日常-3
それからすっかり陽が落ちて、辺りが暗くなる。
シャルロッテとハンスは、レオン一家の所有する畑まで来ていた。
田舎町の外れだ。周りに家屋もない。
街灯もほぼなく真っ暗、近くには鬱蒼とした森が広がっている。
普通の人よりかは、遥かに夜目がきく2人だ。さはどの問題もない。
畑の作物を見てみれば、ナイトピクシーに食い荒らされて作物がぐちゃぐちゃになっている。
「こりゃ酷いな、大打撃だぞ」
「いつものことじゃん、私はもう気にならないけど」
とは言うが、この被害の出方は並の獣害とは比べ物にならない。
生まれが農家のハンスにとっては、あまりにも胸が痛い光景。
シャルロッテは棒を持って森の方を見つめている。奴らは大体森の方から押し寄せてくる。
「あんま虐めるなよ? あいつら根に持つからな、一番根に持たれる存在のくせに」
「大丈夫、あいつら別に私達に危害加えられないでしょ」
「そうじゃなくて、レオンの方がだな......」
そうこう話していると、森の方から無数の羽音が聞こえてくる。
羽の生えた人型というだけの、醜い怪物達が、こちらに向かってきている。
「アダキィヤ、アダキィヤ!!」
「ンダル、ンダル、アダギィヤ!」
「キャシャリィ、カッキィ」
ナイトピクシーは意味のわからない言葉を喋る。
それぞれの群れごとに固有の言語を持つらしい。こいつらの言語傾向を調べている研究者もいるくらいには、多様で面白いらしい。
「いっくねぇ!」
その時だ、シャルロッテが地面を蹴り出して、ピクシーの群れに突っ込んでいく。
人間離れした脚力だ。
みるみるうちに距離が縮まる。
棒で的確に空飛ぶ害獣をはたき落としていく。ピクピクと震えて、はたき落とされた個体は気絶している。
意外と硬いので簡単には死なないのが、気色の悪いところだ。
「俺が何かするまでもないな」
大体はこの辺りで、シャルロッテの人狼の匂いにやられて森へ逃げていくーー。
そのはずだ。
「ん、なんだ?」
しかし、今回のナイトピクシー達は逃げるそぶりがない。それどころか、シャルロッテに飛びついて反撃しようとするそぶりすらある。
「ねぇ、今回のこいつら逃げなくない、先生!」
シャルロッテは反射神経が鋭い。
ナイトピクシーに捕まるほど野暮ではないだろうが、何かおかしい。
「ロッテ! なんか変だ、一旦逃げるぞ!」
ハンスが声を上げた時、森の方から何がこちらに迫ってくる。
それは身長2メートルはある二足歩行の狼だ。
「コボルト!? この羽虫ども、手懐けたのか......」
ナイトピクシーはより低知能の異形や動物を飼い慣らすことがある。
そうなった時は気が強くなるのがこいつらだ。
本来は飼い慣らす前にビビって逃げるのだが、今回みたいに極々稀にあることだ。
あれがいれば、シャルロッテに勝てると思ったんだろう。全くもって知恵が足りてない。
「ロッテがピクシー潰してるうちに俺があいつをやるか」
ハンスはポケットから拳銃を取り出す。
装填している弾丸は、教会で祈りを捧げた銀から形成した純銀弾だ。
大抵の化け物には鉛玉より重傷を負わせられる。
「先生! 逆っ、ピクシーお願い!」
シャルロッテはそういうと、ピクシー達を振り切り、コバルトの方へと走っていく。
「ギハハ」
「グダル、グダル!」
ナイトピクシー達は嘲笑の声を上げる。
一生懸命恐怖に打ち勝った飼い慣らした異形だ。それが獣と多少しか変わらないものでも、彼ら目線では最強戦力なのだ。
「おい! わざわざ肉弾戦するなって!」
ハンスはそう叫ぶが、どのみち遅いことはわかっていた。
コバルトが鋭い口で襲い掛かろうとする。
しかし、シャルロッテは口に棒を突っ込んだ。
そのまま体重を乗せて頭蓋骨まで貫通させたのだ。
混ざってるだけとはいえ、人狼の血肉が混ざっているのだ。本気を出せば人間の体力なんて凌駕する。




