実家の屋根裏に野生の信長が住み着いてしまった
「あの……」
「織田信長と申す。
よろしくお願い申し上げる」
信長はそう言って頭を下げる。
こちらもつられて頭を下げた。
「あの……どうしてうちに?」
「気づいたらここにいた。
しばらくの間、かくまってほしい。
迷惑はかけない」
そうは言うが、迷惑はめっちゃかかっている。
還暦を迎えた両親が、屋根裏部屋に居ついた信長の面倒を見るのは大変だ。
業者を呼んで駆除するとしたらお金がかかるし……参ったなぁ。
「すみません、実は今夜、我が家は焼き討ちにされる予定で」
「なん……だと……」
「焼き討ちされるのは嫌でしょう?
ですから、今日中に出て行って欲しいんですね」
「ぐぬぬ……」
あと一押しってところか。
俺は納屋から七輪を持ってきて、廊下でサンマを焼くことにした。
最近は値上がりしたなぁ。
煙がモクモク立ち上る。
「ごっほっ! げっへ!
おのれ明智! またはかったな!」
屋根裏で信長がなにかほざいている。
「信長さーん。
そろそろギブアップしてくださいよ!
うちだって食費がかかって大変なんです!」
「くそぅ……かくなる上は、切腹あるのみ!
蘭丸ぅ! 介錯を頼むぞ!」
あーあー。
ついに切腹とか言い出したよ、この人。
信長を家で飼うのも大変だなぁ。
あと、うちに蘭丸はいない。
俺はサンマを食べた後、バルサンを大量に焚いて外出することにした。
ゴキブリが湧いていたので、ちょうどいい。
両親にも出かけるように言っておこう。
しばらくして実家へと帰り、屋根裏を確認すると……。
「むっ……むねん」
討ち死にした信長がいた。
保健所に連絡して引き取ってもらおう。
野生の信長は放っておくと復活するので、さっさと処分しておいた方がいい。
倒れた信長を庭に引っ張り出してブルーシートをかぶせた。
保健所に連絡しないと……。
事後報告になってしまうが、害獣駆除届も提出しないといけない。
まぁ……明日でもいいか。
――なんて悠長に構えていたのがいけなかった。
翌日。
俺は庭に信長を確認しに行く。
しかし、ブルーシートの中に信長はいなかった。
予想よりも復活が早かったな……くそ。
また屋根裏で勝手に住み着かれたらたまったものではない。
早く見つけないといけないと思い、庭を探していると――
「おい、そこで何してるんだよ?」
「殿……履物を温めておきました」
そう言って尻に敷いていたサンダルを差し出す元信長。
どうやら秀吉に転生したらしい。
コイツマジ……ホトトギス。