爛れて、ちぎれて、破れて、堕ちて
ローアの暗黒面とも言える路地裏からほど近いところにある。アパート。
その一番上の階のある部屋がヘルガの自室だ。
月明かりの光が差し込むベットの上で、裸体の上にシャツだけ羽織ったヘルガが窓の外を眺めていた。
田舎町とはいえ、夜景もそこそこ綺麗なものだ。
ある程度の高さがある建物なので、一望とまではいえないが、そこそこに見渡せる。
この町は怪異が巣食うような古臭い町だ。
ほとんど存在を信じてないが、誰もがその存在を知らないわけじゃない。
怪異、異形は隠蔽して存在してない空想の怪物として扱うーーそれが80年前から続く国連の方針だ。
公式な存在と認めると混乱が起きるーーそんな理由ではない。国々が隠蔽して利益とする。
そのためだけの施策だ。
故に一般人でありながらも、それらと関わるヘルガやハンスのような人間も怪異も隠密することが求められるのだ。
「何か飲み物を入れてきて、あったかいやつ」
ヘルガは隣で寝ていた、明らかに年下の青年にそういう。
「めんどくさいよ、自分が入れてくればいいじゃん」
「片腕がないと面倒なんだよ」
青年はそういうと、いやいやとキッチンの方へ向かっていった。
「しかし、ティリオも変わっているな、もう30にもなる手負の女の相手を好き好んでしてるんだから」
少し離れた直通のキッチンにいる青年ーーティリオにそう言い放った。
「別にヘルガのことは嫌いじゃないけど、好きでもない、どうでもいい」
「私も構ってくれるから、構われてるだけだしねぇ。にしてもあなたなら、もっと若い女でもいいわけだ」
「僕は落ち着いた大人の人の方が落ち着いてて居心地がいいんだよ、まぁヘルガさんは年上すぎるけど」
「30はまだお姉さんだろ」
「21からしたらババアだ」
ヘルガは少しどこかムッとする。
そもそも元々付き合っていたハンスが9個上だったし、年増を自称するのはいいが、されると少しだけくるものがある。
しばらくしているとティリオが二つのティーカップに紅茶を注いで戻ってくる。
「ありがとね」
紅茶を受けてると、一口飲んで再び外を見る。
片腕を失ったのは、三年前。
ある事変に巻き込まれ、腕を片方持ってかれた。
そしてそのままハンスに振られたのだ。
ちょうど、シャルロッテを引き取ったのと同時期だった。
だから若い女に気を取られて振られたと思ったが、多分違う。
裏の世界で生きるものとして、身体的にハンディを背負ったパートナーは足手纏いなのだろう。
腕を失ってから、できるはずのことが思うようにできずに収入も多少落ち込んだ。
「クソ男が......」
ヘルガは静かに呟く。
「僕のことか?」
「ティリオはましだよ、独り言独り言」
ヘルガは、近くに置いてあったタバコの箱から一本取り出す。
それを口に入れて、火をつける。
「タバコやめたら、正直匂いきついんだよ......」
「うるさい、最近の若い奴は吸わなすぎるんだよ。それに私のベットの上で何しててもいいじゃないか」
「いやいや......火事になるだろ」
正直、ティリオには助けられてる。
不自由なことは、適当にやってくれる。その後の行為だって別に嫌じゃない。
呼べば来てくれるし、呼ばなきゃ来ない。ずっといられたら若々しくて鬱陶仕方しょうがないだろう。
都合がいいといえば、都合がいい。
「ヘルガみたいに裏で生きてみたいんだけど、どう思う?」
「やめといたらー、私みたいなろくでなしになるよ?」
「そもそもなんでヘルガは裏で生きてんだよ」
「裏しか知らないから、いまさら表で生きてこうなんて、する気にもならないし」
ヘルガは生まれてからずっと裏で生きてきた。
ハンスと出会った21歳の時、あの頃は情報屋ではなく殺し屋として生きていた。
金さえくれれば、誰でも殺す。
正直にいえば、誰かに殺して欲しかった。
誰かに従って殺しをして、使い捨ての駒にされて、自由になってもやることは変わらない。
しかし、ハンスと出会ってから人生は意味を持ち始めた。
そこから恋仲になるのは時間はかかったが。
「それとティリオは弱いから、生きてけないと思うよ」
ヘルガはそう言い、ティリオを一瞥する。
「でもフェンシングの大会で準優勝してるし、なんとかなりそうじゃない?」
「ばーか」
ヘルガはそう言って、ティリアの額を指先で押す。
「一回吸血鬼でも見てみるかい」
「見てみたい、本物の吸血鬼!」
ヘルガはため息をつく。
「ばーかっ」




