06
オレは目の前で起きている惨劇をぼんやりと眺めていた。
下半身丸出しの衛兵が、思いっきりブン殴られて宙を舞う。
ここで事態をまだ把握できていない衛兵が、後ろから押さえつけようとクルスを羽交い締めにしたが、難なく振り払われ壁に叩きつけられた。
ここにきて、とうとう剣を手にした奴が現れたが、クルスのシールドバッシュで腕ごと吹き飛ばされてる。
「う、腕が…… お、俺の腕が……」
肘から先がなくなり、血がとめどなく流れる。
あれは痛そうだ。
「止まれっ! こいつがどうなってもいいのか!」
いつの間にか横にいた衛兵が、オレに剣を突きつける。
なんか立場が逆な気がする。
普通こういう時は女の方が人質になるもんだろう。
そしてこう言うんだ、私に構わず殺しって。
ブゥンとオレの顔スレスレをクルスの投げたラウンドシールドが掠める。
「ぶへぇっ!」
オレに剣を突きつけていた衛兵の顔にシールドが突き刺さる。
ヤベェ、グロい。
ちゃんと兜はかぶっとけよ。
あんま意味ないかもしれないけど。
★★★
詰めていた衛兵の半数が倒れたところで、グレイと偉いさんっぽい人が現れた。
「何をしているっ!」
「た、隊長」
「こ、この者たちが逮捕に抵抗したため、やむなく……」
おいおい、クルスを犯そうとして返り討ちにあっただけだろ。
「罪状は!?」
「はっ、王都治安紊乱罪であります」
「具体的には?」
「は?」
「何をして逮捕したのか、聞いている」
「はっ、はい。それは……」
言葉に詰まってるじゃないか。
かわいそうだ、ちょっと助けてやるか。
「クルスの格好がけしからんからだろ」
「何? クルスというのはその女戦士か?」
「は、はい」
「お前たち、まさかと思うが、女の色香に惑わされ、あまつさえ返り討ちにあったわけじゃないだろうな」
誰も答えない。
「不甲斐ない。それでも王都を守る、誇り高き第三衛兵団かっ!」
「申し訳ありません」
「とりえず処分は追って知らせる。負傷者を連れて出て行け」
「はいっ!」
ぞろぞろと衛兵が部屋を出て行く。
それほど広い部屋でもないのによくこれだけ入ったよ。
★★★
なんか隊長の一喝で喧嘩両成敗的になっているが、どう考えてもオレたちの方が被害者だ。
適当な罪状で逮捕した挙句、女と見るや犯そうとしてる。
職権乱用ってやつだよな。
「困りましたね」
グレイが困ってない風に言う。
「まったくだ、あいつら一から鍛え直さんといかん」
「そうでは、ないんですがね」
なかなか、くわせもんだなこの隊長。
うやむやのまま、片ずけようとしてんな。
まあ、ここはひとつ貸しとくか。
「隊長さん、オレらここに来る途中、指名手配されてる山賊を討伐したんだ」
「何? それは、本当か」
「ええ、討伐の証、と言うわけではありませんが、こちらを持ってまいりました」
グレイはメダルを隊長に渡す。
グレイがちらりとこちらを見た。気がする。
こいつ顔はいいんだが目が細くて表情がわかりにくいな。
「よろしい。これはこちらで預かる。懸賞金は一時金で半分、もう半分は死亡が確認されれば支払われる」
「わかった」
「いいんですか?」
グレイが言外に不満を込めてる。
「いいよ。今のところ懐具合は悪くないからな」
「そうですか。では、それで」
「治安維持の協力、感謝する。それではな」
王都の衛兵もたかが知れてるな。
★★★
「本当に良かったのですか?」
詰所から出てすぐにグレイが声をかけてきた。
「不満か?」
「巻き込まれましたからね」
「そりゃ、悪かったよ」
「あなたの所為ではありませんよ」
いや、ある意味原因はオレだな。
「懸賞金出るだろ、それで許してくれ」
「私に? ですか」
「ああ。懸賞金ってぐらいだ、半金でも安くはないだろ」
「それは、まあ」
「それよりこれからどうするんだ?」
「ええ、まずは荷を売ります。それから私たちのギルドに行きましょう」
「私たちのギルドね」
「ええ、私たちのギルドです」
★★★
グレイのギルドはデカかった。
三階建の立派な石造りの建物。
歴史を感じさせる古いビルって感じだ。
言葉で表現するならビルヂングって感じ。
現代なら世界遺産に登録されてそうだ。
街並みも含めて西洋の城塞都市って感じだ。
日本人のオレからするとこういう建物は地震が怖いんだが、この辺は地震とかないのかな。いや、クエイクの魔法があったな。あ、でも街中で攻撃魔法は使えない。いや、でも今は現実だし……
「何か、不安でもおありですか?」
「へっ?」
不意にグレイに声をかけられて、マヌケな声が出ちまった。
「いや、ないよ。立派な建物に驚いてただけだ」
「そうですか」
そういや田舎者っぽい行動は慎めって言われてたな。
中に入るとこれまた立派なホールだ。
今までいたギルドとは月とスッポンだな。
「はぁー、すごいな」
吹き抜けまである。
ギルドって、そんなに儲かるのか?
「維持するのが大変でね」
「そうだろうな」
珍しく自慢げだなグレイ。
「ギルドの登録は私がしておきましょう。他に何かありますか?」
「そうだな、とりあえず宿か」
「宿は、短期間であればゲオルグのところがいいでしょう。ある程度費用も抑えられます」
「それは助かる。あとはそうだな」
「何でしょう」
「草はどこで取れる?」
「草?」