05
山賊の殲滅は思いのほか早く終わった。
野営もギリギリ間に合った。
キャラバンの最後尾を陣取り、オレとクルスで寝ずの番をする。
焚き火を囲んで、クルスが跳ねるのを眺める。
ぷるんぷるんだ。
クルスが跳ねるように上下すると、ぷるんぷるんになる。
スライムよりぷるんぷるんだ。
それはもうマシュマロのようにぷるんぷるん。
ぷるんぷるん。
「隣、よろしいですか?」
「うわっ! びっくりした!!」
不意に声をかけられ、驚いて大きな声がでた。
なんだグレイか。脅かすなよ。
「ちょ、ちょっと、声が大きいですよ」
「あ、ああ。すまない」
俺の癒しのぷるんぷるんを邪魔しにきたのか。
「クルス、もういいぞ」
手をパタパタふって、まだ跳ねてたクルスを止める。
「キャラバンは男ばかりですから、あまり煽情的な行動は慎んで下さいね」
グレイの細い目が微かに開いた気がした。
「ああ、気をつける」
確かに回りは男ばかりだ。男やもめが暴動を起こすと困る。残り三日ばかしの旅だ、大人しくしとくか。
どうでもいいが、コイツそんな話をわざわざしにきたのか?
隣に座るグレイをチラ見する。
「ところで、お二人は王都は初めてとか」
「ああ、それどころかあの街から出るのが初めてだよ」
「なるほど、カンフェから出たことがないと」
あの街、カンフェっていうのか。初めて知った。
「それでは王都でいろいろと困ることも出てくるでしょうね」
「そうだな」
何が言いたいんだ? コイツ。
「どうです、私どものギルドに入りませんか?」
「引き抜きか?」
「いえいえ、そうではありませんよ。王都では私どものギルド所属になるだけです」
「カンフェは別だと?」
「そうです」
そんなシステムなのか? ギルドって。
「カンフェのギルドは小さいですからね。王都ではいろいろと、ね」
「ナメられる?」
「そうですね。平たく言うとそういう事です」
「あんたのギルドだと違うのか?」
「ええ、少なくとも一方的に敵意を持たれることはありません」
おいおい、小さいギルドだと一方的に敵対されるのかよ。
「脅してるわけではありませんよ。ただ、そういったことも過去にはありました」
脅してんじゃねぇか。
「いいぞ」
「はい?」
「あんたのギルドに入るよ」
「そうですか。では、王都に着きましたら私どものギルドにお越しください」
「ああ、わかった」
「それではまた」
グレイは、立ち上がると先頭の方に移動する。
アイツなんか苦手だわ。
なんだろうな、妙に対応が丁寧なのが胡散臭い。
★★★
なかなか面白い逸材ですね。
ロムルスには悪いですが、王都でお預かりましょう。
しかし、あれだけの数を相手に、これだけ一方的に勝つとは。
特にあの女戦士。
ふざけた見た目はブラフでしょうか?
油断させて…… いや、あれだけ強ければ正面から戦った方がいいはずです。
理由はわかりませんが、あの男がなんらかの意図を持ってさせていると。
カシムの言う、ただの慰み者ではありませんね。
それにしても、ロムルスもカシムもあてになりませんね。
ロムルスの説明では男の方はいくらか使い物になると言われましたが、カシムは正反対のことを言っていました。
なかなかどうして、両方使えそうじゃないですか。
★★★
残りの行程は順調そのものだった。
何事もなく、街道を進み森を抜ける。
青々と茂る一面麦畑の光景にしばし見とれる。
王都周辺は広大な穀倉地帯になってるそうだ。
今の時期はまだ青いが、もうじき一面黄金色になるんだと。
なかなか情緒ある風景だ。
異国に来たって感じだな。
まあ、拠点にしていた街はスラムみたいな感じで正直、気の休まる時がなかった、今になって異世界に来たって感じがする。
まっすぐ伸びる街道の先、小さく西洋のお城が見える。
あれが王都か。
辺り一面麦畑で高い建物がないとはいえ、ここから見えるって相当デカいな。
ちなみにオレは今、クルスに肩車してもらっている。
遠くまで見渡せて気持ちいい。
子供の頃に戻った気分だ。
回りの視線はかなり痛いがな。
あっ、グレイがこっちきた。
★★★
「言いましたよね。慎んでくださいと」
「すまん」
怒られた。
別に回りのヤツを煽ったりしてないぞ。
「もうじき王都です。目立つ行動はやめてください。それでなくとも、お連れのお嬢さんはきわどい格好をされてるんです。目をつけられやすいんですからね」
なるほど、おのぼりさんと思われると恥をかくってことか。
グレイのギルドに入るのに、田舎者だと思われるのはマズイってことだな。
「わかった。気をつける」
「本当にわかっておられますか?」
「大丈夫だ。あんたに迷惑はかけないよ」
「なら、いいんですがね」
なんだ信用ないな。
それもそうか、まだせいぜい三、四日の仲だもんな。
当たり前か。
自重、自重。
★★★
「なぜだ!?」
オレたちは王都に入るため城門前で入城検査されてたんだが、衛兵に連行されてしまった。
罪状は王都治安紊乱罪。
なんだそれは? オレたちがいつ王都の治安を乱したってんだよ。
「あぁ、これは乱してるな」
「ああ、乱してる。まったく、けしからん」
だらしない顔した衛兵連中が、クルスの体を舐めるように視姦する。
結構な数の衛兵に囲まれてる。
どんだけいるんだ。
ざっと十人以上か。
しまったな、クルスのハンドアックスは入城検査があるからグレイに預けてしまった。
オレのスペルブックでも持たせるか。
そこそこ重量あるから振り回せば威力はまあまあ、あると思うんだが。
そのグレイは別室に連れて行かれてる。
グレイすまん。オレのツレがハレンチなばっかりに、
まあ、オレがこの格好をさせてるんだから、オレのせいか。