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06 その異能は食につながる



『記録に残されていない理由か…そうだな、その記録が必要ないほど彼らはここに留まらなかった、と言うべきだろうか。』



「留まらなかった…?というのは?」



『へレスを救うのに必要な異能を有していなかった。そのため早々に元の世界へと送り還したというのが正しいかな。』




だから記録にある3人のみが穂司の旅人として多くの人々に知られているというわけだね、と彼は軽やかに続けた。異能を有していなかった…ということは私と同様に普通の世界線を生きていた人たちだったんだろうか。なんの能力も持たず、普通に生まれ、普通に生活していた、ごくごく普通の人たち。こんなファンタジーな世界の生まれではない普通の人が今の私のように頻繁に召喚されていたのだろうか。今の自分と重ね合わせて想像すると親近感が湧かずにはいられない。なんともご苦労様です…と言いたい気持ちになった。きっととんでもなく混乱しただろう…。この私のように。


んッッッ…?

今、当然のことのように言ったが、送り還したって言ったよね…?

異能?とかいう能力が無い=へレスに必要無い=帰れる …!?

それってまさか私も元居た場所に戻れたりするってこと!?なのか!?




「あ、あの!!じゃあ私もその異能?なんて無いから元居た場所に…!『いや、それはできないな。』………え?」



『君は見事な異能持ちだ。生来あった君の能力と心に、私の力が共鳴して見事な異能として宿っている。』




ここに、確かに。と彼は私の胸元にそっと手をかざす。

触れるか触れないかの微妙な距離だが、じんわりと心地のいい温かさを感じた。

瞬間、首に掛けられていたネックレスが光を放った。そう、あのレモンティーの香りのするネックレスだ。暗闇を照らすその光は小さな石から発せられているとは思えないほど眩しく強い光だった。




『これは私が君に授けた物だ。あの事故の瞬間を切り取った証。このへレスで穂司の旅人として生きる証。そして、君が食を愛する心を持っている証…。』



「あの…さっきから食を愛するとか…あ、あの事故の瞬間に聞かれたこともそうでしたけど、おいしいは全てを救うか?でしたっけ…?全然話が見えてこないっていうか…。私には一体何の力があるっていうんですか…?」




生来あった私の能力と、神様の力が合わさったという私の異能。

正直、こちらの世界に来てから自分の中のなにかが変わった様子はこれっぽちも感じていない。

そんな特別な能力、ほんとに自分にあるんだろうか?よくある異世界ものじゃ容姿が美しくなってお姫様に転生していたり、とんでもないパワーを手にした勇者に転生していたり…なんてわかりやすい外見や能力がすぐにわかったりするものだけれど、私はどこもかしこもそのままだ。……たぶん?


そして、今までの話や問いかけのすべてに“食”というワードが入ってくるのがこれまた話をややこしくしているように思う。食がこの国を救う?どういうことなんだろうか……。セレス王国には目覚めてからほんの数十分しか滞在していないが、あのベランダから見た自然に溢れた景色や街並みはとてもきれいで、すごく豊かな場所だと心から思った。そんな美しく豊かな国にどこか問題点があるというのだろうか?それが食?ショク、と言われてすぐ食と変換されてしまう私の脳内だが、もしかして間違っていたりするんだろうか?ショク違い?でも、おいしい、っていうワードも出てるしなぁ…。


悶々とショクというワードと自分の異能について考え込む私。

ふいに神様はネックレスに嵌められた石をそっと指でなぞる。

顔を上げると、愛おしいものを見つめるように優しげな目を向けられ、私は瞬間湯沸かし器のように顔を真っ赤にさせてしまった。…鏡なんて無いから見えないけど見なくてもわかる。どうせゆでダコ状態だ。今更だけど、胸元を触られた当たりから距離がものすごく近い気がしますよ…!?


ふふ、と笑いながら神様がもう一度ネックレスの石を指でなぞると、目を開けているのもやっとなほど眩しかったその石は、だんだんとその光の強さを緩めていき、最後にはほのかに発光し柔らかい光を纏う程度になった。そう、ぼんやりと発光しているこの神様の周囲と同じあたたかで柔らかな光だ。


石から手を離し、再びちょうどいい距離感を保ってくれた神様。

ふぅ……間近でイケメンを見ることほど心臓に悪いものはない…!耐性無いんだからやめていただきたい…!




『そうだね、君に事故の瞬間問いかけた“おいしい”は全てを救うと思わないか? という問いかけは、このへレス王国を案じてのことなんだよ。』




ショクは食、衣食住の食、食べることで合っているよと笑いかけられた。

……この神様はほんとに自然に思考を読んでくるな…。怖すぎる。



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