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7章 天に”登る”雷 02

「そうだ、そこは市外の警ら隊が担当する。四班はそっちへ回れ――そっちじゃない、急げ」

「失礼します。御堂さん、府警サイバー対策室から御堂さん宛に―――」

「後にしろ!今それどころじゃーー」

「室長ですよ?!出られた方がいいのでは・・・」

「チッ、このクソ忙しい時に!」

御堂は渋々パトカーの無線を取り、打って変わって丁寧な口調で室長への応対をした。

彼はとても苛立っていた。

ただでさえ険悪なムードが絶えない息子の突然の事故へ駆けつけることも出来ずに突如として送られた

ナイトハルトの犯行声明に翻弄されることとなっていたからである。

(ああ、ついに俺は親失格だな、いや、事故で重傷を負った家族を見捨てるんだ、人間失格か・・・)

それはちょうど大学での火災事故直前の事。

自身の本来所属する府警のサイバー対策室宛に現在ではほぼ使われることが無くなったFAXが届いたのである。

そこには簡素に以下の事項のみが書かれていた。

”右左大学のスパコンはもうすぐ火災に見舞われる。今すぐに管理マニュアル####の〇〇項目を実施すること”

”翌日の陸上自衛隊右左駐屯基地の解体ミサイルは撤去・運搬中に族に奪われる可能性・大。対策すべし”

”――――ナイトハルト”

これらはいずれも完結かつ簡素であるが警察の重い腰を上げるのは十分すぎた。

なぜなら、これらの事柄はいずれもまず一般人が知る事はあり得ないからである。

スパコンの管理マニュアル####の的中はもちろんの事、ミサイルに関しては関係者の中でも一部しか知り得ないことである。

しかもその二項目はいずれも関連性が無く、同時に知り得ることなど間違いなくありえなかった。

つまり、これらの情報はナイトハルトなのか、それとも何者かが取得して何らかの事件を起こそうとしているのは必須であった。

そしてそれは警察が動き出す頃に直ぐに始まった。

大学での火災である。

幸い、すぐにスパコンの開発・管理会社に連絡が付いたこともあり核心的な部分は保護することには成功したものの

ミサイルまで毒牙にかかっては警察の威信にかかわる事である。

犯行声明を送られた府警は直ぐに対策本部を設置、そして当然、右左市にナイトハルトの調査で転属していた

御堂に白羽の矢が当たるのも至極当然であった。

「――――はい、それでは。(ガチャッ!!)おいビームライト持ってきてるだろ!あれ全部行動班に渡してやれ!」

「しかし、不用意な明かりは近隣の住民に」

「大丈夫だ!この辺はほとんど商店だろうが。いいか、不審な奴、写真撮ってる奴、うろうろしてる奴、浮浪者まで

片っ端から職質しろ!嫌がるようなら護送車直行だ!早く―――」

明け方にもかかわらず覇気のある声を出す御堂の元へ二組の自衛官が駆けよってきた。

「失礼します。府警の御堂様でしょうか?」

「ああ、そうです、既に府警から連絡が来てると思いますが?!」

御堂は苛立ちを隠せずに声を荒げる。

「本部担当官より伝言がございます、少しお耳を――」

「はあ?この状況でーーー」

仕方なく、耳を士官へ向ける。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。

「・・・・・・・・・・・まさか、そんな」



同時刻。国道陸橋付近にて。

「もしかして、もうバレた?」

モエラは呆れたようにメシクワセのメンバーに無線で問いかける。

「いや、どうも違うみたいだ。あの人海戦術の様子ではまだ暗中模索の域だ」

コータローはバレないよう小型ナイトスコープで辺りの様子を探る。

「おっと」

すぐ横にバディを組んだ警察官のライトが当たりそうになったので慌てて身を潜める。

「私達じゃないにしろ族が潜んでいることをチクった馬鹿がいるようね。まさかナイトハルト自身?」

ダイヤは小型端末を操作しながら悪態を付いた。

「いや、その可能性は低い。なんせあいつ自身もこいつを狙っているからな。サツにまとわりつかれてウザくないわけがない」

袴田先生がドローンや外部カメラの映す映像を見ながら哨戒兵をチェックしている。

「どうする?今更後には引け―――」

「やめよう」

いきなり啖呵を切ったのは光葉だった。

「・・・・・・なぜだ?」

コータローは冷静に切り返した。

「・・・・・・親父がいる。もしかしたら俺から情報が漏れたのかもしれない」

「なんか思い当たる節があるのかぁ?」

隣の席に座るモエラは怪訝そうに光葉を見つめる。

「いや、お前らに合う前から盗聴器、電子機器の類は極力警戒してきた。自身の情報もだ。

しかし、しかしだ。親父の顔を見た時から胸騒ぎが収まらない」

見れば光葉の表情は強張り、比較的暗い車内でも冷や汗をかいているのが解る。

「お父様と、あまり仲がよろしくないとお聞きしておりますわ」

「まあ、現職の警察官でしかも管理職クラスだもんな」

メシア嬢や袴田先生が少々困った様子で光葉に言葉をかける。

「頼む、何とか仕切り直しでーーー」

「駄目だ。ナイトハルトの決闘はもう始まってる。それにこちらに正義があろうがなかろうが衛星ジャックをして仕出かすことなど

ロクな事じゃない。それこそ光葉、これはお前自身の希望だろう?」

「それはそうだが・・・しかし―――」

”ビィィイイイイイイ!”

車内に響き渡るアラート音。

モニターでは先頭車両が走行中に決して閉じることのない踏切が何故か降りてパニック状態になっていた。

赤い警告灯が煌々と光り、カンカンと小気味いい音を立てる。

遂に作戦が始まったのだ。


「やったぁぁぁぁぁあ!ざまーみろナイトハルト、先制攻撃ファーストアタックはこっちのもんだぁ!」

それまで沈黙していたノートが嬉々としてキーボードを叩き始める。

「来たか?」

「狙い通り!準備は良い?頼むよ光葉さん!今日はあなたが複座型PCのサブなんだから!」

「くそっやむを得んか!」

光葉は気持ちを切り替えてモニターに向き直る。

「今兵隊さん達は前方にみんな注目して集まってきてます。目視確認!・・・ホントに大丈夫なんですか?

けが人とか出ませんよね・・・」

百合園さんの戦々恐々とした声が無線に響く。

「心配ない、大丈夫だ。第一段階”踏切”ジャックは成功した、メシクワセ、行動開始だ!」

「しかしいつの間に司令塔になったんだ?まあいいか、堤、先行くよっ!」

「くそっ、早いなっ。メシクワセ第二段階に移行する」

陸橋下に身を潜めていた二人はカモフラージュを解き、上からロープを垂らして一気に降下する。

その真下はちょうど例の衛星システムが入っているコンテナを積んでいるトラックがあった。

ダイヤ、堤は頑丈に施錠してある後方のコンテナの電子ロックに吸着式遠隔端末をセットする。

「ノート、頼む」

「任せてッ」

”カタカタカタ…ピッ!”

パスコード液晶がデジタルコードが複数の数字を羅列し、ロックは難なく開いた。

「アナログ(鍵穴式)じゃなくて現代風で助かったぜ・・・最悪破壊も考えてたからな」

「なにぶつくさ言ってんだよ!早く行くよ」

堤とダイヤは隊員達が踏切に気を取られている間に素早くコンテナ内に忍び込む。


「あった、これか・・・資料で見たやつよりかなり歪だな」

「この手の奴は受注品オーダーメイドがほとんどだ。数だって知れてるしモノによっては全くの別モンにもなってるよ」

二人の目の前には無機質かつ如何にも軍用と言ったペイントが施された金属のボックスが鎮座している。

コンテナ中は薄暗く無機質で、天井に僅かな補助光だけが付いている中でそれはとても異質に見えた。

見ればあちこちに無数の結束が施されている。

「光葉の情報ではソフトウェアはともかく航空旅客機に搭載されている衛星通信システムとそう変わりないという事らしい。

手筈通りに中のアクセスモジュールまで”ガワ”を外すぞ」

「えっ私が?!こういうのは堤がやるもんだろ」

「こういう時だけ男譲りにするのやめてくれよ・・・しょーがない、ちゃんとサポートしてくれよ」

堤は手引書の映してある小型タブレットをダイヤに渡すと急いで特殊電気工具を取り出した。

あらかじめシミュレーションを実施していたためか二人の手際は素早く、まるでF1マシンのピット作業の様に

手こずることなくアクセスモジュールまでたどり着く。

「こちらメシクワセ・・・中の様子が見えるか?」

(ザーザー・・・見えるけどもうちょい明かりが欲しい、光葉はどう?)

(そうだな、目的のモノには間違いないが少し確認しずらい、ズームできるか?)

ノートや光葉が渋い声で言う。

「わかった。これでどうだ?」

堤は今日の作戦の為につけていたメガネのフレームを弄り、持っていたペンライトをつける。

フレームは外観からは全く判断できないような小型カメラが搭載されていた。

「どうだ?行けそうか?」

ダイヤが応答を急がせるが向こうから反応がない。

(・・・・・・・・・・)

「どうした光葉?何か問題発生か?」

暫くすると、震えた声で応答が帰ってきた。

「どうしたも何も・・・既に付いているじゃないか」

「何っ?!」

堤は急いで中を確認した。

最初は気づかなかったものの、改めて確認したそれに目を見張った。

そのアクセスモジュールのコネクタの一つには今まさに自分たちが付けようとしている遠隔操作機の

おそらくは上位モデルらしいものが既に取り付けられていたのだ。

「マジか・・・もしかして先を越され・・・でもどうやって。まさ駐屯基地に忍び込んだとでもーーーーーー」

その時である。

ガチャっ!

「――――――!!!!だれだ?!」

「動くな」

ダイヤと堤が物音に気付いて振り向いた先には、拳銃を構えた自衛官が二人立っていた。


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