03
翌日、宿を出たオレたちは一応ギルドに顔をだす。
ギルド加入の申請はすでにしてある。
やることはいつもの草集め。
ギルドに用はないが、昨日は途中で帰ってしまったから顔だけとりあえず出した。
いつもの受付嬢ではなく、ギルマスのおっさんが直接話しかけてきた。
「パーティーを組むのか?」
「ああ」
「もう薬草集めはやめるのか?」
「ん? いや、やめないぞ」
「そうか」
「ああ、じゃあ行ってくる」
なんなんだろうな。
★★★
「ロムルスさん、あいつなんだって急にパーティーなんか。それもあんな上玉。どこで見つけてきたんだか」
「さあな、だが薬草を持って帰ってきてくれればそれでいいさ」
「薬草なんて駆け出しの仕事でしょう。あいつもう二ヶ月も薬草採取しかしてないですよ。せっかくパーティー組んだんだダンジョンに行けってんだ」
「そうだな」
カシムには同意したように言ったが、アイツの持ってくる薬草はその辺の駆け出しには無理な注文だ。
アイツが持って帰る薬草は全て上薬草だ。
上薬草は必ず上級ポーションになる素材だ。
しかし、見た目に違いはなく、見分けるのは難しい。
それこそアイツが持ってる学者というジョブが必要なんだろう。
恒常依頼の薬草採取は、カシムの言う通り駆け出し用に出してる依頼だ。ダンジョンに行かせるには頼りないヤツでもできる仕事だ。
だからかなり安い。
なんとか生活できる、そんな程度の金しか入らない。
そこで入った金を、装備や訓練に使える奴でないと冒険者はやっていけない。
酒や博打に使い込んでやめていく奴も多い。
だが、アイツが持って帰る薬草は違う。
薬草は薬草だが、ポーションにすれば大きく儲けが出る。
ここは田舎だから上級ポーションなんて売ってる店なんぞないが、王都なら引く手数多だろう。
そうだ。
ちょうどいい、アイツもパーティーを組んだなら王都まで行かせよう。ダンジョンに行けと言ったなら反発するかもしれないが、王都まで行商の護衛なら引き受けるだろう。
「カシム、次のキャラバンはいつだ?」
「へ、へい。三日後です」
「そうか」
★★★
街道から少し脇にそれた場所。
街道といったが、オレからすれば獣道とそう変わらない。
人の手が入ってはいるがガタガタ道だ。
現代人からすればどこも未開の土地だな。
キャンプ場の方がまだ文明的な生活ができる。
少し脇にそれるともうジャングルだ。
樹海だな。
方角を見失うと間違いなく死ぬ。
まあ、オレにはコイツがいるから迷うことなんてないけどな。
「いでよ」
オレは土の精霊を呼び出した。
学者は四大元素を元にした精霊を呼び出すことができる。
ただ、あまり強くない。
何より、学者の強みであるバフが効かない。
まあ、よくあるペット枠だ。
単体での攻撃力があまりない学者というジョブに、火力を持たせるのが精霊だ。
武器と言いかえてもいい。
学者の装備は杖とか本とかで、一応打撃もできるが魔物に効果があるかは疑わしい。
そこで学者は精霊を使い、魔法攻撃する。
直接魔法使えよって話だが、杖持ってるしな、そこはゲーム的な制約、というか住み分けかな? 魔導士系のジョブと被るからダメなんだろう。
いちいち精霊を呼び出さなきゃならんから、プレイヤーからは不評だった。でも無くならなかった。
可愛い精霊は、数少ない女性プレイヤーから好評だったからな。
だからペット枠というわけだ。
土の精霊はリスのような見た目だ。
耳が長く、体格は少しイタチにも似てる。
土の精霊ってことで、茶色、というかブロンズかな、銅褐色に発光している。
今のオレからすれば、精霊様様だ。
コイツがいるおかげで、こんな樹海みたいなところで迷うこともない。目的の草も一発で見つけられる。
実はこの辺にも魔物は出現する。
ゴブリンや森林オオカミなんかの弱いが数が多い魔物だ。
ゲームなら、たくさん倒して経験値おいしいですって感じだが、今のオレからすれば囲まれるのは怖い。
そういう時も精霊は役にたつ。
精霊を囮にして逃走だ。
精霊なら倒されても一定時間が経てば再召喚できる。
土の精霊は煙幕という逃走を補助するスキルもある。
まあ、それでもあまり拠点の街から遠くまではいったことはない。
今まではな。
★★★
オレは今、クルスを仲間にしたことを後悔している。
なんでコイツこんなに好戦的なんだ。
森を進むこと十分、出くわしたのはゴブリンの群れ。
発見した途端、クルスが突撃していた。
「なぜこんな事に!?」
わからない。
見敵必殺なんてオーダーした覚えないぞ。
戦闘状態になってしまった、こうなると精霊の煙幕も効果が薄い。
しょうがない殲滅だ。
★★★
クルスが装備してるハンドアックスは初級の武器だ。
ラウンドシールドも初級品。
ゲーム中ならジョブを選択した段階で支給されるような品だ。
金がなかったからなしょうがない。
それがどうだ、ドンッと振り下ろされればゴブリンが真っ二つだ。
バフはかけていない。
純粋にクルスの攻撃力だ。
脳筋バンザイ。
しかし、流石に数が多い。
囲まれると怖いから、クルスにブーストをかける。
ブーストは対象の素早さをあげる効果がある。
素早さはもちろん回避に影響するが、攻撃回数にも関係する。
特に前衛であるタンク役は重武装になりやすく、装備重量の関係で素早さにペナルティを受けやすい。
いかに一撃で倒せても、クルスが一度に相手できるのは一体だ。
そこで素早さをあげる事で、攻撃の頻度を上げてやる。
まだある、ウォーリアーは盾を装備することでシールドバッシュを使える。このシールドバッシュだが確定ではない。
確率判定があるんだが、その確率は自身の素早さで増減する。
補正と言い換えてもいい。
とにかくブーストをかけることで、クルスは強くなる。
★★★
ギルドは騒然としていた。
草刈り野郎が血まみれで帰ってきたからだ。
いや、野郎の連れている女戦士が返り血で真っ赤になっていた。
綺麗な金髪は燃えるような赤毛になっていた。
野郎なんでもない感じでいつものように薬草だけ納品しようとして、ロムルスさんに問い詰められてた。
「なんだこれは! 何があった!」
「い、いや、ゴブリンに、囲まれて…… 仕方なく」
「ゴブリン!? それで、討伐の証はどうした?」
「討伐の証ってなんだ?」
ロムルスさんが頭を抱えちまったじゃねぇか。
野郎! ギルマスを困らせるんじゃねぇ。
「討伐の証ってのは魔物を倒した証で、倒すとその辺にドロップするはずなんだが……」
「ああ、あのドッグタグみたいなやつのことか? それならクルスが……」
野郎の言葉に反応して、女戦士が手に持つ討伐の証をジャラジャラと目の前に掲げた。
ヤベェ、何個あるんだ!? 二十じゃきかないぞ。
「は!? なんだこの数は! これをお前たち二人でやったのか!」
「まあ、成り行きで」
この野郎、ふざけてるのか。
成り行きでなんとかするような数じゃない。
ちゃんとした六人パーティーだって、あの数にかこまれたら逃げるか、救援要請を出す。
おおかた、今まで薬草採取の合間にちょっとずつ狩ってたんだろう。
せこい野郎だ。
女戦士に持たせて箔をつけようって魂胆か?
気に入らねぇ。