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交換日記の相手は聖女でした。  作者: 緑のノート
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交換日記

 あれから数日経った。

 屋敷を襲撃しようとした者達は、魔界の辺境で惨殺されて見つかった。魔法の痕跡から仲間割れだろうと判断されたが、シニスの派閥の者達であったことと、私の領域の方へ向かったのを目撃している者がいたとかで、弟に対する嫌がらせではないかと、私を疑う向きもあるようだ。

 実際に犯人は私なのだが、ただ火の粉を払っただけであるし、細工した上で犯人と断定させるような証拠は徹底的に消してあるので、よほど痕跡を追うのに長けた者でない限り疑いが掛かることはない。魔界は二日と空けず起こった序列の変動でお祭り騒ぎ真っ只中なので、それもよい目くらましになっている。


 この件と先に約束を蹴ったこともあるので一度シニスに会いに行く必要があるとは思うが、今の私は忙しいのだ。

 図書室に降りた私は、魔法で書架からノートを取り出した。


 表紙には「デクスさん⇔つむぎ」と飾り文字で書いてある。


 そう、交換日記である。


 私が『ひとりぼっちの王女と紫陽花の約束』の感想とお礼を送った後、つむぎは手紙に返事をくれた。そこには、周りに本を読んで感想を言えるような仲間がいなかったので感想をくれてとても嬉しかったことと、好きな場面について書かれていた。


 三巻の終わりですが、私は王様に愛されなかった一人ぼっちのヒューリアが、役に立てるのならと、国の為に罪をかぶって毒の盃を口にしようとした瞬間、騎士が助けに来てくれた場面にきゅんとしました!彼は昔にヒューリアと交わした約束を覚えていて、彼女が無実である証拠と、檻のような王家から抜け出す手立てを探してくれていたとその時初めて分かって、いけ好かない冷淡な男だと思っていたのに、いい意味で裏切られたのです。「私はこれからも、貴女とあの紫陽花のそばで、たくさんの約束をしていきたいのだ」特にこのセリフは反則です!


 それに返事を出したところ、届いたのがこのノートだ。

 なんでも彼女の部屋を勝手に覗くのを趣味にしている覗き魔が私の手紙を見つけて、詮索してきたらしい。だから手元に手紙を置かなくても済み、お互いの書いた物が一覧できるノートでやりとりしませんかと提案してきたのだ。ノートには他にも彼女の恨み言が書かれていた。


 あの気持ち悪すぎる覗き魔は、機会があれば簀巻きにして、戦場のど真ん中に放り出してやります!私の性格ではヒューリアみたいにおとなしく見ているだけなんてできませんから。


 確かにと思ったのは内緒だ。あんな苛烈な暴言を吐く少女なら、ただ大人しくしているだけというのはあり得ないだろう。今はノート二巡目だが、最新の日記には、国は戦争の最中でとても忙しく、戦場に駆り出されて功績を上げたにも関わらず、前に話したハゲだぬきに有耶無耶にされて奪い取られたのだという怒りの文が記されている。私の領域に穴を開ける程の腕前なら、当然戦場に行くこともあるだろう。つむぎが同族か兄弟が引き起こした戦争に巻き込まれているのが容易に想像できて、少し気の毒になった。


 そちらは大変な情勢のようですね。まずは、つむぎさんがご無事だったことを喜ばせてください。せっかくできた交換日記のお相手に何もなくて本当によかった。戦争は何でも無差別に壊していきますから。ある国に私の好きな本屋があったのですが、この前の戦争に巻き込まれてなくなってしまいました。あの国の街並みはすばらしかったし、気に入っていたレストランや通りもあったのに残念でなりません。その戦争を引き起こした魔族にはどうにかして報復してやりたいと思っていましたが、次の戦争で再起不能になったようなので、胸が空く思いです。


 序列元二位を思い出して筆圧が強くなってしまった。奴は私が人間界へ度々降りているのを知っていた節があるから、あの本屋を潰したのもきっと嫌がらせに違いないのだ。

 その他にも、覗き魔対策に、手紙を開いたら破裂音がするいたずら魔法陣を仕込んだらどうかという提案を書いたり(魔法陣を添付した)、彼女の本の感想に対する感想等も書き加えてから、亀裂に差し込んだ。つむぎには魔法で必ず日記が届くようにしたと伝えてあるので、次の日か遅くとも数日後には返事が来るだろう。


 リベルは不在なので、一階に上がると、甲冑姿の従者が控えていた。昼食の準備ができたがどこへ運ぶかと尋ねられたので、少ししてから書斎に運ぶように告げて、私は一足先に転移で書斎へ向かった。

 机に積まれた書類を一枚一枚確認していく。序列上位の者、それも王族になると、派閥を作らずとも配下がいる。魔界にはそれぞれの領地があって、各々が治めているのだ。

 私の場合は領地の統治の他にも手掛けている事業があるので、目を通す書類も自然と多くなる。昼食を挟んで執務を続けていると、夕食近くになって領域内にリベルが帰って来た。人間界の視察を頼んでいたのだ。


「只今戻りました、我が君」

「よく戻った。聞こう」

「その前にこちらをお渡ししますね。五巻でお間違いなかったですか?」

「おお!ありがとう!」


 リベルは私が本を図書室に送ったのを確認してから報告を始めた。


「まずレトナーク王国周辺ですが、多数の魔族が侵攻を始めているようです。主だった者として五位が東側を攻撃中、一位の分隊が聖女が二位を破ったという北の国境へ向かっています。加えて、元二位の率いていた部隊の一部がレトナーク王国北部でゲリラ化し、集落や地方都市を襲っているようです。……三位、現二位は、依然小国と交戦中でそちらへ向かう気配はありませんでした」

「シニスの本隊はどうしている?」

「シニス様の本隊も同様、先に攻め落とした王都から動く素振りはありません。我が君、シニス様が何か?」

「気になっただけだ。他には?」

「聖女の情報を少しばかり。聖女は現在北のゲリラを掃討中です。聖属性魔法と空間魔法の使い手のようですが、私の知る歴代の聖女の中でも指折りの実力かと。五位では力不足でしょうね。黒髪の長髪に戦装束は銀の甲冑、……名前を探るのには苦労しましたが、ツムギ・フジワラというそうです……我が君?」

「っ、っごほん……だいじょうぶだつづけてくれ。せいじょのなまえはツムギ・フジワラというのだな」

「ええ、特徴的な名前ですから間違いないでしょう。名前の響きからして異国人のようですね」


 胡乱げに見てくる従者の視線を感じながら私は平静を保つのに必死だった。

 つむぎ。魔法の技能。この符合は間違いない。


 ……交換日記の相手は、聖女だったのだ。


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