1 リバイバル!
世界にスキルが生まれた日。
その日世界は善と悪に別れた。
善はその力を社会の貢献のために使い、人々や文化の発展や治安維持にスキルを使う。
悪は己の欲望に従い、強盗・放火・殺人などなどスキルを使って悪逆の限りを尽くす。
そして数多の善の組織と悪の組織が生まれた。
数多の組織は自らの正義を振りかざし、対立し、時に協力し、激しく戦いあった。
そんな中生まれたのがバトルスーツである。
スキルを得ても所詮人は人の耐久力しかなく、動けば体力を使うし、スキルを使うためのエネルギーであるSPも消費すれば動けなくなってしまう。
それを補うためのパワードスーツがバトルスーツであり、スキルや科学技術の粋を集めて生まれたこの技術により戦闘と対立は更なる激化を生んだ。
特にスキルを持たない一般人にも護身用として使える物や悪の組織の下っ端、所謂戦闘員にも配備されるほど広まりを見せているのが昨今のバトルスーツ事情である。
さて、戦闘員だがこれは悪の組織によって精神と肉体に改造を受けた悲しい人類の慣れの果てである。
借金をしたため売り飛ばされた者、悪の組織に拉致された者、他国からの難民などなどその出自こそ千差万別であるが記憶を消され、意味のある言葉も喋れなくなってしまった彼らは悪の組織の命令に従うことしか出来ない悲しい生命体であり、もはや生きたままの救済の余地なく救うにはその生命を断つしかない。
そのはずであった、つい昨日までは。
「倒された記憶がどこか曖昧だけど、ドでかい爆発に巻き込まれたのは覚えてる。そんでもって自分でも悪の組織も気が付いていなかったスキルが発動して肉体と精神改造が再生して元通りになるだなんて誰も思わないよな」
自分だってそう思うと相原湊(あいはらみなと)は狭い路地裏に身を隠しながらそうごちる。
何故身を隠しているのかと言われれば湊は依然悪の戦闘員の象徴ともいえる黒い全身タイツのようなバトルスーツに身を包んでおり、その下には何も着ていないからである。
流石に晴れて自由の身になった湊ではあるが市内を真っ裸で闊歩などしてしまえば良くて警察、悪くて悪の組織に逆戻りである。
「しかしまあ、このスーツに魅力を感じないと言われれば嘘になるけど」
パワードスーツが民間でも買えるようになった現在ではあるが高級な物になれば何百、何千万円とするしその金額には果ては無く、安い物には紛い物も多くただの全身スーツをパワードスーツとして売っている企業や組織も存在するほどだ。
湊が着ている物は悪の組織の物ではあるが正真正銘のパワードスーツであり、しかもこの近辺でも最大規模の悪の組織フェンリルガードの物でどうやら戦闘員でも特別に良いもの、あるいは新型のパワードスーツらしく身体的な補助に加えてパワードスーツ自体の再生機能に移動音の減少や体温調節などなど細かなところまで気の利く優れものだ。
もちろん各組織に存在する高性能な戦闘用スキル持ちである善の組織の戦闘員たるヒーローや悪の組織の戦闘員たるエビルなどにオーダーメイドで作られたパワードスーツなどは桁も違えば格も違う性能差だし湊が着ている物はパワードスーツ自体の金額でいえば一千万円前後の性能といったところであろう。
しかし一般人であり、すでに戸籍上亡き者となっているに違いない湊がおいそれと出せる金額では絶対に無く、入手は不可となれば手放すのが惜しくなるのも仕方ないと言えるだろう。
何より。
「自分の人生を狂わせた悪の組織に一泡吹かせたいって思いもあるしな」
湊のスキルは【再生】。
それは攻撃的なスキルでも無ければ、防御的なスキルでも無い。
ただ怪我や精神が再生するだけのスキルである。
しかしながらわずかながらであれど力を手にした湊に宿る想いがあった。
「戦闘員として悪の組織に潜入して内側から切り崩す。まずはフェンリルガードからだ」
失う物などとうに無くした湊は憎き悪の組織を滅ぼすため、悪の組織の基地に戻るべくこそこそと路地裏を移動し始めた。