09
とりあえず持って帰ってきた草を全てグレイに渡して、教えてもらったゲオルグさん家に行くことにした。
王都の中心に近い区画、飲食店が並ぶ通りにゲオルグさんの店はある。
通り沿いの建物は皆同じ形をしていて、一見するとどれがどれかわからない。日除け用のシェードの色が違う程度だ。
そのシェードだって何色もあるわけじゃない。
だいぶ探し回る羽目になった。
「ここ? だよな。こんにちは、ゲオルグさんいますか」
「俺になんのようだ」
やたらゴツい体のハゲたおっさんが、奥からヌッと顔を出す。
「グレイから、ここなら安く泊めてくれると聞いてきました」
「グレイの紹介か」
ゲオルグさんは丸太みたいな腕を組む。
「飯はどうする?」
「できれば食べたいですね」
「わかった。部屋の準備がある。それまでついでに飯食ってろ」
「助かります」
★★★
「う、うまい!?」
ゲオルグさんが出してくれたのは、見た目なんの変哲もないスープとパンだ。
それがどうだ、この味とコク。
パンはよくある硬いやつだが、スープに浸して食べると、パンの塩気とスープの味が絡み合って、噛みしめるほど味が広がる。
「褒めても何もでんぞ」
ぶっきらぼうにそう言って、ゲオルグさんは二階に上がっていく。
ちなみに、なんでオレがゲオルグにさんをつけてるかと言うと、グレイのギルドの元ギルドマスターだからだ。
今オレはグレイのギルドの一員だからな、先輩には敬意を払うもんだ。決してグレイの説明を聞いてビビったわけじゃない。
やれ気に入らない貴族を殴っただの、やれ警備の衛兵数十人を一人でぶちのめしただの、全然ビビってねぇし、オレのクルスでもそれくらい余裕だし。
ゲオルグさんの店は、一階が食堂兼酒場になってる。
元拠点にしていた街の安宿とほぼ同じだ。
店のクオリティーはまるで違うがな。
小さなカウンターの奥は酒を置く棚になっていて、綺麗に酒の瓶が並べられている。
テーブル席は三つ。
丸いテーブルは四人がけだ。
それと壁際にベンチがあって、あぶれた人が座れるようになってる。
なんと言うか、超雰囲気いい酒場だ。
まあ、オレはお酒飲まないから、酒場なんてこっちに来てから初めて入ったけどな。
「準備できたぞ」
「どうも、ちょうど食べ終わりました」
「そうか、おかわりあるぞ」
「おお! どうしようかな。いえ、ありがたいですが、今日は少し疲れてしまったので休みたいと思います」
「そうか、こっちだ」
案内された二階は、まあ普通の部屋だ。
それだって元拠点の安宿に比べれば月とスッポン。
いや、比べること自体失礼なレベルだな。
あそこは本当に酷かった。
「お前はこっちだ」
「……」
ゲオルグさんに声をかけられたクルスは無反応だった。
しまった! クルスに説明してなかったな。
「クルス、ゲオルグさんについていけ」
「イエス、マスター」
「すいませんね」
「いや、いい」
怪しまれただろうか。
バレたら、その時考えよう。
★★★
「どうしてちゃんと説明してくださらなかったんですか!!」
「え!? なに!?」
翌日、ゲオルグさんの朝飯を食べているところに、えらい剣幕でグレイがやってきた。
朝飯は昨日のスープに干し肉を少し入れたものと固く焼いたスコーン(スナック菓子じゃない方な)だった。これがまた、暖かいスープは干し肉の出汁と塩気が寝ぼけている頭を起こし、ふやかしたスコーンを少しずつ胃に流すことで休んでいた胃を少しずつ活発にする。
素晴らしい、これこそ医食同源。
違うか? まあ、いい。
それよりも、こんなに素晴らしい朝食を、このグレイとか言う珍客はなぜ邪魔しやがるのか。
「何、ではありませんよ。オッポですよオッポ!」
オッポ? どこかで聞いたな。
どこだったか? どこだっけ? マジで思い出せない。
「なに? オッポって?」
「ええ!? 本当に知らないんですか! 人よりも大きい魔獣です。口の中に貯めたオプと言う硬い実を吐き出して攻撃してきます。こう、フサフサの尻尾が特徴です」
「ああ! ジャイアントシマリスもどきね。ああ、あれがオッポか」
ん? オッポってどこで聞いたっけ?
「とにかく、オッポが出てしまっては東の森は危険区域になります」
「そうなの」
「当分は入れませんよ」
「なに!? それは困る」
草が取れなきゃ、どうやって生活するんだ。
「これから私はギルドに戻って、オッポ討伐の依頼をギルメンに出します。そこにできればあなた方には参加していただきたい。第一発見者ですから。ただ、オッポは非常に危険な魔獣です。無理強いはしません」
グレイの真剣な表情。
結構マジなのね。
「行くのはいいが、クルスのシールドが先だな。準備が整えば一緒に行くよ」
「わかりました。シールドは知り合いの鍛冶屋がいます。そちらに話を通しておきましょう」
「ありがとう、助かるよ」
「いえ、仕事ですから」
「おい、グレイ」
横から急にゲオルグさんが声をかけてきた。
「はい! なんでしょうかゲオルグさん」
「お前も飯食っていけ」
「はい…… いただきます」