あるタヌキと青年の話
むかしむかし。あるところに、1人の青年がいました。その青年は1人で暮らしていました。決して豊かではないけれど、1人なりに楽しく暮らしています。
そんなあるとき、青年が畑仕事をしていると、どこからか「キューン」と鳴き声が聞こえてきました。これはどうしたと鳴き声のする方へ駆け寄りました。そこへ着くと、1匹のタヌキが怪我をしていました。
「おぉ、可哀想に。他の動物にやられてしまったか。」
青年はそう言うと、怪我をしたタヌキを持ち上げ、家に連れて帰りました。
その日から、タヌキの看病の日々が続きました。青年はこれはこれは、大事に看病してやりました。畑仕事をしていてもタヌキのことが気になり、家と畑を行ったり来たり。夜も一緒に寝るなど四六時中タヌキといました。そして、幸いにも怪我は軽いものであり、タヌキは日を追うごとに元気になっていきました。
「よしよし、よく頑張ったな。もう、これで大丈夫だろう。」
「ウワン」
「うお!これこれ、飛びつくでない!」
まぁ、当然このようにタヌキは青年に懐き。青年もまた、タヌキに愛着が湧きました。しかし、別れのときは来るものです。怪我が治ったタヌキは、自然へと帰ります。
「もう怪我するでないぞ〜。お前は抜けてるところがあるということが、この数日で分かった。だから、ちゃんと気をつけて生きろよ〜。」
「ヴ〜」
「はっはっは!怒るなよ!」
「ウォン」
「あぁ、じゃあな。」
タヌキは山へ、青年は家へと帰って行きました。
青年は家へ帰るとタヌキとの思い出に浸りしんみりとしていました。一方そのころタヌキは、自分の群れを見つけ、仲間に歓迎されていました。
「あぁ、よく帰ってきた。心配したんだぞ!」
「ごめんなさい。」
「まぁまぁ。無事でよかったじゃないの。」
「それもそうだが…」
「あれ?この傷痕どうしたの?」
「あっ!これはね、人間に手当してもらったの!」
「「人間に!」」
驚いた仲間たちにタヌキはことの顛末を話してやりました。
「そんな優しい人間がいたとは…」
「でしょ〜。あぁ、もう一度会いたいな〜。」
「馬鹿もん!そんなこと言ってる場合か!お前は早く化けられるようになれ!」
「ゔっ…」
そうです。このタヌキ、化けることができるのです。しかし、全然うまくいかず、嫌になり逃げだしたところ怪我をし、その結果、青年に助けられたのです。
「分かったよ…」
タヌキはトボトボと自分の住処へ帰って行きました。
しかし、次の日、タヌキはあの青年のところへ出かけて行きました。タヌキはあんなお叱りではへこたれません。怒られすぎて慣れてしまっています。
「ふふ。見つからなければ、みんなに止められないし、怒られない。よーし、あの人のところへ行こう!」
タヌキが歩いていくと青年は畑仕事をしていました。
「あっ!いたいた。おーい!」
「ん?」
青年には、ただの動物の鳴き声にしか聞こえませんが、声が届いたようです。
「おぉ!お前はあのタヌキか!?」
青年はそう言うと同時にタヌキの方へ駆け出し、タヌキも青年に駆け寄ります。
そして、青年はタヌキをしっかりと抱きとめました。
それからというもの、タヌキと青年は毎日会いました。そして、楽しくすごしていました。
しかし、ある日のこと、青年の顔が曇っていることにタヌキは気がつきました。
「クゥーン」
「ん?どうした?」
「クゥーン」
「なんだ?心配してくれているのか?あはは、悩んでいることがタヌキにもバレちまうなんて…相当だな。」
青年は少し黙るとポツリポツリと話し始めました。
「最近な村のみんなが結婚しろとな言ってくるんだ。今まであいまいに断ってきたが、村のみんながお見合い相手を見つけてきてしまって。しかも、いいところのお嬢さんときた。まぁ、親がいないぶん村のみんなには世話になったがなぁ…」
この話を聞きタヌキにはいい考えが浮かびました。そして、前に助けてもらった恩を返すとき来たと思いました。加えてラッキーとも。
タヌキは住処へ帰った後、作戦を練り、題して【私という女が家にいるので、花嫁はいりません!作戦】というのを思いつきました。要するに、このタヌキが人間の女性に化けて、青年の家に忍びこみ、村の人に見せつければお見合いの話もなくなるだろうということです。しかも、このタヌキは青年をかっこいいと思っているので、青年との同居となると一石二鳥です。
タヌキはしめしめと思いながら、作戦の実行の日に備えるのでした。
今日はお見合いの相手が来る3日前です。そう、作戦実行の日です。青年はタヌキに毎日のようにお見合いへの悩みを話していたので、タヌキは作戦をスムーズにたてることができました。
今日という日のためにタヌキは一生懸命化ける練習をしてきました。そして、クールビューティー系の人間女性に化けることができるようになりました。ほとんどのタヌキは可愛い系になるのですが、このタヌキは違ったようです。「なんだかキツネが化けた姿みたい」と少し悩みましたが、こんな小さいことでは悩んでられません。青年のお見合いはもうすぐなのです。
さぁ、作戦実行です。
コンコン
「ん?タヌキかな。今日は少し早いな。ちょいと待っておくれ。今、開ける。」
ガラガラと戸を引くと、そこには、タヌキではなく、美しい女性が立っていました。
「なっ!?」
「いきなりすみません。実は私、この山を下って町へ行こうと思ったのですが、足を挫いてしまって…どうか3日間だけでも泊めていただけないでしょうか。」
「えっと…」
これはどうしたものかと青年は頭を悩ませました。男と女が同じ屋根の下など言語道断です。しかも、相手は嫁入り前のような自分と同じ年の女性です。けれど、他の家に勧めようとも遠いところにあり、家族で住んでいるものだから、この娘の場所はないだろう。だったら、独り身の自分の家が1番なんだが…
青年は考えた末に、自分から変な気を起こさなければいいだけだろうという結果に収まりました。
「それは大変だったな。狭いところだが、どうぞお上がりください。」
「ありがとうございます。助かりました。」
ここから、化けたタヌキとその化けた美人姿にドギマギする青年の生活が始まりました。
青年の家にいる美人のことは、すぐ村に広まりました。そして、村人たちは思いました。
「あんなにお見合いを渋ってた奴が、こんな美人を家にあげるだなんて…
あっ!もしかして、お見合いは余計なお世話ってことだったのか!
そうかそうか。もう心に決めた人がおったのか…こりゃまた、美人を捕まえおって。」
そうやって、タヌキの思惑通りに村人たちは勘違いをしていきました。
そうして、お見合いの話は無くなっていきました。
3日たち作戦終了です。タヌキは帰る準備をしていました。タヌキは作戦が成功して大満足です。これで青年にも恩返しができたなと思いました。ですが、タヌキには気になることがありました。それは、青年が今現在となりの部屋でずっとそわそわしているからです。私は何かやってしまっただろうかとタヌキは不安に思います。そこで、タヌキは今日いなくなる身だし聞いてしまおうと思い切りのいい判断をくだします。
「あの、すみません。先ほどから、どうかされたのですか。」
「えっ!いや、あの…一つ聞いてもいいか。」
「えぇ、どうぞ。」
「お前はあのときのタヌキか?」
「えっ!」
これには、タヌキもびっくり仰天です。いつどこでバレたの!?とタヌキは焦りまくりです。
「いやぁ、年頃の娘にこんなこと聞くのは失礼かとは思うが、どうしても気になってなぁ…」
タヌキには年頃の娘なんてどうでもいいことです。なぜバレてしまったのか。化け姿は完璧だったはずです。
「な、なぜそう思われたのです?」
「だってなぁ、釜の番を任せると薪を入れすぎて火をボウボウにして、慌てて水をかけて逆に火を消しかけたり、すぐに転けるわ。そんなドジする奴はあのタヌキに違いないと思ってな。」
そうです。タヌキの化けた姿は完璧でしたが、中身はそう変わらないものです。だから、タヌキはドジっ子クールビューティーというギャップがある人になってました。
青年はこの娘と暮らして、初めは戸惑い、そのギャップにメロメロでしたが、ふと違和感を持ちはじめました。こんな感じの奴、見たことあるような…
そうやって、違和感を持ちはじめて、最後の最後に思い出しました。そして、どうしたと言われ、つい聞いてしまったのです。
「…そうです。私は、あの時のタヌキです。」
「やっぱり、そうか!でも、どうしてだ?」
「それは、あの時の恩返しがしたくて…迷惑でしたか?」
「いや、ありがとう。おかげで、興味のないお見合いもしなくて良くなった。本当にありがとう。」
「よかった。お役に立てたようでよかったです。それでは、私は帰ります。3日間ありがとうございました。」
タヌキは帰ろうと立ち上がりました。青年も立ち上がり、タヌキを見送ります。
「それでは、さようなら。」
「あぁ、3日間楽しかったよ。」
「ふふ、私もです。」
2人は別れました。タヌキは山に、青年は家に帰ります。
この1人と1匹は、タヌキと人間、もしくは美人と青年として、また出会うことはあるでしょう。けれど、永遠に結ばれることはありません。タヌキにはタヌキの、青年には青年の人生があります。化けた姿は好みだったかもしれないし、助けてくれた者こそが運命の人と思ったかもしれません。でも、それだけです。
しかし、これだけは断言できます。1人と1匹はこれからも自由気ままに楽しく暮らすでしょう。