《ブタは食われるだけ。お前は騙されながら食われる。》
大学一年の最初の英語の授業。
先生が白紙を配ってきた。
「好きなものを描いてください。なんでもいいですよ。」
——はい、問題。
「好きなもの」って、何だよ?
本当に好きなもん描いたら、「何それ?」って笑われる。
かといって、気を遣って描くと、「浅いな」って思われる。
めんどくせェ。
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周りを見たら、もうみんな描き始めてる。
星を描いてるやつ。
ハートを描いてるやつ。
女子が「ウサギ好き〜」とか言いながら、うさぎ描いてる。
「俺は自由になりたい」とか言って雲描いてるやつもいる。
いや、
「お前、昨日トイレの取り合いしてただろ。自由ってなんだよ?」
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俺は白紙を睨みつけた。
頭の中、真っ白だ。
先生が言った。
「残り3分ですよ〜」
「もういい、ブタでいいや。」
鼻と目だけ。
終了。
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発表の時間。
先生が俺に聞く。
「なんでブタを描いたんですか?」
俺はちゃんと答えた。
別にふざけてもいない。真面目に言った。
「あ、えっと……豚って、ある意味すごいなって思ったんです。
食べて寝て、寝て食べて、
最後はトンカツとか角煮になって、ちゃんと人間の役に立つ。
生きてる時は無駄なこと考えなくていいし、
死んだら全部使われる。
なんか、すごいなって……そう思って、描きました。」
(でも心の中ではこう思ってた。)
「……本音を言えばな、知らねェよ。
ブタが一番ラクなんだよ。
人間なんて、あれこれ考えてるフリして、
結局最後はみんな同じだろ。
食って寝て、寝て食って、
死んだら社会にバラされて、
『良い人生だった』とかってテキトーに処理されるだけだろ。
ブタの方が潔いわ。」
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教室がシーンってなった。
笑うかと思ったら、誰も笑わねェ。
その空気、わかるよ。
「……たぶん正解なんだろ、これ。」
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あとから考えた。
俺が描いたのは、ただのブタじゃねェ。
「人間社会の答え」だ。
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みんな「自分で選んで生きてる」とか言ってるけど、
実際は**「時間ギリギリになって、テキトーに決めただけ」**だろ。
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進路?
「夢を追いたい!」
→「就職楽そうな学科にしよ」
就活?
「世界を変えたい!」
→「交通費出してくれるなら行きます」
恋愛?
「運命の人を探す!」
→「まあ、生きてりゃいいか」
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ブタはどうだ?
ブタは悩まねェ。
無駄に足掻かねェ。
やること一つ、**「太るだけ」**だ。
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死んだ後も、
「この店のトンカツ、マジで柔らかいよな」って褒められる。
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人間は?
一生、見栄と嘘と自己弁護。
腹の中はブタのモツより黒ェ。
ブタのホルモンは金になるけど、
お前の人生の履歴は、誰も買わねェ。
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だからさ、
もし人生が一枚の白紙なら、
最初からブタ描いとけよ。
どうせ最後はみんな、
生活に飼いならされて、
順番に捌かれるだけだろ。