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再び巡る季節を彩るのは何色か  作者: 高ノ瀬 瑛瑠
2/3

#2 再び巡るのは花の色


ーーーーーside Miyabi




そして、季節は巡り、あたしは大学生になった。


お父さんと同じ建築士を目指すために。

昔家族で旅行して、素敵な建物がいっぱいでお気に入りだった、神戸で、一人暮らしをすることになった。


お父さんは寂しくなるな。って、言ってたけど、

お母さんなんて、久しぶりに新婚気分が味わえるわ。って、嬉しそうにしてた。

万年新婚夫婦みたいなくせに…


でもこっちのアパートで荷物片付けて、入学式終わって帰る時、寂しくなったらすぐ連絡してね。いつでも来るからねって、何度も何度も言って、泣きながら帰っていった。

お母さんも寂しいんだ。


初めて親元を離れたその日は、あたしも家から持ってきたネコのぬいぐるみを抱きしめて眠った。





あれ?あの人。どこかで見たことあるような、無いような…

親友に誘われて入った、テニスサークルのゆるーい活動中、何故か目に入る1人の人。


「ねーねーあいちゃん、あの人誰かわかる?フェンスのところで部長と話してる背の高い男の人。」


入学して仲良くなった箕輪みのわ 亜衣あいちゃん。

実家から通ってる子で、最初、ホームシックになってる私を呼んで、一緒にご飯食べさせてくれた。

お姉さんみたいなとこある、大好きな親友だ。


「みやびが!男の人気にしてるー!!うそー嬉しいよ!!」

「そんなに意外?」

「告白されてちょっと付き合ってみて、やっぱりお父さんがかっこいいから無理っていうファザコンぶり。

初めてじゃない?みやびが自分から男の人に興味持つの!!」


確かに。

小さい頃からお父さんみたいな人って理想が高すぎたのか、周りの人が子供っぽく見えて、今まで好きになった人は高校の先生ぐらいだ。

大学に入ってこのままじゃまずいと、好きですって言ってくれた人ととりあえず付き合ってみたけど、なんか違うなって、お別れした。名前ももう記憶に怪しい。本当に申し訳なかった…


「で?知ってる??」

「知ってるけど、あれは無理だって。

去年卒業した医学部の人で、今は研修医だったかな?将来は立派なお医者様!尚且つイケメン高身長で、爽やかじゃん!王子って呼ばれてたらしいよ。でも性格あんまり良くなくて、観賞用??みたいな?気分転換の為にここにも時々来てたみたい。

王子が卒業してから、サークルの女子ごっそり辞めたって、先輩から聞いた…」

「ふーん。」

「で、どうしたのぉー?みやびちゃん、王子様に一目惚れですかぁ??」


亜衣ちゃんが、ニヤニヤしながらあたしの脇腹をちょんちょんと、つつく。



「みやび!危ない!!ボール!」


突然の叫び声。

とっさに持っていたラケットで頭をかばう。

ガンッ!

ラケットのフレームに当たったボールは、よりにもよって噂のその彼に一直線。

彼が飲もうとしてたペットボトルに当たり、パシッと弾きとばした!


「ごめんなさい!!あたしがぼーっとしてたから!!」


すぐに駆け寄り、ポケットからハンカチを取り出して相手の服を拭いていく。


「みやび?」


青いデイジーの刺繍のハンカチ。お気に入りでずっと使ってるそれには私の名前も刺繍してある。


「あ、わたしの名前です。ごめんなさい、小学生の時からお気に入りで使ってる、ハンカチで。」


「そうなんだ。

ねぇ、このあといい??飲み物ご馳走してくれたら、チャラにしてあげる。」


そう言って笑った彼は、少し、お父さんに似てた。




「みやびー!

なになにさっきのー?いい感じに見えたー!詳しく話聞かせてよー!」


「このあと、お詫びに学食でご馳走する約束した。

初めて会った人だけど、どっかで会った気もするし、

なんか、やっぱりお父さんに似てて…」


「あー。お父さん。

お父さんか…王子。かわいそ…いや、逆にありか?

まぁ、なんかあったら教えて。」




大学のカフェテリア。

窓際の白いテーブルの上、湯気の立つ紙カップが2つ。


王子様と向かい合って座る。


「本当に今日はごめんなさい。

建築学科一回生、宮里なぎさです。

お詫び、こんなので良かったんですか?」


「こっちこそごめんね。呼び出して。

俺、高宮。

着替えもあったし、ミネラルウォータだったし、本当気にしないで。

…ちょっと聞きたいことがあって、その口実だったからさ。それでさ、さっきのハンカチなんだけど、見せてもらっていいかな??」


なぜにハンカチ??

よくわからないけど、カバンを開けて少し湿ったままのハンカチを差し出す。


「これって他にもあるの?違うやつ。」

「ありますよ。あと、ひまわりと、すずらんとか。

私のお母さんが、その頃刺繍にはまってたらしくて、作ってくれたんです。」

「…たぶん、なんだけどね、

うちの父のタンスにさ、みやびって名前の書いてあるチューリップの刺繍してあるハンカチがあるの。昔助けた女の子にもらったんだって、大事にしてて。それによく似てて。もしかしたらって。」


「お父さん…チューリップのハンカチ…?」


記憶の断片を辿ると、思い浮かぶのは、私の淡い初恋。

一度会っただけの人。2度と会えない人相手に、あたしは初めての恋に落ちたんだ。


「…たかみやさんだ…。それ、たぶん、あたしです。

中学生の時、あたしの初恋の人でした…」

「中学生って、50過ぎたおじさんじゃん!何してんだよ、ロリコン親父…」


目の前の高宮さんが、飲み終わった紙コップをぐしゃっと握る。


「あ、違うんです!あたし、階段から落ちて怪我して、それ、助けてくれて。本当、その時初めて会って、私が一目惚れしたんです。なんとなく…お父さんに似てて。」

「…そうなんだ。そっか。

宮里さんが初めて好きになった人、悪く言ってごめん。

父さんのこと好きになってくれてありがとう。って俺がお礼言うのもおかしな話だね。

会いたい?実家も神戸だから会おうと思えば会わせてあげられるよ。」

「いやいやいやいや、いいです本当に!そんな10分もないくらいの昔の初恋なんです。申し訳ないです。あたしのことなんて絶対覚えてないですし。あたしも聞くまで忘れてたし。」


「そっか。まあ、せっかくの縁だし、気が向いたら連絡して。父に聞いてみるから。はい、俺のID」


ペーパーナプキンにIDを書いて私にくれる。

あたしもペンを借りて、同じく書いて渡す。


「ところで、みやびってどう書くの?」

「お宮さんの宮に、里芋の里に、ひらがなでみやびです。」

ペーパーに続いて書いていく。


「俺、高い低いの高いに宮、寛大の寛に、

漢字で (みやび) って書くんだ。

で、寛雅ひろまさ。」


「すごい。偶然…」

「父さんの名前から一字とってんの。

父さんは、雅に季節の季で、雅季まさきっていうの。」


「たかみや、まさき、さん。」

「あれ、そこ、俺の名前じゃないんだ…」

「?」

「いや。ごめん、俺ちょっと自惚れてたわ。」




カフェテリアで、王子、もとい、高宮さんと別れ、

図書館で待ってた亜衣ちゃんのもとへ向かう。


「亜衣ちゃん、あの人悪い人じゃなかったよ。

あたしの初恋の人がね、あの人のお父さんだったんだって。ハンカチ見て気づいてくれたの。

見たことあるなーって思ったんだけど、初恋の人に似てたからなんだねー。」


「またお父さん。今度は人の…

そこまで影響を与えるあんたのお父さん、ちょっと見てみたいかも、、、。」

「うん!次、こっちに来た時に紹介するね!私の親友ですって。」

「みやび大好き。

でも、みやび、お父さんにも初恋の人にも似てるって思って出会えたんなら奇跡だよ。

あんまりいい噂聞かない人だったけど、みやびが悪い人じゃないって言うなら、男の人として見てみたら?

もしかしたら好きになれるかもよ??」

「うーん。

今日、初恋の人、お父さんに会ってみる?って言われたの。

でも怖くって遠慮しちゃったんだ。

だから、もう、会うことないと思うよ。

それに、そんな王子様?みたいな人、あたしなんかに興味持つはずないよ。いっぱい女の人いるよー。」

「王子が声かけたってことがすごいんだって!

でも、もし、みやびみたいなタイプ、からかってやろうって言うなら、わたし、ぶっ飛ばしに行くからね!!」

「向こう社会人なんでしょ?絶対もう会わないって。

でも亜衣ちゃん、ありがとう。あたしも大好き。」



でも、次の日の夜、王子様からメッセージがきた。


〝渡したいものがあるから、今から大学の前のファミレス来れる?〟


突然のお誘い。

渡したいもの?

お風呂も入って、パジャマ着てすっぴんだったけど、

別に近いし、まあいっかと思って、


〝オッケーです。今から出ます〟


簡単に着替えて自転車で出かけた。




中ではすでに席に座っている高宮さんがいて、あたしに気づいて手を振る。


テーブルの上にはPCと、いろんな資料とか本があって、それを片付けて端に寄せてあたしの場所を作ってくれる。


「ごめんなさい、勉強中だったんですね。」

「こっちが呼び出したんだよ。遅くにごめんね。

そろそろ帰ろうかと思って、そしたら大学の近くに住んでるって言ってたでしょ?ちょうどいいなって。」


そう言って笑う。


あたしはドリンクバーだけ頼んで、

ドリンクバーで、ココアと、高宮さん用にカフェラテを注ぎ、テーブルに置く。


「ドリンクだけって、この間みたいですね。」

「ごめんごめん、今度はちゃんと約束して、食事ご馳走するよ」

「あっ!そういうつもりで言ったんじゃないですっ。あれは、、あたしが悪かったんで、ちゃんとお詫びに次はご馳走させてください。」

「やった。じゃあ〝次〟があるんだね。楽しみにしてる。」

「はぁ。あれ?」


あれ?亜衣ちゃん、次もあったけど、次の次もあるみたいだよ。


「あの日、あのあとね、帰って父に話しをした。

チューリップの女の子見つけたって。

驚いてたよ。そんなこともあるんだなーって。会いたい?って言ったら、会わないって。」

「…そうなんですね。さすがに私のこと忘れちゃってますよね。」

「いや、しまってたハンカチ取り出して、言ってた。

とってもかわいくてしっかりしてた子だったって。きっと素敵な女性になってるんだろうなって、そう言って笑ってたよ。


はい、これ。

返しておいてって。」


5年ぶりに私の手に返ってきたチューリップ。

ほっぺの傷に押し当てた血の跡も、綺麗になってる。


「父さんに取り持ってもらったのもなんかシャクだけど、俺たちこれから仲良くなれるかな?」

「えっ?あ、、これから仲良くなれるかはまだよく分からないので、

…友だちになりますか?」

「そうだね…よろしくね。」


ーーーーー




大学の近くに借りた、一人暮らしの部屋。

机の上に置いてあるガラスのクリスマスツリー。

季節問わず、ずっとずっと飾っていたものだ。

そのツリーの下に引いてあるのは、深い深い海のブルー。

初恋の人にもらったハンカチだ。

その隣にチューリップのハンカチを重ねる。


素敵な女性に、

あたし、なれてるかな?高宮さん。


まさか、あの初恋をもう一度思い出す時がくるなんて。


今はもうおぼろげにしか記憶にないあの人は、やっぱりお父さんに重なって。

お父さんと、王子様を足して割ったらちょうどいいのかな?なんて、思ったりしてた。

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