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【コメダンジョン】三

空虚な人生に輝かしい結果を残そうとして【コメダンジョン】に潜ったワタナベ ソウジは死に、ダンジョンの主である【マジョ】の手先である【ツカイマ】に生まれ変わってしまった。


人間ではなくなった事で最初の数日間は怯えて過ごしていたが、ソウジは割とすぐに慣れた。


まず体の違和感が無い。

隣室の中年男を片手で吹っ飛ばすほどの力を持ちながら人間の時と同様に生活を送れている。力加減だって問題無い。


次に誰もソウジの事を気にしていない。

数日間無断欠席していたのだが、特に親しい友人知人はおらず人間の時からソウジの存在は周囲にとって取るに足らないもの。教師からもあぁ、そういえばこんな奴いたな。と言わんばかりの反応を返されてしまった。数日間いなかった程度では気づかれる事さえ無い。それに気がついた時ソウジは少し泣いた。


そもそも【ツカイマ】はダンジョンの外には出ない。

【ツカイマ】は【マジョ】の命令を聞く事しか出来ない。ソウジのように知性を持っている【ツカイマ】はごく稀だ。誰も【ツカイマ】が人間のふりをして過ごしているなんて思ってもいない。


そんなわけでソウジは何も問題無くこれまで通りの生活を送りながら【マジョ】(主人)であるヨネの命令を遂行していた。


「どうしたんだお前。前回と比べてかなりタイムを縮めたぞ。」

「あ、ありがとうございます。」


体力測定。


「やった。やった! ギリ及第!」


試験。


「探索者になろうとした理由は?」

「色々と足りなくて困っている人達の助けに少しでもなりたくて志願しました。」


面接。


人間だった時よりも必死に知識を頭に詰め込み、面接で言われるであろう質問への模範解答を徹底的に覚え、とにかく勉強を頑張った。

体力測定は特に苦労しなかった。

ソウジは頭が破裂するんじゃないかと思うくらいとにかく寝る間を惜しんでまで勉強に勤しんだ。

それもこれも探索者になれというヨネの命令を遂行する為だ。命令に従わなければという謎の使命感だけでソウジはとにかくがむしゃらに探索者になる為に努力をしまくった。


その結果、【ツカイマ】になってから一年後にソウジは探索者になれた。



◆◇◆◇◆



「あぁ。合格したのね。」


今度は検問を通って【コメダンジョン】に潜ったソウジはヨネに会いに行った。ヨネの居場所の目処は全く分からなかったのだが、ソウジは自然と歩き出し、誰にも見つかる事も迷う事も無くあの時訪れた民家に着いた。

そうして顔を見せたヨネは探索者の証である免許書を見せたのだがヨネは淡々とした言動だった。


「じゃあ次の命令。なんか外の情報がわかるやつ持って来て。新聞とか。」

「え?!」

「ん? 何よ。」

「あの、俺探索者に合格したんだけど。」

「それ見れば分かるわよ。」

「いや、だから。」

「あん?」

「何か、こう、褒めるとか」

「は?」


ソウジの発言にヨネは冷たい視線を向ける。


「あんた元々探索者になる為に学校に入ったんでしょ。なのにダラダラダラダラ過ごしてきて、あたしに命令されてやっと努力したくせに、よくもまぁ図々しくあたしに要求できたものね。」

「え、いや、あの。」


ヨネの態度に縮こまる事しか出来ないソウジ。

その態度にさらに苛ついたヨネは怒鳴りつける。


「いいから新聞持ってきなさい!!!」

「はい分かりました!」

「こっそりと持ってきなさいよ!」


ソウジは慌てて踵を返し、外に出て、一旦家に帰って今日の新聞を服の下に隠し入れ、再び【コメダンジョン】へと向かって行った。何も持たずに【コメダンジョン】から出たかと思えばすぐに戻ってきた事で検問にいた人達からは訝しむ目で見られたが、何とか【コメダンジョン】に潜れた。


「怪しまれましたよ!」

「あっそ。」


再びヨネがいる民家に訪れたソウジはヨネに新聞を渡した後に文句を言ったがヨネは気にせず聞き流して新聞を読んでいた。


「ふーん。米、というか食料高いんだ。」


ヨネが見ている記事には《食料品軒並み値上がり 今年三度目の米買い占めか?》という見出しから始まるもの。そこをじっくりと読んだ後、ヨネはにんまりと笑う。


「なら、売れるわね。」

「売れる?」


出されたお白湯を飲んでいたソウジはヨネの発言に疑問に感じた。


「売るって何を?」

「弁当よ。」


新聞をちゃぶ台の上に置いたヨネはソウジを見据える。途端に動けなくなるソウジに構わずヨネは話を進める。


「食べなきゃ人は死ぬからね。多少高値に設定しても売れるわねきっと。」

「えっと。なんで、そんな事?」

「お金が欲しいからよ。お金があれば綺麗な反物とか洒落たお菓子が手に入るでしょ。」


物欲で目を輝かせるヨネはソウジに向かって指を指す。


「その為にあんたにはきりきり働いて貰うわよ。」

「いや、金って。そこらに生えてる米を売ればいいじゃん。あんなにあるんだから。」


ソウジが指差した先には民家から少し離れた所にある黄金色の実がたっぷりと垂れ下がっている稲穂が植えられて田んぼ。

それに対してヨネは頰に手を当てる。


「あたし、お弁当屋さんになるのが夢だったの。」

「は?」

「丹精込めて作った弁当が全て売り切れたら最高じゃない。まぁ要するに、こんなの趣味よ趣味。」

「趣味って、あんた。」


人間を苦しめる埒外な存在、【マジョ】とは思えない人間じみた欲望にソウジは呆れる。


「なによ。ふらふらのあんたより確かな目標を持ってるだけましでしょ。今日は帰って明日も新聞と、それと塩を持って来なさい。あっその辺にある稲穂取っていっていいから。」


そう言ってヨネは立ち上がり新聞を手にして民家の奥へと引っ込んで行った。


「えぇ。」


一人残されたソウジはしばらく呆然としていたが、まぁ折角だからと持ってきた米を刈り取る為の小さな鎌を手に稲穂を収穫し、籠いっぱいに詰めた後に【コメダンジョン】から出た。

そして換金した時、予想以上の高値の金額で買い取ってもらえた。予想外の臨時収入にソウジは大喜びした。

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