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ローアの街


数時間後、ハンスはローアの裏路地を歩いている。


街道沿いに位置するこの町は、木組みの家々や石畳の道が広がり、中世の雰囲気を色濃く残している。



それなりに人通りの多いメインストリートから外れた裏路地は、人気が異様に少なく静寂と不気味な雰囲気が包み込んでいる。


この人の少なさは、ローアの裏路地には魔物が潜み人を襲う、と言う伝説があるゆえだ。



そしてそれは、この街に限っては嘘なんかじゃない。




裏路地のさらに奥へとハンスが進んでいく。奥は石造りの壁に囲まれた異常なほどに狭苦しく感じる。



ハンスは、ここである情報屋と落ち合わせる約束をつけている。



その時、ばきっとハンスは何かを踏む。



足元を見てみると、明らかに大腿骨と思われる骨を踏んでいた。


それ以外にもどこかしらの部位の、それも四足歩行の動物では説明のつかない骨片が転がってる。



「誰だよ......食いカスもまともに隠蔽しない馬鹿は」



ハンスは長い表情を浮かべる。



「最近劣等の吸血鬼ーーそれも生まれたてが多くてね、教養がなってないみたいだ」



その声を聞いてハンスは振り返る。



「久しいね、ハンス」



そこにいたのは、片腕のない妙齢の女だ。白衣のようなコートを上から羽織っており、笑みを浮かべている。髪の毛は手入れを怠っているのかボサボサ気味だ。



彼女の名前はヘルガ。


この街の情報屋として生計を立てている。彼女も裏の世界に関わりを持つ人間であり、ハンスとは昔は恋仲だったりした。



「真祖のせいか?」


「御名答、どうせ聞きたいことはそれじゃないでしょ? 他の誰でもない君の頼みだからねえ、優先はするよ?」


「俺とあんたは今じゃ他人だ、忙しいなら断るなら断ってくれてもいい」


「私は諦めてないんだけどね」



ヘルガは複雑な表情を浮かべる。



「それで本題だが、この鍵について調べて欲しい。結び目の鍵という魔具らしい」




ハンスはヘルガに鍵を渡す。

それを受け取ったヘルガは露骨に嫌そうな顔をする。




「うわぁ、めっちゃ嫌な気を感じる、血生臭いなぁもう」


「お前にはそう感じるのか?」


「そうだよ、どれだけの恨み辛みがこもってんだよぉ、これ」




ヘルガもハンスと同じく異能も持つ存在だ。

ヘルガは残存する思いを匂いとして嗅ぎ分ける事ができるのだ。




「結び目の鍵......だっけ? ぱっと見年代的に古いものだろうし、こっちのツテを使ったらある程度わかると思うよ。意外と鍵の魔具ってレアだしね」


「そうか、いつも助かる」



ヘルガはニィと笑みを浮かべる。



「ここからが私からの本題、報酬を頂戴」



そう言われたハンスはヘルガの掌に相場よりそれなりに多い金額を置く。



ヘルガは眉間に皺を寄せ、ため息をついた。



「まぁいいけどさぁ、私の何が不満さ?」


「別に復縁の話をしに来たんじゃないぞ」


「ある意味でけち臭いのは変わらずだね」




とは言え思い返せば、ヘルガとはそこそこ長かった、喧嘩別れからのまさかこんな重傷を負うとは。





もしかしたらーーそんな負い目は今でも少し感じる。






「ともかく調査の方は頼まれたよ、そこそこ期待してくれて構わないからね?」


「ああ、お前のことは信用してるよ」


「きゃっ」



ヘルガはあまりにもわざとらしく、片方しかない腕で口元を抑える。


こうして一度ハンスとヘルガは解散した。





 

  




* * * * *









時を同じくして。






リゼとカトレアーーそしてもう1人の少女の姿があった。



薄暗い倉庫ーーそれもマフィアが利用する取引現場だ。



周りには人間の死体、惨殺されたものが無造作に転がっている。




「どうしたー? 抵抗しないと死んじゃうぞぉ?」




倒れ込むマフィアの構成員と思われる男の上に小さな可憐な少女が乗っかっている。カトレアと同じく生死のない顔立ちで、貼り付けたような笑みを浮かべている。


片腕で大男を抑えつけ、もう片方の腕で首を締め上げている。




「ぐっ、うぐぐっ......」



男は必死に抵抗しているが、しばらくぴくぴく動いて完全に静止する。




「なんだー? 全然根性ないなぁ」



「アコ、あまり遊ぶものじゃないですよ?」



カトレアはそう淡々と注意をする。



「構わない、アコナイトの好きにさせろ」



カトレアはリゼがそういうと、少しだけ頭を下げた。



リゼは、マフィア達が取引で外に流そうとしていた錆びた短剣を手に取る。



包帯に覆われた痛々しい指先で、確かにそれを握った。




「魔女殺しの剣はこれで私の手中に収まった。あとは鍵さえ、鍵さえ見つかればあれに接続できる」



リゼは微かに笑みを浮かべる。




「リゼ様、なんか嬉しそうだぞー。珍しいなぁ」


「喜びを抑えれるものか、このためだけに何百年も生きながられてきたのだ。それがもうすぐ物になる......」




その時だ。血まみれのマフィアがゆっくりと起き上がる。




「まだ息がありましたか......」



カトレアは主人であるリゼの前に塞がる。



いつのまにか、持っていなかったはずの波打った剣(フランベルジュ)を手の中に握っていた。




「ばけもんどもがぁ!」




マフィアは銃を乱射する。



カトレアに何発も銃弾が直撃する。



心臓や腹部を銃弾が貫く。



しかし本来流れるはずの血が一滴も流れないのだ。それどころか、まるで痛がるそぶりも致命傷であるそぶりも何もない。




一歩一歩にじり寄る。




「くそぉ、くそが!!」



男は、空になった拳銃を無意味にカチカチと鳴らす。



次の瞬間には、男の首は宙を待っていた。




カトレアが背後を振り向くと、リゼも流れ弾が当たったのか肩から血を流していた。




「申し訳ありません、指先である私達ネフェリムが盾になりきれず......」


「構わない、別になんの問題もない」



リゼは相変わらず、表情に変わりはない。こちらもこちらでまるで大したダメージではないと言った物言いだ。





「ここだ、突っ込め!」


「お、女!? 」




その時だ。



誰か殺す前に連絡を入れていたのだろう。



応援のマフィアの一派が扉を突き破ってくる。




「アコナイト、あいつらを殺しておけ」



リゼはアコナイトにそうとだけ命じると、カトレアと共にその場を後にする。



「なんだー、また遊んでいいのかー?」



アコナイトは顔の表情がニィと歪んで機械的な笑みを形成する。



銃声と悲鳴が響き渡る中、リゼは一度も振り返ることはなかった。

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