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2章 配”信者”達 01

「あちっ、あちっ・・・はむっ!・・もぐもぐもぐ・・・う~ん、うまぁ・・・」

「ムチムチもにゅもにゅのむにょーん・・・くりーみーでトロトロォ」

私とみどりっちは店の前にある日よけテントと可愛いベンチで作られた飲食スペースで

モエラの作った新商品の味見に付き合わされていた。

モエラは露店の商品提供用の窓から身を乗り出してタイ焼きを頬張る私達を見ながらニヤニヤしてる。

今、私の手にはとても食欲が湧きそうにない見た目の得体の知れないタイ焼きがプルプルと震えていた。

「うめーべ?ウチの新メニュー、生・白もっちりタピオカ・カスタードタイ焼き略して”生しりオカス焼き”は」

「とっても美味しいけど、あ、あんまり略さない方がいいかもね・・・てか白もっちりを略して”しり”は酷いと思う」

「わ、私もそう思うな・・・タピオカなんて”オ”しか使ってないし・・・単に生カスタードとかで良いかもね?」

「はぁ?!このネーミングセンスのどこに非の打ちどころがあるのか・・・画数占いまでしたのに・・・」

この人悪い人ではないんだけど妙に世間とずれているんだよね。

しかもコータローの腐れ縁という・・・。

前に付き合っていたことあるのかって聞いたら”あり得ない”って即答していたけど

今こうしてやり取りしてるとわかる気がする。

「おっ・・・あいつが帰って来やがったぞっ。なんかスゲー顔してるっ、カメラ撮れカメラ!」

モエラが笑いながら裏門の方角に向かってスマホを構えだしたのでふと顔を向ける。

「・・・・・・っ、ばく・・・・ぜーぜー・・・・・・せろっ」

(凄い顔しながらなんか叫んでるけど遠いから声小さいしよくわからん)

「・・・・・・・・・・ばく・・・・はっ・・はっ・・・・ろっ」

みどりっちも遠くからすごい勢いで迫ってくるコータローにしかめっ面をする。

「どうしたんだろう、ノートちゃんのおじさん?何か言ってる」

「待て待てぃ、では私が読唇術で読んでやろう・・・なになにぃ・・・

ばく・・・・・・にゅう・・・・・・・もま・・・・せろ・・・・爆乳もませろぉ?!」

「うらぁ!!コータロー!現役JKに向かって乳もませろとはなんだ!謝れ!乳のデカいみどりっちに謝れ!今すぐに!Now!」

「ちょっとっ~!!恥ずかしいっ!声大きい!!!」

みどりっちが私を組み伏せようとするが私はめげずにコータローに謝罪を要求する!

いい歳こいて何考えているんだ!帰ったら目の前で大事なメカニカルキーボード叩き壊してやるっ!

距離が目と鼻の先まで近づいてきたコータローにパンチを入れてやろうと私は身構えた。

「コータロー!おまっー」

「――――――――爆弾!!!身を守れ!伏せろ!」

「へっ?」

コータローがベンチに横並びに座っているみどりっちと私を力尽くで伏させ、ベンチを盾にするようにひっくり返した。

咄嗟に私はみどりっちを胸に抱き、それをかばうようにコータローが覆いかぶさる。

それを見てただ事では無いと瞬時に察知したモエラも露店の商品提供用窓をピシャリと占めて身を一瞬にして消した。

直後―――――――――。


・・・・・・・・・ズガ―ン!!!

小刻みに地面が揺れた後、凄まじい炸裂とも爆発ともいえる音が辺りに響き渡った。


「・・・嫌っ!?何?何なの?!怖いっ!」

「みどりっち、まだしゃべっちゃダメ!」

「暫くはジッとしてろ!」

爆発音の後、痛いほどの静寂な空気に包まれた後に焦げたような匂いが鼻に付く。

これは決してモエラ焼いていたのタイ焼きが焦げたわけじゃない。

モノが焼ける、鉄分の混じった不快な火事特有の匂いだ。

みどりっちが私の胸の中で震えている。

怖いに決まっている、私も怖い・・・。

震える私達を感じたのかコータローが安心させる様に言う。

「大丈夫だっ、こっちまで爆発は及ばないはず・・・・モエラ!聞こえているか?!ちょっと顔を出して校舎の方を見てくれっ」

「――――っく、たく何事だぁ?!」

モエラは驚愕した様子で恐る恐る窓を開けて校舎の方を覗き見た。

「・・・・あれは南校舎か?堤、二階だ。二階の端辺りから真ん中あたりまでスゴイ焼けてるぞ、真っ黒だ」

「物理教室だ。物理教室に仕掛けてあった爆弾が爆発したんだ」

それを聞いて私は驚いた。

「えっ、ちょっと待ってっ。まさかコータロー爆弾作って爆発させてきたのっ?!ま、まさかそんなことまで」

「嘘っ、ノートちゃんのおじさんエロテロリスト?!」

「堤っ・・・留置場までなら現金あれば大好きなコーヒー飲めるからなっ、すぐ差し入れてやるっ・・・ぐすぅ!」

「おい待てお前ら、ふざけんなし」

冗談もさておき、立ち上がって身を整えながら爆破され黒煙を上げる校舎を呆然と眺める。

辺りはやがて次々と住民が飛び出したり、窓から顔を覗かせたりしている。

やがて校舎の方では防火ベルの音があちこちで鳴り響き人々の叫び声や怒号が聞こえ始めた。

「・・・まさか、こんなことになるとは」

「コータロー、一体どういうことなの、説明してケロ・・・」

立ち尽くすコータローの腕を掴み詰問する。

「待てノートン、とりあえずあんたたちウチに入んな。ここじゃ人目もついてマズい。しかも堤、あんたのあの様子じゃ爆弾見たんだろ?

なら尚更だ。みどりっちも来なよ、茶でも飲んで落ち着きな」

モエラはそう言うと家の中に戻っていって玄関の方へ向かった。

「・・・そうだな、少し茶でも飲んで落ち着くか」

「いったい皆さん何者なの?」

みどりっちの困惑した様子と険しい顔のコータロー。

事態は思わぬ方向に向かっているようだった。

それにしても、私、なんで昔からモエラにだけ”ノートン”呼ばわりされるのか・・・。

私はセキュリティソフトか。


「どうよ?」

「とりあえずSNSからソーシャルニュースまで大騒ぎ」

「海外サイトまで話題になってるよ・・・”自称正義の味方の行き過ぎた行動”だって」

「さすがみどりっち、英語ほぼ寸で訳せるなぁ」

「こっちはナイトハルトのバッシングが酷いが支持派と不支持に完全に割れてるな。

まあ今まで恥さらし暴露動画が一転してテロ行為だからな。それでも根強いフォロワーが居るのがたまげるが」

外の殺伐とした空気とは裏腹に家の中のタイ焼きの香ばしい匂いが漂う居間で私達一同はとりあえず情報収集することにした。

なお一同は今時は珍しい円形のちゃぶ台にどかっと腰を下ろして傍から見れば緊張感ゼロのありさまで

皆だらけたような格好で(みどりっち以外)スマホやらノーパソやら弄っている。

なお、コータローの前には先程の生しり・・・もとい新タイ焼きが置かれていたが食べてない。

まあ甘いの好きじゃないからね、私が後で食べてあげよう。

「そうだ、モエラお前んとこTVあるだろう?持ってきてくれよ」

「はぁ?隣の部屋にあるから勝手にとって繋げよ。なんで私が肉体労働しないといけないんだっ」

・・・・凄すぎる、どおりで行かず後家な訳だ。まあ、本人を目の前に口が裂けても言えないけど。

「たったの数キロのパネルだろうにっ、ったく」

コータローはジジ臭く立ち上がると隣の襖をすっと開けた。

「ぬおっ親父さんっ!!」

「嫌っ!なにあれ死体っ?!」

「げっ・・・トランクスの隙間から見えちゃったよ」

「ノートちゃんっそんなこと・・・」

襖を開けるとモエラの親父が大の字でパンイチで寝てた。

結構大きい音なったのにこの神経の図太さは素直にスゴイ。

「・・・ぬぁ?ぬおぉおおおお、おお、堤かぁーなんだぁいきなり」

親父さんが寝ぼけた様子でコータローに気が付いた。

「起こしてごめん親父さん、TV借りるね」

コータローは親父さんをのっしのっしとまたいで液晶パネルテレビの配線を抜いて担ぎ上げた。

「堤、ついでに娘も持って行ってくれんか~もう、うるさーてかなわんわぁハハ」

「死ねくそじじぃ!誰が飯作ってると思ってんだオラ!」

「こらモエラ、両親に向かって死ねとかいうな!すんません親父さん、お邪魔しました」

取り急ぎ襖を閉める。

「貸してコータロー、私配線してあげる。そう言えば、コータロー物理準備室で爆弾見たんでしょ?

まさかその時誰か先生とかに見られなかった?あと玄関口にある防犯カメラとかも。校舎内はプライベートの問題で

カメラは無いけどいずれにしても見られてたらヤバくない?」

私の問いかけにコータローの顔が険しい顔つきに変わる。

「・・・物理準備室に入る前に女性教師に一人あった。それ以外には遠巻きでない限りは見られてない・・・ハズ」

「カメラは?」

「・・・これから防犯カメラのクラウドサーバーに接続して消す」

あちゃーどうすんの。爆弾仕掛けるほどの度胸がないのは解ってるけどただでさえ御堂のおっさんに目つけられているのに

二人そろってお縄になるなんでことになったらとゾッとする。

「えっ?えっ?えっ?ノートちゃんのおじさん警備員さんとかもしてるの?

こんなことまで出来るなんて・・・・まさか喫茶店だけじゃ生活できないの?わたしお父さんに頼んで―――」

「百合園さん・・・これが、俺と、そしてノートのやっているもう一つの仕事だ」

コータローが弄っていたノーパソをちゃぶ台の上で九十度回転させてみどりっちに見せた。

そのディスプレイには町中の防犯カメラの映像が所狭しと映し出されていた。

「なにこれ・・・?嘘、もしかして、ええっ?!」

「まあまあ、みどりっち。少なくともこいつらはみどりっちが思うような行き過ぎた事はしないよ。

こいつらもいわば”はみ出し”者ってわけ、”ないとあると”と似たようなもんだな、ふははははは」

「ナイトハルトですね・・・でも、でもでもでも、これは犯罪行為ですよっ、これはイケナイ事・・・」

「ノート、当然百合園さんももう仲間だよな?」

「っ!!!あ、当たり前だよっ、みどりっちが私達を売る様な真似するわけないって、だよねみどりっち?」

クソコータローの奴っ、みどりっちがレズっけがあるって解っててワザと私に振ったなぁ~

「でもでもでも、ノートちゃん、これは、だって、その、あの、その」

ああ、さすが県職員の娘。変な所正義感があるっ。

こ、こうなったらぁ~仕方がない・・・”マリみて”とかいう昔見たアニメの手段を使おうっ。

「み、みどりっち~ちょっと、ちょっとこっちきてぇ」

「へっ?ええっ」

私は急いで配線を終えてみどりっちの手を引っ張って一旦居間を後にした。

「どこに行ったのあの二人?」

「どうでもいい。今はそれどころじゃない、TVつけてくれ」

この借りは高くつくぞぉー覚えてろコータローっ!グラボは超・ハイエンドだぁ!


・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・・・・?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!

・・・・・・・・・!!!!!

!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!


スーーーーっ。

居間に戻ってきた。

「あ、戻ってきた。何やってたの二人とも・・ってかみどりっち顔赤くない?」

「ノートちゃんは正義」

「はぁ?」

モエラが素っ頓狂な声を上げる。

「ノートちゃんは正しい!これは世界の摂理!」

「よかったじゃないか、無事”相互理解”出来て。百合園さん、これからもよろしくね」

白々しくコータローがタイ焼きかじりながらにんまり笑っている・・・このヤロー。

「コータロー、ハイエンドね」

「ミドルハイの予定では」

「あーあー、みどりっち聞いて?あのね、このおっさん・・・」

「ハイエンドです」

「即納な」

うううううっと声ならざる呻き声を聞いたところで状況を確認する。

「結局防犯カメラはどうだったの?」

コータローは顔をくしゃらせながらノーパソを見せる。

「・・・既に消されていたよ、それも過去一週間ありとあらゆる周辺データも。

実はあの時、俺が行く前に修理業者の先約があって俺もそこに便乗した感じなんだ。

つまり爆弾を仕掛けたやつは俺より先に入ったその修理業者が怪しい、消去した動画データも同じくな。」

「マジか・・・ということは朝の集会のときやっぱりナイトハルトはウチの高校に来たんだ・・・」

私は、思わず血の気が引いた。

ナイトハルトに最初にケンカを売ったのは私だ・・・。

でもまさかこんな過激な行動に出るなんて夢にも思わなくて。

きっと校舎の爆発は私のせい・・・。

「いやそうとは限らないよ、見ろよノートン、TV」

「え、何々?」

モエラがニヤニヤしながらリモコンでTVを指す。

眼前に現れた動画映像に思わず戦慄を覚えた。

「何こいつら・・・・・」

TVに映るアナウンサーが険しい顔で喋りだす。

”それでは、先程校舎に爆弾を仕掛けたと称する者がアップロードしたと思われる動画をもう一度再生します。

そして後ほど特別ゲストの先生にお話をお伺いいたします”

ピッ!


”我々は、ナイトハルト様を信仰する親衛隊――――国境なき騎士団!”

「うわぁ・・・うわぁ・・・・」

「はは・・・コータロー・・・暫く旅行でも行こうか?」



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