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1章サイバーランナー 05

午前11時頃―――

県立右左高等学校付近の道路。

(かぁ~やっぱり、駐車場は無理かな)

案の定、学校付近に近づくにつれて車の数は多くなり(大方保護者の車かマスコミ関係)

このまま進めば立ち往生は確定だった。

「しょうがない、いつものとこ行くかぁ」

俺はボヤキながら車を脇道へと滑らせる。

そこから程なく、校舎まであと数十メートルといったところに民家の一階が露店になっている所に出た。

一か所だけ駐車場スペースがあり、そこに切り返すことなくバックで一発で駐車して

軽くクラクションを鳴らし、車を降りた。

「こんちわー。おーい、モエラ!」

駐車場横の露店になっている一段高い窓に向かって叫ぶと、案の定あいつが眠そうな顔をしながら窓を開け姿を現した。

「・・・あぁ、なんだよ堤かぁ。まだウチやってねーぞ、昼飯かぁ?」

「お前まだ寝てたのか?いい加減30も超えて昼まで寝るなよっ。親父さん、大変だろ」

「いいんだよ。あの老いぼれ、昨日も飲んだくれて帰ってきてんの。早く死なねーかなぁー死んだら

店とっとと畳んで遺族年金で暮らしたいのに」

こいつ・・・わざと奥にいる親父さんに聞こえるように言ってるな。

「酷いこと言うんじゃない、親父さん大変な仕事してんだからしょうがないだろう?それよりも駐車場ちょっとだけ貸してくれ、

ノート迎えに行かなくちゃいけ―――おいちゃんとシャツ着ろっ、片乳見えるじゃないか」

「こんな、30過ぎた40も近い女の乳見て何が楽しいのか」

「そんなこと誰も言ってないだろうっ、俺は駐車場を借りたいんだ」

「なんだよタイ焼き買いに来たんじゃねーのかよ、乳見にきたのか?」

「なんでそうなるんだ、駐車場だよっ駐車場」

「乳をちゅー?!何考えてんだお前」

「だ・か・ら!ノートを迎えに来たの!もういい、暫く車置いとくからな」

この寝ぼけた自堕落かつ怠惰にもかかわらずそこそこの美貌を持つ女はみなみ 萌絵もえ通称”モエラ”。

俺が高校の時のクラスメイトで腐れ縁だ。

この右左高のすぐ近くに住んでおり店舗兼住宅のタイ焼き屋をやっている。

学生の時に店に寄った時はこんなやつとは絶対にお近づきになりたくないと思っていたが

二十年近くたった今、唯一顔を合わせる旧友となってしまった。

人生解らないものである。

これ以上かまってる訳にもいかず踵を返すとモエラに呼び止められる。

「おい待てよ。あれだろっ?あれ、ないとあると」

「ナイトハルトな。よくわかったな」

「当たり前だろ・・・ここは右左高不良のたまり場だからな。ねぇ、またなんか悪いことしてんだろ?」

「してない。ノートを迎えに行くだけだ」

「絶対嘘。お前嘘つくとき髪の毛弄るからな」

「えっ!!マジッ!?」

「嘘」

こいつ・・・ふざけやがって・・・。

「なんかうまい話あったらさ、教えてよ。協力するからさ」

「協力することなど何もない」

「いいじゃん。最近スマホゲーに課金し過ぎでヤバいんだよ」

「金をドブに捨てる様な真似して・・・そんなことに金使うぐらいなら本の一つでも買えってかウチの店で落とせ」

「えー私コーヒー苦手なんだよね、甘いのが―――」

「ハイさよなら」

俺は素早く踵を返して右左高へ急いだ。

後ろの方でモエラが背に向かってほざいていたがとりあえず今は無視しておこう。

だが後で話だけは聞いてやらねば。

アイツは俺達の事を知っている唯一の人間なのだから。


県立右左高。

校門前にたむろするマスコミどもを掻い潜り、保護者証を警備員に見せていそいそと校庭にたどり着く。

既に生徒の大半は下校しているのか人の姿はまばらである。

(ノートは・・・ああ、いたいた)

丁度学年別に分かれた靴箱の近くの前でやたらキャピキャピするクラスメイトと肩を並べてボーっと突っ立ってる。

(無防備な奴だなっ、ちゃんと情報収集はしたんだろうか?よし後ろに回り込んで両手で浣腸でもしてやろう)

そう思って後ろへ遠回りに回り込み身をかがめて両手を組んで構えた時に幼き頃の記憶がよみがえる。

(そういえば・・・小学生の時、友達の男子に浣腸してやろうと思って間違って

ズボンを履いていた女子にやってしまった時があったな・・・)

のちに右左小の黒歴史と呼ばれる記憶がよみがえる。

(しかも浣腸の勢いが良すぎて思わず前のめりになって、あらぬ方向に刺さってしまい職員会議モノの流血事件になった)

(初めてがクソガキの全力浣腸とは・・・ちなみにやったのは俺のクラスメイトであって俺ではない、断じて)

名誉のために言っておこう。

「・・・さっきから後ろでかがんで何ブツブツ言ってるの?超キモイんだけど」

「ノート?!お前何時から気が付いていたんだ?!」

「あなたがこっちに向かって歩いて来た時からだよ・・・呆れてみてたの気づかないかなぁ」

「ノートちゃんのおじさんっ、あのっ、こんにちは」

しまった。友達もいたのを忘れていた。

俺はすっと立ち上がって、ジャケットを整える。

「ああっと、百合園さん。こんにちは」

見れば百合園はノートの腕を掴んで離そうとしない。

そうだった、この子ちょっとレズッけがあったんだった。

「みどりっち~迎えが来たからさっ、もう帰ろう?みどりっちも迎えにいてるんじゃない?」

「私は両親仕事だから、ノートちゃんと一緒に帰りたいなぁ?ねぇ、ノートのおじさん、送ってくださいお願いしますっ」

参ったな・・・この様子ではノートは絶対に探りを入れていないな。

「わかったわかった。モエラの店に車を停めているから、百合園さんも一緒に帰ろう。そうだノート、ちょっといいか?」

仕方ない、ちょっと荒っぽいが実力行使に打って出よう。

俺は百合園さんからノートを引っぺがすとひそひそと耳打ちした。

(サーバー室は?)

(警察連中でパリピ)

(一番繋げそうなのは?)

(二階物理準備室、パス有り)

「なぁに?ノートちゃん、どうかしたの?」

「あああ、何でもないよ・・・タイ焼きせがまれてもこのおっさん手持ちがないとか言ってやんのっ、馬鹿だよねっへへ」

「まかせてよぉ!私お金持ってるしっ!おじさんの分もおごるねっ」

流石上級国民・・・百合園さん家の両親は県の職員だからな。

誰かさんとはちがうよねぇ~。

なにおぉお・・・いつか必ず・・・必ず・・・とほー。

「ああっ、た、助かるよぉ。じゃあノート先に行っててくれ。俺は先生に挨拶してくるよ」

「う、うわぁかった!じゃ、じゃあ先行くねぇー行こうかみどりっち~」

「はぁーい。おじさん、また後でね」

思わず声が裏返ってしまったがとりあえずチャンスはできた。

俺は二人に相づちすると振り返って気持ち早歩きで校内に入っていった。


二階・物理準備室。

最近の高校は使用していない教室は基本施錠される。

だが、幸い右左高はアナログ部分がまだ根強く残っており準備室のカギは簡単なシリンダーロックだった。

「このっ、うりやぁー、て、てやんでぃい!」

くそ、久しぶりのキーピックだからな、ってか手入れぐらいしろよ、ガタガタじゃないかこの鍵。

「こ、この・・・いい子だから、が、我慢して、もう、もう少しで、は、入るっ、は、はいっ――」

「何なさっているのですか?」

「あいっ!やっ!えと、その、あの、えと、わ、私、わたしの、いや、私、通信業者のモノでぇ・・・」

ヤバいっ、なんだこの女教師いつの間に背後へっ!なな、なんとかごまかさなくてはっ。

「あ、修理の方ですか?お伺いしてますよ。その扉、合鍵じゃあ中々開かないんですよ、ちょっと待っててくださいね」

「マジか・・・」

若い女教師は踵を返して電子ロックの物理室の扉を開けて中に入るとすぐに内側から鍵を開けて物理準備室から出てきた。

「どうぞ、終わったらそのままにしておいてくださいね。後で施錠いたしますので」

「どうもありがとうございます」

教師はそのまま廊下へと戻っていった。

(助かった・・・)

どうも本当に修理の予定があったらしい。

手に持っていたノートPCと小物が功を奏したか・・・しかし何故だ?

予定があったとはいえこの騒乱の中、キャンセルしてもいいようなものだが。

まあいい。とっととお邪魔してやることやってしまおう。


物理準備室、室内。

「綺麗だな・・・いつの間にこんな内装改装したんだ」

俺が知っている時が留まったかのような半ば放置されたイメージとは違い、室内はきれいに一新され

所狭しと専用器具や専門書が棚に敷き詰められていた。

「さて、やることやってサッサと退散しよう」

壁づけされている机にPCが二台並んでいた。

内一台は専門機器に取り付けられたスタンドアロン機だがもう一台はLANケーブルに繋がってる。

取り急ぎ小物入れから小指程度の超小型PCを端子に繋ぎ、物理教室PCを立ち上げてノートから送られてきた

パスを急ぎ入力する。

ちなみに先程繋いだ超小型PCは遠隔操作用だ。

スペックこそ低いものの比較的遠くからでもアクセス可能で、

不用意に抜いたりすると内部メモリが全消去され証拠消しさる優れものよ。

証拠と言えばもちろん、ここに入るときから手袋はしている。

念には念を入れて、どろぼうみたく指紋を残すわけにはいかない。

・・・というかやばい、これじゃあほとんど泥棒じゃないか。

もっとスマートなのがウチのモットーなのに。

そして数秒もたたないうちに画面にはオーソドックスなデスクトップ画面が表示される。

「よしよし・・・ネットワークは繋がってるな、共有フォルダもある・・・NASもフルアクセス可能、ザルだなぁ」

俺は続いてノートパソコンを立ち上げて物理教室PCに接続する。

(粗方情報は頂いていこう)

実は自分の母校と言うこともあっていままでこの学校の事に関してはあまりあれやこれやと探りたくは無かったが

今回だけは状況が違う。

(この一件が終わったらデータは消そう・・・)

データを入れている間、物理PCから適当にログを漁る。

(これは・・・)


Connected To N.H@192.160.455.234


これはナイトハルト・・・か?・・・ここに来たのか?

いや、N.Hなんていくらでもあるし考えすぎか・・・

だが気になる、妙に。

うーん。

俺は立ち上がると暫く周りを見回してみた。

「・・・・・・・・・・・・・・・」

この部屋・・・異様だ。

そうだ、さっきから気になっていた。

内装が新しくなったから変に感じたんだがそれだけじゃない。

なんか、そう、第六感みたいなのが”変”だって訴える。

その時、中央の専門機器に繋げられたPCに目が留まる。

専門機器はガラス張りのボックスで中央に対象物を入れて耐性などを検査する機械だ。

何かが設置された状態で放置されている。

「うーん、気のせいか・・・?」

不意にPCの後ろ側のインターフェース部を覗いた時、思わぬものに目が留まる。

「あれっ?」

超小型PCがUSB端子に刺さってる。

俺が使っているものと同じものだ・・・。

でも何故スタンドアロン機に?ネットワークに繋がっていないのに。

そう言えばこのスタンドアロン機、スリープ状態みたいで画面が消えているのみで本体はアイドル状態のようだった。

(修理の予定・・・部屋に入ってからの違和感・・・スタンドアロン機への遠隔操作PC・・・)

俺はディスプレイの電源を入れた後、キーボードを押してスタンドアロン機を復帰させた。

眼前に現れたのは画面目いっぱいの67という数字だった。

(??)

見ているとその数字は66・・・65・・・と数を減らしてゆく。

いきなりの事に呆気にとられ、不意にガラス張りボックスの中をマジマジ覗き見た。

固定された粘土のような質感の大きなブロックにコードがいくつも付けられている。


「・・・・・・セムテックス(爆弾)だ」


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