表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
路地裏の猫と々と恋  作者: 暦睦月
1/1

初日は気分から



ほんの気まぐれだったんだと思う。

なんとなくそんな気分だったから、そう思った。

きっと、空が青かったから、そう思った。

たまには違う道で帰ってみようか、そんなこと。



2026年9月2日

温暖化なんて感じさせない、例年の平均気温よりも少し寒いぐらいの二学期の二日目。一学期の間にすっかり決まってしまったクラス内のグループからあぶれてしまった僕は、一人本を読みながら家へ向かっていた。顔を上げれば、雲一つない空が広がっていて、快晴か、なんて小さくつぶやいた。僕は晴れの日というのはあまり好きじゃない。直射日光はいつの時期でも暑いし、本に跳ね返って目に飛び込んでくる光が軽く目を焼くからだ。空に吸い込まれそうになっていた視線を左に向けると、いかにも、という感じの老舗があった。ここから帰ったことなんてなかったな、と思った僕は、手に持っていた小説をしまうとまだよく知らない路地裏へと踏み出した。

変わった路地だった、新しくできた建物などなく、風格がある家々や、昔からずっとここにあるのであろう料理屋などが永遠と連なっていた。ここだけは時代にとらわれない空間のようで、昭和に生まれたわけでもないのに、この昭和を結集したかのような空間を不思議と懐かしいと思った。せっかくだからと思って、進んだ先にあった分かれ道は全て細い道を選んだ。いつかどこかで行き止まりに着くだろうと思いながら歴史を感じる家を眺めながら進んでいった先には、商店街があった。そこは幽霊商店街だった。といっても、幽霊なんてものが出るわけではなく、とうの昔に全ての店がつぶれてしまった商店街が、壊させることもなく、人が一人もいない、霊でも出そうな場所になっているから、幽霊商店街。この町唯一の観光名所だ。平日の夕方からそんなところに訪れる人はなく、たどり着いたそこは、名前にふさわしい静けさと不気味さを放っていた。

「一人で来るのは初めてか」

まだ小学生だったころに、三つ上の兄と訪れたことはあったが、その時は兄と兄の友人もいたから、はしゃぎまくって、あまり怖くなかったような気がする。せっかく来たから、僕はそう思って、おっかなびっくり進むことにした。記憶の中に眠っていたあの日の景色はまだ健在で、闇夜に見るそこと、夕方に見るそことではだいぶ印象が違っていたけれど、あの時に見た建物たちは今もまだ、姿かたちを変えずそこに屹立していた。商店街の中ほどまで来たところで、身軽そうな黒猫が僕のことを見つめながら過ぎ去っていった。何か食べ物がもらえるわけでもない廃墟と化した商店街を横断する猫がなんとなく気になってしまった僕はその猫が進んだ方向へと足を進めた。猫は僕が来るのを待っていたのか、首をまわして僕のほうを見ていた。僕を視認するや否やゆったりと歩き出した。時々振り返りながら、うねうねと進んでいった先で黒猫は止まった。猫につられて足を止めるたのはもう何処かもわからないどこかの店の裏道だった。多くの配管が通るそこでは、同い年ぐらいに見える少女が何匹かの猫に餌をあげていた。黒猫はとことことそこの輪に加わっていった。

邪魔するのもよくないかな、と思い、来た道を帰ろうと足を向けた時、呼び止められた。

「ちょっと待って」

ちょうど餌をあげ終わったのか、彼女は手を払いながらすっくと立ちあがると、眉間にしわを寄せて言った。

「見た?」

餌をあげていたのを見られたのが嫌だったのかもしれない。

「見てないよ。見たとしても見てない」

「そっか。ならいいや」

眉間によっていたしわを戻すと、横に置いてあったバックをとると、僕の横を通りすぎてスタスタと行ってしまう。

「あ、ちょっと待って」

遠ざかる背中に慌てて声をかけた。

「何?」

「その、、道が、分からないんだ」

「わかった。大通りまで行くから、ついてきて」

さっきみせた怪訝そうな顔はどこへやら、時々ちらと振り返る彼女の顔はどこかさっきの黒猫と重なるものがあった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ