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【コメダンジョン】二

ダンジョンの生みの親にして支配者。それが【マジョ】だ。

魔女ではなく【マジョ】だ。

教科書や新聞でしかその存在を知らなかったソウジにとって目の前に【マジョ】がいる事に驚き目を見開いていた。


「ほん、本当に?」

「疑うのは自由だけど、なんとなく分かるでしょ。あたしが【マジョ】だって。」


ヨネの言う通り、ソウジはヨネが【マジョ】である事を認めていた。嘘だとは思えなかった。


「な、なんで?」

「だからあんたが【ツカイマ】だからよ。【ツカイマ】は【マジョ】の事を遠くからでも認識できる能力があるのよ。」

「【ツカイマ】?! 俺が??!」

「そうよ。」

「俺は人間だ!!」

「死んだでしょあんた。」

「…あ。」

「あたしもよく分からないけど、ここで死んでダンジョンに吸収されて、【ツカイマ】に生まれ変わったのかしら?」

「しん、死んだ。俺が、死んだ。」


自分が死に【マジョ】の【ツカイマ】に生まれ変わった事実を受け止めきれなかったソウジは呆然とした。ひたすらに同じ言葉を繰り返している。


「しゃきっとしなさいほら立って!」


しかしそれを【マジョ】であり主人であるヨネが許さない。ヨネが声を張り上げるとソウジは素早く立ち上がった。


「…え? え??」


ソウジの意思で立ったわけではない。


「苛つくけど仕方がない。あんたを利用するわ。ほらこっち。ついて来て。」

「えっちょっま」

「うるさい静かにして。」


ヨネの言う通り動く体に恐怖心を抱くソウジだったが、この状況をどうにかする考えは一切思いつかない。ヨネの言われるがままに体を動かした先にあったのは民家だった。


「上がんなさい。草履は脱いでね。」


履き物を脱いで縁側から民家に入って行くヨネに続いてソウジも草履を脱いで民家の奥に進んで行く。


「はいそこに座って。」


ちゃぶ台を挟んで2人は向かい合うように座布団の上に座る。そしてヨネはどこからか急須と2つの湯呑みを取り出し白湯を注ぐ。そしてヨネとソウジの前に白湯が入った湯呑みを置く。


「じゃあ今後のあんたの仕事だけど、まずは探索者になりなさい。探索者の立場は色々と便利そうだし。幸いな事にあんたは人間の時と同じ見た目だし隠蔽能力が高い。あたしでもよく見なければあんたを【ツカイマ】だって気がつけなかった。」


そこでヨネは白湯をひと啜り。


「というわけで今日は家に帰りなさい。探索者になるまでここに来るな。絶対に、何がなんでも探索者になりなさい。」


湯呑みをちゃぶ台の上に置いたヨネはソウジの目を見据える。


「来た時と同じように見つからないように。あたしの事を喋るな。【ツカイマ】だってばれるな。家に着いたら喋ってよし。行ってよし。」


ヨネの発言の直後、ソウジは立ち上がりそのまま草履を履いて外に向かって走り出し、来た時と同じ抜け道を使って誰にも見つからない内に抜け出したソウジは住んでいるアパートの一室の扉の鍵を開けていつも通りに帰宅した。鍵を閉めた後、ソウジは叫んだ。


「嘘だろぉぉぉぉぉ??!」

「うるせぇ!!」


壁が薄い為ソウジの叫び声は隣室の者にはっきりと聞こえてきた。怒鳴り声と共に壁を叩かれるがそれを気にする余裕は今のソウジに無い。


「死んで、ぇぇぇぇぇ。」


玄関あたりでうずくまり頭を抱えるソウジ。しばらくそうしていたがある事に気がつき勢いよく頭を上げる。


「今日何日だ??!」

「うるっせぇって!!」


隣からの怒鳴り声を無視してソウジは急いで鍵を開けてそのまま廊下に設置されているポストまで走る。ソウジの部屋の番号が記されているポストにはいくつかの新聞がつめられていた。ソウジは新聞を手に取り街灯の灯りを頼りに日付を確認する。


「えっとえっと。…三日??!」


新聞を見る限り、ソウジが【コメダンジョン】に行ってから少なくとも三日は経過していた。


「ああああああああまずいまずいまずい! 絶対騒ぎになってるよ!! ばれるばれる!」

「お前! さっきからうるさいぞ!」


新聞を両手で握りしめて狼狽しているソウジに近づいて来たのはソウジの隣に住んでいる中年男性。先ほどからソウジの声に対してうるさいと文句を言っていた張本人だ。外に出ても響くソウジの声に苛ついた男がソウジに怒鳴りつけた時。


「いい加減に」

「うるさい後にしろ!」


男がソウジの肩を掴もうとした時、ソウジは反射的に男の肩を押した。


男は吹っ飛んだ。アパートの前にあるゴミ捨て場に溜められたゴミ袋の山まで吹っ飛んでいった。


「…え?」


ソウジは軽く押したつもりだった。

男は吹っ飛んだ影響で気絶した様子だ。

街灯に照らされているゴミ袋の山に埋もれている男の姿を呆然と見た後、ソウジは自分の手のひらをじっと見て、ようやく自覚した。

新聞を全て落とし、両手で顔を覆う。


「俺、もう、人間じゃない。」


無断でダンジョンに行った代償は重すぎるものだった。


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