王子の前世の記憶が戻った時には、手遅れだった。
side ロイ
俺は、ロイ第2王子だった。
婚約破棄を取り消すために、元婚約者のアリスの屋敷まで謝罪しに来たんだ。
何故謝罪に来たかと言えば、王立学園で婚約破棄の騒動があったらしい。
らしいというのは、別に記憶喪失と言うわけではない。
昨日までの俺の記憶に残っていたからだ。
昨日までの俺っていうと、今の俺は違うのかって言われると、外見上は変わっていないが、
中身が変わってしまったというのが分かりやすいのだろうか。
今、俺には前世の記憶がある。
先ほど屈辱に耐えながら婚約者に謝ったら、婚約者のアリスは許せなかったらしい。
まあ当然だろう。
色々殴られたため、倒れたときに頭を床に打ったら思い出した。
顔や、上半身、脚など色々な所が、まだ痛む。
しかし、情報は大事である。
記憶が戻ったことに比べればそれらは些細な事である。
まあ昨日までの俺なら、アリスを罵倒したり、つかみかかろうとしたかもしれないが、前世の俺が警鐘を鳴らしている。
逆らってはいけないと。
前世の俺は、上の妹と、下の妹に言われるがままに、
「愛と魔法と学園鎮魂歌」
という、乙女ゲーの攻略、レベル上げ、各種コンプリートの手伝いをしていた。
そのため、乙女ゲーがどんな物か少しは知っていたつもりだ。
その派生作品の悪役令嬢スピンオフ
「悪役令嬢は貴族達を隷属したい」
通称 ぞくぞく
の第2王子の隷属シーンにあまりに酷似しているため、前世の俺はこのような状況に詳しいんだ。
なお、このまま感情のままに、激高してなぐりに行った場合、アリスに返り討ちに遭いそのまま隷属されてしまう。
この時点での、アリスのステータスはロイのおよそ5倍である。
勝てるわけがない。
そもそもこのゲームの初めのチュートリアルが、よわよわな第2王子を隷属するところからだったはずだ。
たしか、王子が戦意喪失して逃げる場合でも回り込めて隷属できる、お手軽チュートリアルだった
。
あれ?詰んでない?
普通記憶が戻ったら、何とかできるタイミングって物があるんじゃないですか?
そもそもどうして?
男爵令嬢とか、手も出してないのに。
俺はひどい目に遭うだけに記憶が戻ったのか?
何で第2王子の失態を記憶が戻っただけの俺が受けなければならないんだ。
ざまぁの原因が俺に無いのに、ざまぁだけされるって。
しかも現時点では絶対勝てない婚約者のアリスが前に居る。
『もうおしまいだ。』
これから起こる色々なことを思い出しながら、俺は絶望していた。
side アリス
私はアリス。
侯爵令嬢で、目の前にいるロイ第2王子の元婚約者だ。
殿下は、原作通りの行動をしてくれたお陰で、婚約破棄ルートまでは簡単に終わらせることができましたわ。
そして私には前世があります。
あれは、私が幼かったころ、階段から滑ってちょっと頭をぶつけたときに、前世の記憶が蘇りましたの。
そしてこの世界が、「ぞくぞく」というスピンオフ作品に見せかけた、同好の士達が作った。
「ぞくぞくの果てに、王子たちは何を見るのか」
通称 ぞくはて
全年齢版は企業からも出たが、記憶が戻ってから今までの雰囲気で私は理解しました。
この世界は、「ぞくはてオリジナル」の方だと。
内容は詳しくは言えませんが、王子の目のハイライトが徐々に消えていく演出など、とても良い作品だとお伝えします。
推しのロイ様が、簡単に屋敷に来て下さる、今日が一番のチャンスですの。
でもおかしいですね。
たしかチュートリアルでは、1回目の戦闘で力の差を見せつけても、
「王族の俺を殴ってタダで済むと思っているのか?」
とか
「騎士たちに、連行させて後悔させてやる」
とか。
あの素敵なボイスで罵倒してくださるのに。
『もうおしまいだ。』
えっ。日本語?ロイ様がなんで日本語を?
そうか、ロイ様は私と同じ日本人でしたの。
大丈夫ですよ。ロイ様。
隷属魔法は精神にも影響を与えることができます。
日本人の記憶を忘れて、すぐに元のロイ様に戻して差し上げます。
私は、笑顔を抑えながら。隷属魔法の準備をいたしました。
完
あとがきのコーナー
ご覧いただきありがとうございます。
京安藤しーぷです。
愛が重たい。
まあ、ハッピーエンドなんですかね?
推しを好きにできる、悪役令嬢。
記憶が戻っても、どうにもできない王子。
全ては遅すぎたのかもしれません。
何か間違ったけれど、 もう遅い。
まあ、悪役令嬢が喜んでいるならいいんじゃないでしょうか?




