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【コメダンジョン】

ダンジョン。

まず何が思い浮かびましたか?

複雑な迷路?

凶暴なモンスター?

金銀財宝?


一つの言葉で多種多様な考えが思い浮かぶ。同じ文字の羅列でも見る人によって意味が変わる。

様々な世界、場所によってダンジョンは形が異なる。


この世界でもそうだ。

この世界でのダンジョンも多種多様。

電波塔。

田んぼ。

駅の地下広場。

などなど。


そしてもちろんダンジョンを攻略しようとする人間も多種多様。

人数は大勢。

武器は開発、販売されておりダンジョンによっては一部使用不可。

ダンジョンを攻略する理由も個人や組織によって様々。


ダンジョンが発生した事をきっかけに様々な過程を得てダンジョンを攻略する仕事、探索者になる為の専門学校が設立されるほどダンジョンが人々の生活の一部になった世界。

探索者になりダンジョンを攻略して成り上がろうと希望と夢を胸に抱いて専門学校に入学する者は後を絶たない。


それだけ人々はダンジョンの存在に魅了されていた。



◆◇◆◇◆



死のう。


渡された戦力外通知が記載されている紙を呆然と眺めた後、男はそう思った。


探索者になる為に専門学校に通っていたが周囲には男よりも遥かに才能溢れる達が大勢おり、男は誰にも見向きされなかった。

それでも探索者になれば何か変わると思っていたが試験結果は不合格。男は探索者にはなれない。


死のう。


男の頭の中はそれでいっぱいだった。

自棄になった男は酒を買い、帰宅した後に全て飲み干した。そして何気なく見ていた新聞の広告を見ていた時、とあるアルバイト募集を見かけた。


《ダンジョン探索の手伝いを募集中 資格無しでも大丈夫 荷物を運ぶだけの簡単なお仕事です》


男はそれに飛びついた。

アルコールで鈍った頭と不合格通知によって削れた精神状態ではまともな判断能力は失われている。

翌日、浮かれた頭で男はすぐに広告に載っていた電話番号に連絡してアルバイトを申し込んだ。


ダンジョンに潜り成果を出せば探索者になれる。

男は根拠も無くそう思っていた。



◆◇◆◇◆



そうして男はあっという間に死んだ。


アルバイトを持ちかけた雇い主達に連れられてやって来たダンジョンは【コメダンジョン】と呼ばれている所であり、その名の通り米が取れるダンジョンだ。

美味しいお米が実っている稲穂がそこら中に生えている田んぼがあちこちにあるのだが、採取しようとすると見張り役として設置されている藁のカカシが襲ってくる。下の階層に潜れば潜るほど品質の高いお米が実っている田んぼがあり、その分カカシも強くなる。


男の雇い主達は下へ進んで行き、男はその後をついて行く。

男の仕事は下の階層にある稲を運ぶ事だ。大きな籠に入れて背負って運ぶ為かなりの重労働だが、男の仕事は本当にそれを運ぶだけ。カカシを倒すのは雇い主達。安心してダンジョン内を歩く事が出来た。むしろ初めてダンジョンに入れた事に男は感動していた。


そんな男達の前に人と同じくらいの大きさのイナゴのような生き物が現れた。


雇い主達はすぐに男を置いて撤退し逃げて行った。

男も逃げようとしたが、背負った物が重いのもあって走る速度が足りない。あっという間にイナゴに似た怪物に追いつかれ足で男の胴体は貫かれた。抵抗する間も無く男は死んだ。


あぁ、やっぱり死にたくない。


死の間際、男はそう思ったが死んだ。

人間の男はこうして死んだ。



◆◇◆◇◆



目が覚めた時、男は田んぼの中で横たわっていた。勢いよく起き上がり全身をくまなく触る。どこにも傷が無い。服装が【コメダンジョン】にいるカカシと同じ服装をし草履を履いている事以外異変は無い。


「…生きてる。」


男はポツリと呟いた。

そう、男は生きている。その事実を実感した時、男の両目から涙がポロポロの流れていき泣きじゃくる。


「うっわ何これ。どういう事?」


しばらく泣いていた時、男のそばで若い女性の声が聞こえてきた。顔を上げるとそこにいたのは白い着物の上に白い割烹着を着た白髪の傷やシミの無い白い肌の美しい少女だった。少女の背後から見える夜明けによって少女が輝いて見える。


「人間よねこれ。あれ。でもカカシと同じ感じ。どういう事? あんた誰よ。」


男を見下す少女の姿に思わず見惚れる男。


「…聞こえてるわよね? 返事をしなさい。」

「はい。」

「聞こえてるじゃない。」


不機嫌そうに男を睨みつける少女。


「あの、君は」

「な、ま、え! さっさと言いなさい!」

「ワタナベ ソウジですはい!」


幻想的な印象を持つ少女の名前を聞こうとしたが、その前に不機嫌そうに声を荒げる少女に男、ソウジは慌てて自分の名前を口にする。


「やっぱり人間よね。名前言えるし。でもあたしの命令には従う。あんた、探索者?」


少女の問いかけにソウジは答えにくそうに声を小さくする。


「…違い、ます。」

「は? じゃなんでここにいるのよ。外の世界じゃダンジョンに入れるのは探索者って奴だけでしょ。あんた、検問はどうしたのよ。」


本当は言いたくないのに何故かソウジは少女の言う事を聞かなければならないと無意識にここに来た経緯を口にした。


「その、俺の雇い主が検問を通らなくていいいい抜け道があるって言ってそこを通ってきました。」

「え。それ、犯罪よね。」

「…はい。」

「馬鹿じゃない。あんた。」


少女の発言にソウジは何も言い返せなかったか。何せ事実だ。切羽詰まった当時の自分ではそこまで気が回らなかったが、冷静になった今はとんでもない事をした事をようやく実感出来ていた。あまりにも遅いが。


「ちょっともう意味分かんない。…んー。でも利用できるか?」


しばらく考え込んだ後、少女はソウジに向かって指差す。


「あんた。とりあえず今までどんな人生送ってきたか手短に話しなさい。」


ソウジは言われるがままにこれまでの事を喋った。ソウジ自身には何故初対面の少女にここまで喋るのかは分からなかったが、何故か言う通りにしなければならない気がした。そうしてひと通り話した後、少女からはため息をつかれた。


「すっかすかねあんたの半生。」


初対面の少女に呆れられた。

かなりの心理的衝撃を受けたソウジだったが何も言い返さなかった。本能的に少女に逆らえなかった。


「まともな親から生まれて実家を出るまでの間はちゃんと暮らせていたのは正直羨ましいけど、一人暮らしを始めてからは本当に駄目ね。明確な目的がないまま探索者用の学校に入って、ダラダラと授業を受けて授業がない時間もダラダラ。精々生活費を稼ぐ為に最小限働いてるくらい。自業自得のくせに被害者面をしてここに不法侵入してきたなんて、本当に愚図ね。」


蔑んだ目で見つめてくる少女にソウジは思わず身震いする。


「まぁいいわ。この際選り好みは出来ないし。」


再びため息をつかれたが、言いたい事を言えたのか先ほどよりも表情を和らげた少女はソウジに向けて指差す。


「あんたをあたしの【ツカイマ】にしてあげる。」

「…【ツカイマ】?」

「そう【ツカイマ】。」

「え。え。え。」


【ツカイマ】というのはダンジョンに発生する生き物、存在だ。

【コメダンジョン】の場合カカシと巨大イナゴが【ツカイマ】だ。

【ツカイマ】を使役できるのはそのダンジョンの主だけ。


「まさか、あんた、【マジョ】?」


その蔑称は【マジョ】。

【ツカイマ】に命令を下し、時には自身が赴き人間を食い物にする存在。それが【マジョ】。


「そうよ。あたしは【マジョ】。このダンジョンの支配者。」


ソウジの目の前の少女は肯定した。自身が【マジョ】である事を。


「あたしはヨネ。あんたの主人である女の名前よ。覚えておきなさい。」

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