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【ホムンクルスダンジョン】

【コメダンジョン】の検問所近くにある屋台で売られている塩むすびが絶品という。

数量限定で一日五〇個ほど。他の屋台と比べて値段は高いがそれでも販売されればあっという間に売り切れてしまうほど人気だ。


店番をしている青年は塩むすびを売る事に専念しており、余計な事は喋らない。作ったのは誰か、もっと多く作れないのか、といった質問をよくされるがだんまり。

美味い塩むすびの秘密を知る為に青年の跡をつけようとした者は後を絶たなかったが塩むすびが売り切れた瞬間にはあっという間に姿を消してしまう為それは不可能だ。


店番をしている男の名前はワタナベ ソウジ。

分かっているのはそれくらいだ。



◆◇◆◇◆



「おかずを作るわ。」

「おかず。」


今日も一部を差し引いた後に残った売上金をヨネに渡したソウジはヨネの発言にきょとんとしていた。


「そう。塩むすびだけじゃそろそろ物足りないわ。だからおかずの入ったお弁当を作る。だから食材を手に入れてきてちょうだい。」

「いや、買えねぇよ。だって売り切れてるんだぞどこもかしこも。」

「買ってこいなんて言ってないわ。あんた探索者でしょ。採って来なさい。」

「いや、近所にあるダンジョンここだけ」

「遠出すればいいでしょうが。」

「交通費が」

「稲を刈り取っていけばいいでしょう。つべこべ言わずに肉とか卵採ってこい! 今から!」


こうしてヨネに蹴り出される勢いで他のダンジョンに向かう事が決まったソウジ。


「といってもどうすれば。」


刈り取った稲穂が入った籠を背負って【コメダンジョン】から出たソウジはどうすればいいのか困っていた。【コメダンジョン】以外のダンジョンの当てが無い。ソウジが知っているダンジョンの名所はどこも遠いし探索者になったばかりのソウジでは門前払い。


「どうすっかなー。」


稲穂を検問所で働いている人に渡した時、そんな事を呟いた時、受け取った人が反応した。


「何かありました?」

「あ、えっと。」


反応が返ってくるとは思わずしどろもどろになったソウジだったが、この人に聞けばいいのではと気がついた。検問所で働いているのならダンジョン協会に所属している職員。きっとダンジョンの事に詳しいと判断し思い切って聞いてみる事にした。


「実は食い物が採れる近場のダンジョンを探してまして。」

「なるほど食べ物ですか。よくある質問ですよ。」


協会の職員は慣れた様子でソウジにあるダンジョンの情報を与えてくれた。


「それなら【ホムンクルスダンジョン】に向かってはどうでしょう。」

「【ホムンクルスダンジョン】って?」

「その名の通り人造生物が蔓延るダンジョンです。そこでしたら肉が採れますよ。」

「食えるんですか?」

「食べられます。食用としては問題無いと判断されていますので。」

「肉。」


ヨネが言っていた肉か卵を採ってこいと。そのダンジョンならばヨネの要求に応えられる。


「どこっすかそのダンジョン。」

「メモあります?」

「無いです。」

「ではこちらで用意しますね。少々お待ちを。」

「うっす。」


こうしてソウジは換金後、職員から渡されたメモを頼りに【ホムンクルスダンジョン】へと向かって行った。



◆◇◆◇◆



電車を乗って着いた先、【ホムンクルスダンジョン】前は【コメダンジョン】と比べてしまうと少ないがそれでも人で賑わっている。特に出店には多くの人達が集まっていた。串焼きや焼き肉など肉を使った料理が売られている。

試しに並んで串焼きを一つ買ったソウジは屋台から少し離れた場所で齧る。少々硬めだが確かに肉の味がする。


「よし、行くか。」


串を指定ゴミ箱に入れた後、ソウジは【ホムンクルスダンジョン】に入る為に検問所へと向かって行った。



◆◇◆◇◆



【ホムンクルスダンジョン】の中は寂れた研究室を思わせる外観だった。照明はあるが薄暗い。その中を大中小問わず様々な形をした生き物の形をした【ツカイマ】が蔓延っており探索者を見ればすぐに襲いかかってくる。

【ホムンクルスダンジョン】地下一層では探索者と【ツカイマ】が争い合う姿があちこちで見れた。


「うわー。すごいな。」


目の前の光景を見てソウジから出た感想がこれだ。この期に及んで危機感がまるで無い。


「おいあんた! 危ねぇぞ!」

「へ?」


声がした方を見れば涎を垂らした【ツカイマ】が襲いかかる姿を間近で見た。標的はもちろんソウジだ。


「あっぶねぇ!」


慌てて身を逸らしてかわすソウジ。

【ツカイマ】がソウジに再び襲い掛かろうとする前に額に槍が突き刺さり、生き絶えた。槍の持ち主である男は刃先を引き抜くと【ツカイマ】の体にチョークのようなもので印をつける。他所に横取りをされない為のマーキングだ。目印は主に探索者免許に記載されている免許証番号だ。

マーキングを書き終えた男は改めてソウジに声をかけた。


「大丈夫かあんた。」


ソウジを助けてくれたのは探索者としての経験が豊富そうなの男性。頭のてっぺんから足のつま先まで丈夫そうな装備を身につけている。


「ってなんだその格好!?」


それに比べてソウジの装備は薄っぺらい。

支給されたばかりの探索者用の上下の服と靴。そして背中には【コメダンジョン】用に使っている籠と鎌。

ソウジが身につけているダンジョン用の装備はこれだけだ。周囲から見れば軽装すぎる。


「いくらなんでもそれは無いだろ。」

「え? なんかおかしな事あります?」

「少なすぎるんだよ装備が! あんたここがどこか分かってるのか。」

「【ホムンクルスダンジョン】ですよね?」

「そうだ。【人造のマジョ】が作った危険な【ツカイマ】がいる危ないダンジョンだ。一層だからってそんな装備で来るなんてなめすぎだ。」


男がソウジの装備の薄っぺらさを指摘している時、男の名前を呼ぶ声がした。


「バット! こっち来て手伝ってくれ!」


男、バットは仲間の声にすぐに反応する。


「すぐ行く! あんたは早く帰れ! 死なれると色々と面倒なんだ。」


そう言ってバットは走り去って行った。


「そう言われてもなぁ。」


ソウジが自分の服を見下ろしている時、上から一体の【ツカイマ】が襲いかかってくる。


「うおっ!」


慌ててしゃがみ込み回避し、上を見上げる。翼を持った【ツカイマ】がソウジを睨みつけ、再びソウジに向かって降下する。


「えっと、えっと。」


どうしようと考え、ソウジは咄嗟に【ツカイマ】を両手で掴んだ。


「おお! 捕まえられた。」


じたばたともがく小型の【ツカイマ】を見るソウジ。


「…これからどうしよう。」


ソウジはこれまで戦った事がない。

【コメダンジョン】では【ツカイマ】であるカカシやイナゴからは仲間判定を受けているのか攻撃されない為、簡単にやり過ごせてきた。

しかし今、ソウジの手の中には仮初とはいえ命がある。肉を手に入れる為には【ツカイマ】を殺さなければならない。


「…何だあれ?」

「人型だ。」


どうしたものかと悩んでいるソウジの耳に他の探索者達の困惑した声が聞こえてくる。何事だと思い周囲を見回している時、数体の【ツカイマ】の姿を目撃した。

体毛の無い白い体の全身に青い血管が透けて見える【ツカイマ】達。


それが一斉にソウジを見た。大きな二つの瞳がソウジから目を離さない。

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