第一転成「明明明明」
被告人、明明明明を死刑に処する。
被告は残虐な方法で被害者達を殺害したと認め、また状況証拠などから犯人である可能性が極めて高いと思われる。
この件では一切の情状酌量も認められず、速やかな刑の執行のみが保証されている。
最後に被告、何か申し開きはあるか。
「いえ、なにもありません」
その裁判官は興味が無さそうに僕を見ていた。確かに裁判官は不思議で仕方が無いだろう。この最高裁判所において死刑ということはつまり、文字道理死刑になってしまうのだから。
では、これにて閉廷とする。
その裁判官はこちらを最後に一度だけ見て、その場を去っていった。最初から最後まで目を合わせなかった裁判官は一度だけ僕と目を合わせた。
なぜ目を合わせてくれたのかは分からないが、最後に一つ思い出ができて僕は嬉しかった。
だから、過ぎる時間もどうでもいいことに思えていく。
一日が経つ
二日が経つ
段々その日が近くなる
一日が経つ
二日が経つ
もうすぐその日は来る
一日が経つ
二日が経つ
もう少し先にその日が
一日が経つ
二日が経つ
その日は今日みたいだ
目の前にいるのは知らない人達、僕を迎えに来たのだろう。流石にこんなに長い時間待たされるのは少し大変だったけど、来てくれたのなら問題は無い。
「さあ、行こうか。」
それが僕の明明明明としての最後を飾る言葉になった。
長いのか短いのかはいまいち分からない。この人の生の中で僕は沢山の免罪を背負ってきた、特別でもないありふれて存在する唯の人。
悲しいのか。と問はれる
「いえ、そうでもないです」
苦しいのか。と問はれる
「いえ、問題はありません」
後悔はないのか。と問はれる
「はい。これで終わりですから。」
問いと答えが三回ほど繰り返された。しばらくすると向こうは満足した様子で去っていった。
明明明明は死亡した。
たった今かもしれないし、昨日かもしれない。
僕には想像も出来ないような人の生を明明明明は過ごしてきたのだ。
だけど僕が入った瞬間から明明明明は死んでいる。
免罪をすべて回収し終えた僕は、天使としての仕事を始めた。
僕は最下級構成員の天使である。
僕の仕事は免罪を集めることと、免罪を味わう様々な世界線の人達の代わりにその罰を受けること、
その二つである。だが、罰を受けるといっても痛覚は遮断されているので実際に痛いわけではない。
しかし仮に入った体の精神に侵された場合、天使精神のリセットが行われる。天使精神のリセットが行われると、前の人格は消滅して新たな人格の再構成が行われる。
天使にとって人格の再構成は人間の死と同義であると認識されおり、進んでこの仕事をやりたいという天使はごくわずかだ。
今回僕はかなりまずい状態まで明明明明の精神に影響を受けてしまった。浸食までは行かなかったものの多少の悪影響が出ている。
その分かりやすい例が一人称の変更だった。僕は元々私という一人称だったのだが、悪影響のせいで一人称が僕に変わってしまった。
ここから先はもっと気を付けて免罪を収集しなければならない。
これは気を付けてどうにかなるものでは無いのだが、心に止めておくだけでも多少は異なってくる筈だ。
何をしている。
「はい、申し訳ありません。」
ただちに帰還しろ。
「はい、分かりました。」
先輩とも呼べる下級天使にせかされ、僕は明明明明の体から急いで出る。
出た先は、雪の結晶を模した花びらが人の数ほど舞い上がると有名な転成門という場所だ。転成門とは桜の幹の見た目をした石の門で、辺りはまるで満開の雪景色のように常に美しい。ここで体から天使が出ると自動的に体は処理される。
明明明明には次こそ免罪なんてものに関わらない普通の人の生を歩んでほしい。と地面から出た枝のようなものに絡め取られていく明明明明を横目に、僕は身勝手にも思った。
転成門をくぐり抜けて一本道を駆け抜けると、そこには城や要塞を思わせる関所があり、その関所では事務作業をしている下級天使が多数所属している。
そこには勿論先輩と呼べる数少ない下級天使もいるはずだ。
少し歩いて関所の門を三回叩き、合言葉を唱える。
「我、内なる天使は救済と敬愛の精神の元、ここに存在す。」
門が開き、関所の広間が顔を出す。怒り気味の先輩下級天使も顔を出していた。
遅い、何でこんなに遅くなるのか。
「はい、申し訳ないです。」
先輩の下級天使は銀髪で細めな女性の姿をしている。
椋鳥です。椋鳥です。どうも椋鳥です。
名前だけでも覚えて頂こうと思った結果、こうなりました。
僕はこの小説で5作目になります。
皆様をアッといわせるような小説を描いていくので、どうぞ今後とも名前だけでも覚えて頂けるよう頑張ります。
作品に関しては色々言いたい事があると思うので、良ければコメントに。