第一浸食人格「老老老老」
先輩の下級天使は銀髪で細めの女性の姿をしている。
全く、いつも人の話を聞かないのだから。
「はい、痛み入ります。」
次からは、しっかりしなさい。
「いえ、今から直します。」
今回の仕事はもう終わりですから。
「はい、分かりました。」
次の任務に備え、休息を取りなさい。
「いえ、僕はまだやれます。」
これは命令です。
「はい、分かりました。」
先輩の下級天使にはいつも頭が上がらない。先輩の下級の天使のすごさは僕がよく知っている。
だけども僕の住居は関所からかなり遠い。また、家族などはいないので住居に通う必要がない。
しかし、これは先輩の天使の命令だ。僕の住居は関所からおよそ三万歩の距離にあるが、この精神状態で一人で三万歩は、かなり厳しいし寂しいだろう、なので僕はあまり気乗りはしないけど昔の同期の家に行くことにした。
休息を取れれば場所は何処だって良いだろう。と思いやはり気乗りしないが、おおよそ四千歩を歩き昔の同期の最下級の天使の家行くことに僕は決めた。
時間が思ったより長くかかったらしい。昔の同期の最下級の天使の家につくころには、日が沈み欠けていた。
関所と同じような門の前まで歩くと、僕は挨拶をした。
「はい、同期の最下級天使です。」
最下級の天使か。
「はい、最下級天使です。」
門が開き始め昔の同期の最下級の天使が顔を見せた。昔の同期の最下級天使は少し微笑んだかと思えば、いらっしゃいと声を掛けてくれた。
お前が会いに来るなんて、珍しい。
「はい、久しぶりですね。」
大したもんは無いが、ゆっくりな。
昔の同期の最下級の天使は、銀髪で背が曲がっている人が良さそうなお爺さんの見た目をしている。
どうだい、あっちの仕事は。
部屋に入りながら、僕はそう問はれた。
「いえ、最近は難しいことばかりで。」
そうかそうか、そりゃあいいな。
少しお酒を飲みながら昔の同期の最下級天使は幸せそうに呟く。
お前さんも、そろそろじゃねえか。
「いえ、僕なんてまだまだですよ。」
わしは、そろそろじゃよ。
「はい、そうですか。」
説明を省いていたが、ここは天使人格のリセットをする為の事前準備をする場所だ。この場所を昔の同期の最下級の天使の家と言ったのは、昔の同期の最下級の天使の家がもはや存在せず、ここに来てすでに家にいた時よりはるかに長い時間を過ごしていたからである。
まあ、いつでも同じだがな
「いえ、そんなことは。」
重い雰囲気に飲まれ、言葉がうまく出てこない。あと何日昔の同期の最下級の天使には時間が残されているのだろうか。
わしは、いや、俺が間違ったのか。
「いえ、そんな事はないですよ。」
昔の同期の最下級の天使は元々、一人称が俺の明るい少年の見た目をしていた、しかし今の見た目の老人に精神を浸食され、見た目や一人称精神までもが書き換えられ今に至る。
もう、いいんだ。
「いえ、諦めずにいれば回復も。」
分かっているだろう。もうだめだ。
「はい、そうですか。」
もう行くといい、次があるだろう。
「はい、そうですね。」
休憩の為にここに来たのに、かなり気分が落ちこんでしまった。僕は逃げるように別れの挨拶を告げると、その場所を後にした。
行き先も当てもなく彷徨う僕は、まるで死んでいるみたいだった。昔の同期の最下級の天使がもう直ぐいなくなってしまうのが悲しいのか、励ますどころか悲しませるようなことばかり言ってしまったのがもどかしいのか。
もうどちらにしても、僕は最低だったとしか、言いようがない。
昔の同期の最下級の天使はこれからどうなるのか。僕はこの仕事を続けて行けるのか。浸食されたら僕は一体、何になってしまうのか。
尽きない疑問を抱えながら僕は、また行くあてがない道を歩き始めた。
すると直ぐに音が聞こえ、周りの雑音が全て聞こえなくなった。
誰かの叫び声が聞こえた。その叫び声は暫く止まず、途切れ途切れに呼吸を繰り返しながら、それでも叫び声を上げ続けていた。
叫んでいたのは僕だ。獣みたいで、とても美しいとは言い難い哀れな姿で、叫び続けていた。
後から知った話だが、天使人格を侵食した人格の名は老老老老というらしい。偶然というものがとても恐ろしいものに見えたのは、その時が初めてだった。
椋鳥です。またまた椋鳥です。
流石に二回目なので少し煩わしいと感じた方も、
いるのではないかと思います。
最近は熱いので、お体に気を付けて。
物語については、色々あると思うので良ければコメントに。