に拒否権はないんでしょう?」

淡々と告げる。

「なら、従います」

使者は、わずかに目を細めた。

「……賢明な判断だ」

そうして……レアナの人生は、この日、完全に別の方向へ舵を切ったのだった。



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