4章 フライングボルトキック 01
「おい…」
「すっげーここが大学かぁ私にとって大学なんて”ヤ〇サー”見つけるグズどもの巣窟だと思っていたよ」
翌日、澄み渡る青空の下。
行き交う若者たちの中。
「あのなぁ…」
「ずっごいですねぇー流石県下一!私も絶対受験してここに行くんですからぁ」
「みどりっちここ第一志望希望なの?まあ近いし偏差値まあまあだし良いんじゃね?私は大学なんて御免だけど」
その流れに逆らうかのように。
「お前ら…」
「右左大の学食ってどの棟だっけ。一般人も使えるんだろ?混まないうちに早くいくぞっ」
「あれ?お前右左大卒じゃなかったっけ?」
「…中退だよ畜生め」
「えっコータローマジ?!何やってんだか…」
「ぷー、バカでぇ」
「そうなんですか?復学しましょうよっ!そしてノートちゃんと一緒に大学生活えんじょいっ」
アウトローな五人組が佇んでいた。
ここは県立右左大学。
歴史は古く、県内でも屈指の大学である。
俺たち一同は今、ダイヤの案内によってクローバーが在学しているというこの大学の医学部へ訪れることとなっていた。
幸いにも今日はオープンキャンパス。
半ば誘致のための催しも多く開催されており
俺たち以外にも数多くの高校生や関係者、そのほか一般の人間などで半ばお祭り騒ぎだ。
「ふっざけんなしっー!」
ダイヤはお気楽で観光気分な俺やノート、百合園さん、モエラの俺たち四人を激しく叱責した。
「あのなぁ、今日がたまたまオープンキャンパスだったとはいえ、馬鹿面下げて敵の懐に飛び込もうとするやつがどこにいる?!」
「あーい!ここでっすっ!」
もはやダイヤはモエラの物言いに呆れはて言い返すこともできなかった。
「大体、昨日まで敵だった奴にホイホイついていくお前らも大概だが、その乳のデカいJKはなんだ?!
友達まで連れてくるなんてどうかしてるぞっ」
ダイヤは顎で百合園さんを指す。
すると百合園さんは態度を急変させダイヤをキッっと睨みつけた。
「ダイヤさんっ、ただの脅しだったとはいえノートちゃんにナイフを突きつけるなんて許しません!事が終わったら覚悟してくださいよっ」
するとダイヤは乾いた笑いとともに例のキッチンナイフを取り出した。
「なっ?!」
ダイヤの思わぬ行動に各々顔を一気に強張らせた。
「…触ってみろよ、ほらっ」
「えっ」
そのナイフを百合園さんさんの前に髄っと突き出す。
百合園さんは眼前に突き付けられたナイフを警戒したものの直ぐにその違和感に気付いたのか恐る恐る指先で先端をなぞる。
「…柔らかい」
「自分の乳より?」
「モエラさんっ!それより、これ…作りものですよ」
「ええっーーーー!」
思わず面食らった。
ノートもそれを手に取るとプヨプヨした触感に愕然としていた。
「嘘でしょ…」
「まあ、あの時は暗がりだったからねぇ」
「マジか…」
「あんた達そんな事でよく裏社会でやっていけてるわね。よっぽど腕がいいのか鈍感なのか」
ダイヤのあっけらかんとした態度に俺は気がすっかり抜けてしまっていた。
「はあ、こんなことなら昨日もっとスマートにやっていればよかった」
「そんなこと言って。私が来るまで半泣きだったくせに」
モエラが意地悪そうに俺を覗き見る。
「馬鹿っ、あれはそのあの…おしっこを我慢しようとしてただけだっ」
「乙女の前でおしっこなんて言わないでくださいっ」
「そうだよ、しょんべんだよしょんべんっ。ずっと我慢してたんだって」
「モエラさんっ!」
行き交う人々に紛れながら一同は馬鹿話に花を咲かせ始める。
「おい堤よ、お前らはいつもこうなのか?」
「なはは…まあこれだけにぎやかの方が返って怪しまれないもんよ」
ダイヤは昨日とは打って変った一同にただただ唖然とするばかりであった。
「オープンキャンパスの方はこちらで受付をお願いしまーす。名札とパンフレットをお受け取りになり、アンケート用紙を…」
「さあ行くぞ馬鹿どもっ、”医学部”棟は本棟から渡り廊下で行ける。今日はツアーをやっているらしいからそれに便乗するぞ」
「馬鹿どもはひどくね?」
「来て早々トイレに行こうとするやつは馬鹿どもだっ。ほら早くしろ」
と、ダイヤが急かすもモエラのみならず俺を含めた一同がもじもじし始めた。
「なっ…もしかしてお前ら…」
まるで緊張感のない一堂にダイヤは心の中で心底帰りたいと思っただろう。
「……早くいってこい!!」
右左大B棟(医学部)。
一通りの手続きを済ませた俺達は目的のクローバーを目指すべく医学部のオープンキャンパスツアーに参加していた。
「わかってるな、ここからはあまり目立つことはするなよ(ひそひそ)」
「了解だ、しかしここが医学部かぁ、思ったよりも普通だな。もっと手術台とかあるかと思った(ひそひそ)」
「実験器具の様なものはあちらこちらで…どっちかっていうと生物やバイオ系というか…(ひそひそ)」
「どうしよう…緊張してまたもようしてきた(ひそひそ)」
いま俺たち一同は医学部の
「言ってるそばから貴様らというものは…」
ギュウっ!
「ひぎぃ!」
ダイヤはそう言って俺の尻をひねった。
「どうしましたっ?!大丈夫ですか?」
「ええっーあの、その、大丈夫ですよ。気にしないでっ」
俺の場違いな悲鳴に周りの品のよさそうな学生や保護者たちの怪訝な視線が俺に降り注いだ。
「す、すみません。なんかつまづちゃったみたいで」
(ノート、そんないかにもダメ親にフォローしてますアピールはいいっ。くそっダイヤの奴め、昨日の仕返しか~覚えていろよ)
「そうですか、お怪我がなくて何よりです」
「まあ、怪我をしても安心してください。ここは何せ医学部ですからっ、腕はまだシロートですけど」
どっ!
来客一同が案内役の二人のジョークに沸き立つ。
(コータロー、ちゃんとしてよっ笑われているよ)
(ちゃんとしてるよっ、くそーなんで俺がこんな目に…)
「皆様、こちらは実際のウイルスを研究、解析する部屋になっております。周りには数多くの設備を備えており、
中には国内有数の立体構造解析モジュールもございます。これは--」
くそっ、ダイヤの奴しれーとしやがって、少し立場というものをわからせてやるか。
「おいダイヤお前…」
「堤、次だ。注意してろ。あとお前らのもってる”おもちゃ”も今のうちに電源切っとけ、まあ大丈夫だと思うが念のため…な…」
(……?)
「それでは隣の部屋・中央演算ルームに移動します。こちらでは近年設営されたばかりの京大・東大に続くスーパーコンピュータ。
いわゆるスパコンですね、その薬学関係に特化したAI搭載の最新鋭スパコンが有る場所にご案内いたします」
一同が驚きの声を上げる。
スパコン…そういうことか。
でも待てよ、だとすると次の相手は下手すりゃ…。
「スパコンなんて未知の領域だよ…どうすんの?」
ノートがおどろ恐ろしい顔を見せる。
「だいじょーぶだって、堤なら何とかすんだろ」
「ノートちゃんのおじさんってそんなにすごいんですか」
「たりめーだろ、なんせここの中退野郎だぜ」
モエラ…フォローにも何にもなってないぞそれ。
隣の部屋に入るとそこには図書室の本棚のような大きさの筐体がいくつも並び、眩いばかりのネオンサインのライトを輝かせていた。
「圧巻だな…」
「す、すごいっ。こ、これ量子演算コンピュータだよねっ!あこがれだなぁ」
ノートが目を輝かせて演算室を見渡す。
モエラや百合園さんもさすがに目を点にして呆気に取られていた。
その時、ダイヤが肘で俺をこつく。
「おいっまたツネル気かっ!そうはい神崎ーーー」
「そこのスタッフのひとりだ。見ろ」
「えっ」
ダイヤの冷たい声に思わずハッと我に返りツアーを待っていた説明役のスタッフ一同を見る。
「さて、ここからはこちらの管理や操作等を担当しているスタッフにご説明をしていただきます。スタッフさんもすべて我が右左大の在学生なんですよ」
ツアー担当が会話はバトンタッチするとグループのうちのリーターと思われる長身・白衣の男性が一同の目の前に出てきた。
「ツアーの皆様、ようこそ右左大医学部へ!私はここの演算ルームの施設管理をしています医学部三年・御堂と申します。
本日はよろしくお願いいたします」
ツアー客一同が盛大に拍手をした。
俺達五人を除いて。
「御堂………」
「コータロー、ネームプレート見える」
ノートが促した先を見る。
そこのネームプレートには”御堂 光葉”という名前が。
「……ダイヤ、あいつだな」
「ああ、あのイケメン君が”クローバー”だよ」




