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世界の危機なんて縛りプレーで余裕だが?  作者: アサヒ
二章 決闘なんてしたところで大抵何も決まらない
9/40

9話:勇者祭

「「…………へ?」」

 当然きょとん顔を浮かべるは、受付嬢とワイ君本人。

 ロンやフリンテも「おいおい」と頭を抱えている。

「ちょっ! あああ主様⁉ 差し出すのですか⁉ 私を差し出してしまわれるのですか⁉」

「喋った⁉ なにこれ何この生き物⁉ かわいいわりにやたらダンディーな声なんですけど⁉」

「せめて鱗くらいで勘弁いただけませんか!  それなら魔力で生成できます故!」

 がやがや、がやがや。

 二人が騒ぐものだから、酒場にいたほかの冒険者も「なんだなんだ?」と注目してくる。

 完全に目立ってしまった。

 黒龍討伐まではばれていないようだが、ここで騒ぎ続ければ時間の問題だろう。

 ロンは盛大にため息をつきながら、受付嬢に提案する。

「とりあえず、どこか個室に入れてくれ」


    ◆


「君たちだね。新規層攻略を果たしたパーティというのは」

 場所を移して、ギルド内にある応接室。

 先程の受付嬢に加えて、傷だらけスキンヘッドの大男が四人の対面に座っていた。

 この男はセラの街のギルドマスター、セル。

 いかにも歴戦といった感じの褐色の男で、その眼力の強さは、瞬きの度に地面が揺れるような圧がある。

「ドーモ! アホウドリでッす!」

「バカみたいだからやめろナキ」

 そんなギルマスに対しても、四人は通常運転だが。

「まぁ、なんだ。パーティ名からして手遅れな気がするのだが」

「「「由来はこいつなんで。アホなのはこいつだけなんで」」」

「あァ?」

「君たちは本当にチームなのか……」

 ソファに座って顔をしかめるセル。

 こんな破天荒なパーティは初めて相手にするらしく、呆れと困惑から、重厚なその面持ちが僅かに歪む。

「まあいい。まずは九十九層の攻略を祝福する。うちのダンジョン深度は他の街に一歩出遅れていたからな。冒険者ギルドを代表して礼を言わせてくれ」

 驚くほど率直な賛辞。その強面な外見に反して、セルは案外と誠実な性格らしい。

 ロンは意外そうに眉をひそめるも、ギルドマスターという立場はそういうものかもしれないと思い飲み込み、「どうも」とだけ返した。

「他のまちィ?」

 代わりに疑問を口にしたのはナキだった。

 他の街(・・・)という発言がよくわからなかったらしい。

 常識レベルの話であり、ナキ以外は当然知っている内容だが、それでもセルは丁寧にその質問に応じた。

「いいかね。ダンジョンを持つ()は、ここのセラだけではない。五つの街があり、それぞれが一つづつダンジョンを保有しているのだ。まあ、ダンジョンの周辺に街ができた経緯を考えれば、順序としては逆だがな。もちろん、街のシステムは同じだ。ダンジョンごとに、最深層を更新した勇者パーティ(・・・・・・)がいる。つまりこの国には、五つの街、五つのダンジョン、五つの勇者パーティが存在するんだ」

「五個の街に五個のダンジョン、五組の勇者パーティ……。てッこたァ、合計二十五個のダンジョンに、百二十組の勇者パーティがいるッてことか! 結構多いな」

「解釈違いな上に計算も間違っているよ」

「おッ?」

 どうやら乗算してしまったらしい。

 ナキの計算で行くなら、確かに勇者パーティの希少性など皆無だろう。

 実際には、他の街にすら名声が届くほどの大きな名誉なのだが。

「とにかく、君たちにはこれら新たな勇者パーティとして、この街の顔役になってもらうことになる」

「「「「え~」」」」

「……ミスメル。通例通り、新勇者パーティのお披露目である勇者祭(・・・)を開催する。関係者に通達してくれ」

 そう言ってセルは、傍に立ち控えていた受付嬢に声をかけた。

 ちなみに彼女の名前がミスメルであることを、四人はここで初めて知った。

「わかりました。すぐに取り掛かります。開催予定はいつにしますか?」

「二週間後だ」

「二週間? 随分急ですね」

「商業連合をうまく動かせばいい」

「分かりました。ボス素材をいくらか流しますが、いいですね?」

「あぁ。任せる」

 当人たちを抜きにして話が進んでいく。

 とは言え、勇者祭は新たな勇者が生まれた際の伝統行事。よっぽどの理由がない限りは開催するのが常だ。それも、盛大に。

 普通のパーティであればその程度わきまえているのだが、アホウドリが普通なわけはなく、

「あっ、祭りは俺ら抜きでやってもらっていいすか? いろいろ面倒なんで」

ロンがひょいと右手を上げて、なんとそんなことを言い出した。

 ほか三人も同意するように頷き、フリンテに至っては「私は一般客として遊びに行こうかな~」などとほざく始末。

 勇者祭に勇者が欠席したいなどという話は前代未聞。ギルマスもミスメルも目を見開く。

「えっ、なんなんですか? また無欲アピールですか? 本当にかっこ悪いですよ?」

「主役がいなければ何を称えていいかわからない。得意ではないかもしれんが、将来的には君たちの利になる行事だ」

「「「「お気遣いなく」」」」

「こっちに気を遣ってほしいのだが……」

 ギルマスは目頭を押さえ、ミスメルはもはやドン引きしている。

 とは言え、その二人の気持ちを理解していないのはナキだけであり、ロンにいたってはわざと逆なでするようなことを言っているのだ。嫌がらせではなく、戦略的に。

「祝いたけりゃ勝手に祝ってくれていい。死んだ先代国王の誕生祭みたいなもんだ。そもそも、勇者に仕立て上げるのも祭りに出すのもそっちの勝手な都合だろ? 俺たちを街興しの道具にしないでくださいよ。こっちに参加の義務はない。あと、ボス素材を冒険者ギルドに売るとも言っていない」

「むぅ……」

「えっ……」

 ロンは、今後のいろいろなしがらみを回避するために、自分たちの考え方をアピールしているのだ。

 ギルドの駒に成り下がる気はない、そっちの思い通り動くとは限らない……と。

 ノッて来たのか、持ち前の口撃が切れ味を増していく。

「そもそも俺たちはまだ傷も癒えてないんだぞ。黒龍のブレスによる怪我は治りが遅いんだ。二週間後なんて急すぎる。それとも、傷だらけ包帯だらけの方が拍がつくってか? なんなら衆人環視の中ぶっ倒れてやろうか? そうなりゃせっかくのパレードを台無しだ。楽しい余興もおいしい料理も無駄になっちまうなぁ?」

「おいしい料理、食べたい」

「よっし出てやろうじゃねえか。せいぜい優秀な料理人集めてくださいねえ?」

 ただし、リシャには弱い。



商業連合は、いわゆる商業ギルドみたいなもの。

冒険者ギルドと持ちつ持たれつな関係ですが、仲がいいかと言われると微妙。


次回

《深夜テンション》

投稿時間は今日の夕方


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