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26話 後悔しませんか?

改稿が終わり、投稿を再開させて頂きますので、応援宜しくお願いします。投稿頻度は週2.3話を目安となります。

 



「もう、何よ! 真人のバカ! バカバカバカバカー! しょうがないじゃん、お腹すいちゃったんだから……普通、そういう時って気付かないふりするものじゃないの! お腹ぐらい鳴るよ! 人間だもん!」


 移動するやいなや、床に向かって全力で真人へ抗議する莉奈の肩を、美樹がぽんと優しく叩いた。


「そ、そうですよ……。でも冗談で言っただけで、真人くんは気にしてないと思いますよ?」


「わかってるもん……。でも、気にしてないのが逆にムカつくの!」


「なんでですか?」


 言っていることが矛盾している、と美樹が首を横に傾げた。


「それは、だって……。真人はあたしのこと、女の子として見てくれてないんだなぁ……とか。そういう意味で、気にしてくれないんだなぁ……とか」


 はっ、と語り過ぎたと莉奈が顔を赤らめる。


「だ、だから、そのっ、あたしばっかり、あいつのこと気にしちゃっててバカみたい! ってこと!」


 真人への想いが全身から溢れ出しそうな様子の莉奈を見ると、姫花と美樹は顔を見合せて微笑んだ。


「その……美樹はさ、真人のこと、好きになっちゃったりしないよね……? いや、違うの。本当に好きになるなら仕方ないもん。あたしが止めたりなんか出来ないけど……わかってるけど、真人って女の子に優しいし、美樹も好きになっちゃっても仕方ないっていうか……」


「大丈夫ですよ。わたしなんかが、真人さんを好きになるなんて、そんな身の程知らずなことはしないですから……」


 新たなライバルの出現を危惧して、早口でまくし立てる莉奈の言葉を、美樹は自虐的に否定した。


「身の程知らずって……なに言ってんの! 美樹ってば、ちょー可愛いんだから、美樹がライバルになったら負けちゃうかもって心配してるんだし! そもそも、あたしは妹扱いで土俵にすら上がれてないわけで……って、あぁ、もう恥ずかしい! あたし何言ってるんだろ」


「……ふふっ」


「美樹、何笑ってんのよ……」


 恨みがましい視線を送る莉奈を、美樹が優しい眼差しで見つめた。


「莉奈ちゃんは、本当に真人くんが好きなんですね」


「……うん。……まぁ、ね。……好き、だよ」


 真っ赤になった頬を押さえながら、バレバレだったよね、と両手で顔を覆う莉奈を見て、美樹はくすり、と笑う。


「まぁ、わかりやすい……ですよね。わたし、普段はそんなに人の機微とか、わからないんですけど」


「だよね……。あたしの気持ちに気づいてないのなんて、あいつぐらいなんじゃん?」


「告白は、しないんですか……?」


「告白!? ないない! する勇気もないし、絶対に出来ないって! それに、あたしじゃ駄目なんだもん……」


 突然の質問に動揺しながら、莉奈は時折寂しげな表情で俯いた。


「……でも、二人とも息ぴったりで、凄くお似合いだと思いますよ?」


「……うん。仲はいいよ? でも、あいつにとって、あたしはそういうのじゃないんだ。妹扱いだもん、望みなんてないない! 告白なんて、出来ないよ……」


「そう、ですか……。難しいですね、人の気持ちって」


 そう言って、美樹は何かを考える素振りをすると、神妙な面持ちで切り出した。


「後悔、しませんか……?」


「後悔? 真人に彼女が出来ちゃったら、ってこと?」


「いえ、そうではなくて……伝えなかったことを、です。その……わたしが言えることではないかもしれませんが、いつ伝えられなくなるのかなんて、誰にもわかりませんから」


 大切な人の記憶が消える。

 名前も、思い出も、その間に生まれた感情さえも。


 この世界がおかしいのなら、伝えることもなく、知られることもなかった気持ちは、いったい何処へ消えてしまうのだろうか。


 先刻まで話していた記憶の話と繋がってしまい、はた、と三人は動きを止めた。

 ただの恋話だったはずのこの話も、記憶の話と無関係ではないことに気づいてしまった。


「もし、わたしの記憶を忘れられてしまったとしたら、()()()()()()()()()()は、全部無意味だったってことになっちゃうんでしょうか……。全てが、なかったことになってしまうんでしょうか」



 ぽつり、と呟かれた美樹の問いかけは、誰にも拾われることはないまま、三人の間に沈黙が訪れた。




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― 新着の感想 ―
楽しくちょっと恥ずかしく恋バナで盛り上がっていたけれど、記憶が消えるということにつなげて考えてみると、本当に恐ろしいですよね……記憶が消えるということは気持ちや感情まで消えてしまうということで、こんな…
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