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そこの彼女、君は天使ですか? それとも悪魔ですか?  作者: 風まかせ三十郎


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第14話 果たし状

 その日の朝、一年一組の教室は騒然とした雰囲気に包まれた。

 Bクラス十八位の五月雨五月が、Aクラス三位の一番合戦嵐子に果し状を突き付けたのだ。

 普段、通算順位が百近くも離れた者同士の決闘など行われることはなく、誰もがその意図と勝算を訝しんだ。

 級友の田中春代は「五月ちゃん、それ、無謀だから」と彼女の袖を引いて軽く嗜めたりもした。

 また同じく級友の相田洋子は「五月ちゃん、それ絶対、無理無理無理無理無理無理ィ~!」と果し状の撤回を涙目で懇願したりもした。

 いずれも決闘に於ける敗北と、その精神的肉体的ダメージを考慮しての忠告なのだが、五月は自信に満ちた表情で二人の手を取ると「二人とも、ありがと! でも大丈夫。私、絶対負けないから」と言って振り返り様、燃える双眼で嵐子を睨みつけた。


「覚悟なさい。イクと二人で編み出した業で、必ずあなたに勝利してみせるから!」

「ふーん、なるほどねぇ。親友の仇討ちですかぁ。な~んて古風なんでしょ」

 

 果し状を承諾する権利は基本的に受ける側にある。

 しばらくの間、嵐子は指間に果し状を挟んでクルクル回しながら上目使いに考え込んでいたが、やがて決心が付いたのだろう。ーーうん! と力強く頷くと「分かった。あなたの挑戦、受けてあげる」と快託した。


 やった!

 

 順位のかけ離れた下位者の自信過剰、若しくは僥倖を期待した挑戦を撥ね付ける上位者は多い。

 内心ホッと安堵のため息をついた五月だが、そんなことは億尾にも出さず、最重要課題である決闘場所の選定に移った。


「それで決闘場所の選定だけど」

「ええ、どこでもよございますよ」


 しめた!

 

 五月は心中で二度目の喝采を叫んだ。

 選定場所の主導権を相手に渡せば、それだけ自分が不利になるのは決闘の基本。まあ、大概は下位者の希望を受け入れる形で道場が選定されることが多いのだが、無論五月はそのような有り触れた場所を選択する気はない。大切斬の威力が最大限に発揮される状況を得るためには、他のもっと特殊な場所が必要だった。その場所とは……。


「じゃあ、あそこなんてどう?」

 

 五月が指差した場所。そこは校庭の一角に設えた野球用のグラウンドだった。

 嵐子が笑った。


「あなた、私と野球がしたいわけ?」

「そうよ。あなたが打者で私が投手。打つか打たれるか、勝負よ、一番合戦嵐子!」

 

 教室内が再び色めき立った。

 冥王学院開校以来の珍事に、誰もが驚愕と猜疑の目を以て事の成り行きを見守っている。

 唯一人、関佐馬之丞だけが席に座ったまま腕を組み双眼を閉じて、五月の意図を読み取るべく場の気配に意識を傾けていた。

 それは嵐子も同様だったらしく、普段絶えず目が笑っている彼女にしては珍しく、伏せ目がちに相手の真意を探る様な暗い眼差しで、五月の様子を伺っていた。

 大凡一分ほどの時が流れた。


「どう、受ける?」

 

 五月の押し殺した呟き。

 嵐子の瞳に笑みが戻った。


「つまり、このモグラたたきがバットで、あなたの必殺技、ーーええと、何ですかぁ? そう、大雪山だっけ? その刃動がボールってことですよねえ? ええ、いいですわよん。面白いです。その野球対決受けて立つわ。委細承知よ~ん」

 

 そう言ってピコハンをバットのごとく構えると、一本足でクルクルクル~と三回転、最後は王貞治張りのホームランをかっ飛ばすという、例の美少女ポーズD型を決めた嵐子だが、それは見る者に何か取って付けた様なぎこちない印象を与え、級友の神田雄一のように「う~ん、彼女、ちょっといつもより精彩を欠いているねぇ~」と心の動揺を見透かす者もいた。


 フフッ、面白くなってきた。

 

 他者の対戦にはほとんど興味を示さない佐馬之丞だが、このときばかりは見開かれた双眼がどことなくニヤついていた。

 後日、彼は他者の命懸けの決闘をその様な興味本位の目で見たことを恥じ、己に真剣による千回の素振りを課した。まっ、これは余談だが。

 ともかく、こうして両者の間に決闘の承認が成立した。

 後は職員会議に諮って校長の承認を得るだけなのだが、まだ六月だというのに一番合戦絡みで既に四回も決闘が執行されており、その回数の多さに難色を示す教師も多く、また野球対決という前代未聞の決闘方法にも、ふざけ過ぎやら我が校の伝統に泥を塗る行為等と非難が殺到する始末。

 眠っているのか目覚めているのか、担任教師の坂田は俯いたまま黙して語らず、結局会議の流れは決闘の未承認という方向へ流れかけた。

 と、その時、ーーパチン、と花提灯を割って顔を上げた坂田が、ずれた眼鏡越しに左右をキョロキョロ見回して、意見を求められたと勘違いしたのだろう。いきなり直立不動の姿勢で立ち上がり「負傷者の出ない野球形式の決闘は、ぜひ一度試行されるべきであると勘考いたします」と発言した。

 生徒の安全面を憂慮していた校長、山田花子がその意見に賛同したことで、会議の流れに変化が生じ、擦った揉んだの末一部武闘派教師の、ーー決闘は名誉と誇りをもって行われるもの。という伝統的意見を斥けるに至った。

 と言う訳で、ようやく一番合戦嵐子VS五月雨五月の決闘が成立した。

 執行日は六月末日。

 運命(?)の決戦まであと一週間。

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