【ホムンクルスダンジョン】四
一方その頃地上では。
【ホムンクルスダンジョン】の入り口付近にいる人々は騒いでいた。
「【ツカイマ】が外に出たらしいぞ!」
「誰か食われなかったか?!」
「どういう事だ。」
【ツカイマ】がダンジョンの外に出た事に人々は混乱していた。
そんな時、地面が大きく揺れた。
「うわっ。地震か?!」
最初、誰もがそう思った。
しかし通常の地震とは違い揺れが長く、下から何度も叩くような、横に激しく、時には縦で微振動で揺れる。しっちゃかめっちゃかな揺れを人々は地下から感じていた。
「この揺れ、地震じゃない!」
「まさかこれ、【マジョ】同士の争い?!」
「そうだとしたら、まずくね。」
「急いで協会に連絡しろ!」
普段は地下のダンジョンに篭っている【マジョ】が他所のダンジョンで目撃された事がある。
その目的は他所のダンジョンの侵略。
【マジョ】は他所のダンジョンを侵略し自分の領土にする事が出来てしまう。
勿論侵略される側も黙ってはいない。あわよくば逆に奪い取ってやろうと激しく抵抗する。
今、【ホムンクルスダンジョン】の地下深くで二人の【マジョ】が熾烈な戦いを繰り広げていた。
◆◇◆◇◆
カカシとイナゴ。
人造生物。
それぞれ異なる存在が【ホムンクルスダンジョン】の地下深くで暴れ回っていた。
農具を持ったカカシが人造生物に襲いかかり、巨大イナゴは人造生物やダンジョンの壁を齧り、人造生物はそれに反撃、阻止をしている。
一方で【マジョ】達も戦っていた。
「はっはっはぁ! カカシとイナゴ! 思い出したあの時のダンジョン! 人間達から【コメダンジョン】と言われているのを知っているぞ。こことは違って美味いメシが出ると大層な評判だ!」
「あっそう!」
他のカカシ同様農具を持たせたソウジの体を操ってヨネはハラーリャに攻撃を仕掛けようとするが、ハラーリャの【ツカイマ】に阻まれてしまいハラーリャに傷一つ負わせる事すら出来ない。
「あの時はほんの少し土と植物を採取しようとしただけなのに、あんなに拒絶するなんて。心が狭いな。」
「無断で侵入した挙句に半分以上持っていこうとした阿婆擦れがよく言うわよ!」
悪びれなく言ったハラーリャにますます怒りが増していくヨネは攻撃の速度と威力を上げる為にソウジに命令した。
「ソウジ! もっともっと速く、もっともっと強く! あいつを殺す為に手を休めるな!」
するとソウジの全身に力が漲る。襲いかかってくる【ツカイマ】達を次々と屠っていく。
(いってぇぇぇぇぇぇ!!!)
その間、ソウジの全身に激痛が走っている。
(痛い痛い! めっちゃ痛い!)
(我慢しなさいよ。)
(無理だっ、いててててててて痛い痛い!)
ただの人間には出来ない動きと速さ、そして関節を無視して動かされる為ソウジの肉体が悲鳴を上げている。ソウジ本人は今すぐ止まりたかったのだが、肉体の権限は全てヨネが握っている為ソウジの意思ではソウジの体を動かせない。
(止めて止めてお願い止まって! 痛い痛い!)
(あの【マジョ】を殺すまで我慢しなさい!)
ソウジは必死にヨネに懇願するが一蹴される。
「もっともっともっと! 見せてくれ。」
屠っても屠っても屠っても。
どれだけ屠っても次々とハラーリャの【ツカイマ】が湧いてくる。
なかなかハラーリャに近づけずヨネは苛つく。
「焦ったいわね。」
(痛い痛い痛い! 早く終わらせてくれよ!)
(うるっさいわね! あいつが【ツカイマ】をばんばん出すからきりがないのよ。)
激痛に喚くソウジにさらに苛ついたヨネは念話ごしで怒鳴りつける。
どれだけ言っても止まる気が無いヨネにソウジは悲鳴を上げる。しかし声は出ない。声帯まで支配されているのだ。せいぜい心の中で喚く事しか出来ない。
(なんで俺がこんな目に!?)
不自由で全身から感じてる激痛にソウジの精神はすり減り、やがて無理矢理体を動かしているヨネに対して怒りが湧くソウジ。
(あんた、あたしに怒ってもしょうがないでしょ。怒るべきはあっち!)
ソウジの思考に気がついたヨネは苛立った様子でソウジの首を動かせばテンション高く笑っているハラーリャの姿が目に入った。
「もっともっともっと! こんなもんじゃないだろう?!」
楽しげに笑うハラーリャの姿を見てソウジの怒りの矛先が変わる。無理矢理自分の体を動かすヨネから、そもそも自分を拉致して勝手に体を切り刻んできたハラーリャへと。
「んん? 何かな。」
こちらをじっと見てくるソウジを見て不思議そうに首を傾げているハラーリャ。その間にも【ツカイマ】を差し向け続けている。
それでも【ツカイマ】を屠りながらもソウジはハラーリャを睨みつけていた。
(あいつのせいで、あいつのせいで!)
より一層ハラーリャを睨みつけ憎しみの感情を膨れ上がらせるソウジ。
「…ん?」
その時、ハラーリャは体の違和感を感じた。
痛み。
腹部あたりから痛みを感じる。それは収まる事なく徐々に増していく。
「なんだこれ。」
痛みを感じる分に手を当てた時、異変が起きた。
「おや?」
触った瞬間ハラーリャが感じたのは濡れた感触。触った方の手のひらを見るとそこには大量の真っ黒い血が付着していた。
「…どういう事だ。」
驚いたハラーリャだったが慌てる事はしなかった。落ち着いて腹部を見る。そこで見たのはパックリと開いた傷口。鋭い刃物で切り裂かれたような鮮やかなまでのもの。
「ふむ。」
ハラーリャは【ツカイマ】を壁にして守りを固めた後、傷口をじっくりと観察する。
ハラーリャは一度もヨネが操る【ツカイマ】の攻撃を受けていない。にも関わらず、ハラーリャはこうして負傷している。
何故か。
ハラーリャの頭の中はそれでいっぱいだった。
【ツカイマ】に守られている。
自分の拠点だから大丈夫。
その慢心もあってハラーリャは反応が遅れた。
「おんどりゃあああああっ!!」
農具としてのフォークを手に突っ込んでくるソウジ。カカシの【ツカイマ】の援護もあってソウジはハラーリャが生み出した【ツカイマ】の壁を突破し、ハラーリャに接近する。
「おっと。」
目前のソウジにハラーリャを驚く。加えてハラーリャ自身は戦闘力があまり無い為どうする事も出来ない。抵抗出来ず腹部にフォークの鋭い先端が全て突き刺さる。
「うっ。」
さらに大量に流れ出る黒い血。
しかしハラーリャはこんな時でも笑っていた。
【マジョ】は簡単には死なない。かなりしぶとい。生命力が強い。だから腹を割かれても焼かれてもへし折られても死ななければ治せてしまう。
「あぁ、やはり君が欲しい。」
ハラーリャは目の前にいるソウジの両肩を掴み、そう簡単に逃げられないようにする。
そしてすぐさまソウジを取り押さえようと新たな【ツカイマ】を差し向ける。
その中に小さな、蝙蝠のような【ツカイマ】がソウジに向かって飛んできた。それを視界に入れた瞬間にはソウジはその【ツカイマ】を掴み
「くたばれ!!!」
握りつぶした。
その瞬間、ハラーリャの体がひしゃげた。
「はえ?」
両手両足は折れ曲がり、潰れた。
そう、ソウジが握りつぶした【ツカイマ】のように。
「なるほと。」
口から大量の黒い血を吐きながらハラーリャはこんな時でもほくそ笑む。
「えほ。呪い、か。」
咳き込むハラーリャにヨネ側の【ツカイマ】が一斉に襲いかかってくる。カカシは持っている農具でハラーリャを突き刺し、耕す。イナゴはハラーリャの体に群がり齧っていく。
【マジョ】の生命力は強いが不死身ではない。原型が留めない程の傷を負えば流石に死ぬ。
ハラーリャが逆転の手を思いつく事は無く、頭も潰された。