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【ホムンクルスダンジョン】三

「本当に人間にしか見えないな。しかし筋繊維は人間のそれとは違う。凄いな凄いな。見れば見るほど不可思議だ。」


マスクをして興味津々で覗き込んでいるハラーリャは独り言を続けていく。

そんなハラーリャに助手を務めていた【ツカイマ】のホムンクルスがいくつかの試験管を指差す。全ての試験管にはソウジの血が入っていた。


「あぁ。もう準備を終えたか。少し待て。」


そう言ってハラーリャは手を動かして器具を取り扱って縫って閉じていく。


「これでよし。【ツカイマ】君。休憩の時間だ。遠慮なく休んでいなさい。」


そう言ってハラーリャは離れていった。

一方でソウジは麻酔も無しに腹を開かれ散々腹の中を弄られた事で肉体面でも精神面でも疲弊していた。拘束もされたまま。人型の【ツカイマ】数体が見張り役としてソウジの事をじっと見ている。とても休めない。逃げようともがくが、腹を長時間開かれたせいで体力がかなり消耗している。


(もしもし。)


ソウジの頭の中でヨネの声が響く。

あぁ、とうとう幻が聞こえ始めたと思ったソウジの気分は急降下した。


(もしもし。聞こえてる?)


もう二度と外には出られないのだろうか。そんな絶望感にソウジは支配される。


(ねぇ。)


絶望のあまりヨネの幻聴が聞こえていると思っているソウジは何も出来ないまま目をつむり


(聞こえてるんでしょ返事をしなさい!!)

(はい!?)


頭の中で響いた怒鳴り声に驚き目を見開いた。声をあげそうになったが猿轡によって声が外に漏れない。代わりに頭の中の声に返事をするように自身の頭の中で声を出す。


(やっぱり聞こえてるじゃない。)

(…え? ヨネ?!)

(呼び捨てやめろって言ったわよね。)


頭の中で響く声の正体はヨネだった。どういうわけかこの場にいないにも関わらずソウジに話しかけている。


(どういう事だ?! だってあんた今【コメダンジョン】にいるんだろ。)

(念話よ。【マジョ】はこうやって離れた【ツカイマ】に命令を送れるの。)

(そうなのか。)

(それより、あんた今どこで何をしてるの? おかずの材料はどうしたのよ。)

(あぁそうだ。助けてくれて!)

(は?)


ソウジは肉を確保する為に【ホムンクルスダンジョン】にやって来た事、そしてそこの【ツカイマ】に捕まり【人造のマジョ】の手で弄ばれている事を、しどろもどろでヨネに質問をされながらだった為かなり時間は掛かったが、なんとか全て話した。

話を聞き終えた後、ヨネは長いため息を吐くのを念話越しで聞こえてきた。


(そう。あいつ、本当に見境ないわね。)

(知ってるのか?)

(えぇ。あいつ名乗りもせずにいきなり侵食しようとしてきたのよ。あぁ今思い出すだけでも腹立たしい!)


話しているうちに当時の事を思い出したのかヨネは苛立ちを隠せずに声を荒げる。


(その上今度はあんたを奪おうとしてくるときた。ああむかつく!)

(だったら助けてくれ! 痛くて痛くて仕方がないんだ。)

(…今ならいける? もう少し準備を、いや。解剖されて死なれたらまずい。あいつの手に渡る事事態無理。)

(…あの、ヨネさん?)


ソウジの事を放置して考え込み独り言を口にするヨネにソウジは不安感が増していく。


(…よし分かった。いいわ。助けてあげる。)

(なら早く!)

(ただしめちゃくちゃ痛いと思うから我慢ね。)

(え?)


ヨネの言葉の直後、ソウジの全身が脈打つ。全身が心臓になったかのように跳ね上がり、一段と拘束具を揺らす。


「ん?」


異変に気がついたハラーリャが作業を中断してソウジに近づこうとする。


「おいおい。あまり暴れないでくれ。傷がつくと困る。」


だがその前に、あれだけ苦戦していた拘束具を破壊してハラーリャとその【ツカイマ】達から一気に距離をとる。

ソウジの動きに驚愕して目を見開いたハラーリャ。すぐに興奮した様子で声を上げる。


「素晴らしい! 人間よりもましな身体能力だと思っていたが潜在能力があったとは! もっともっと詳しく調べさせてくれ!」


その直後、ハラーリャの【ツカイマ】達が動きソウジを捕まえようと押し寄せる。

迫ってくる【ツカイマ】達に対してソウジは戦わず逃げに徹した。


「おぉ。速い速い速い! 被検体を捕縛する為に用意した【ツカイマ】相手にここまで! 他にもいるのか? どこのダンジョンから生まれたんだ。」

「【コメダンジョン】よ。」


ソウジの口から出た発言が聞こえたハラーリャは首を傾げた。正確にいえばソウジの言葉ではなく声にハラーリャは疑問に思っていた。


「声変わりかい? 女性の声に聞こえるのだが。」


そう。ソウジの口から出たのは女性の声。

ソウジ自身、自分の口から出た女性の声に内心驚いていた。勝手に動く身体に困惑していた。いったいどうやって全身を操られ声帯を乗っ取られているのかソウジにはまるで分からなかった。


「あんたでも出来るでしょ。【マジョ】なら簡単な事。そうでしょ。」


だが、ソウジは声の主が誰か知っている。自身を操っている正体ははっきりと分かっている。


「【マジョ】! そうか【マジョ】! それなら納得だ。なぁなぁ君! その【ツカイマ】を生んだ【マジョ】かい? だったらもう二、三体譲ってくれ。これは一体だけでは満足な実験が出来ない!」

「お前にくれてやるものなんて一つもない。」


徐々に近づいてくる地響きにハラーリャは眉間に皺を寄せる。


「…やる気かい?」

「先に仕掛けたのはあんたでしょ。」


床にヒビが入り、床の破片と土塊が吹き上がる。空いた穴から藁で出来たカカシとイナゴのような生物が這い出てくる。


「無礼者にお手本を見せてあげる。」


睨みつけてくるハラーリャに対してソウジの身体を借りて挑発的な笑みを浮かべる。


「我が名はヨネ! 【稲穂のマジョ】にして【コメダンジョン】の主である。今日、【人造のマジョ】が所有する全てを奪いに来た! これより侵食を開始する。」



ソウジの身体を通して宣言をしたヨネは【コメダンジョン】の最深部で不敵な笑みを浮かべている。

それに対してハラーリャは不機嫌そうな顔から一転、にやつく。


「ああなるほど。【ツカイマ】を操って。さながら電話のように。あぁならば私は防衛、いや。君のダンジョンを逆に奪ってやろう!」


ソウジを操るヨネに興味が湧き一気に興奮したハラーリャはその勢いで宣言をした。


「【人造のマジョ】、ハラーリャ・P・ロロナータ。これより【ホムンクルスダンジョン】の防衛及び【コメダンジョン】の侵食を開始する!」


【マジョ】二人による地下決戦が今、始まった。

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