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カレンナの花が咲き乱れ、花粉が陽の光でキラキラと輝き舞う。
まるで絵本のような光景だが、同時に血を流し倒れる男たちの戦場でもある。
「キリがないですね!」
虚ろな瞳で、しかし顔は恐怖に歪む強面の山賊が武器を手に襲いかかる。
それをグレイが放つ不可視の剣戟が迎え撃つ。
グレイのジョブ、ソードマスターのスキル。一閃。
高速で放たれる剣は見切ることができないと言われている。
しかしながら、多勢に無勢。
複数の敵を一度に相手にするのは、少し苦手としている。
「なんだこいつら! グールか? それとも何かの呪いか?」
スレッジハンマーを振り回すロムルスが、襲いくる山賊を薙ぎ払う。
吹き飛ばされ、叩きつけられて尚、向かってくるまるで死兵のような山賊に、ロムルスはいささかの恐怖を感じる。
「わかりませんが、かなり厄介です。ただの山賊と思わずに対処する必要があります」
離れたところでは、グレイシアとマルコがカシムと戦っている。
それは常人では動きを捉えることさえ難しい。
いくつもの刃が交錯し、紙一重でかわす。
一瞬の隙をついて、マルコの矢がカシムに突き刺さる。
しかし、矢がささろうが、斬られようがカシムが動きを止める気配はない。
「まるで獣ね」
虚ろな瞳に必死の形相。
そのアンバランスさがプレッシャーのようにのしかかる。
「グレイさん、ここは危険です」
ゼニスがグレイに警告する。
「どういうことですか?」
「邪神ドモン様のお告げです。厄災が蔓延していると」
「そ、そうですか」
はたして邪神のお告げを真に受けていいのか、といつも一瞬戸惑う。
しかしゼニスの危機察知能力は本物だ。
ハズレたことはただの一度もない。
「グレイシア、マルコ、撤退の準備を!」
「なぜです!?」
「なぜだ!? ダメージは与えている。ここで引く手はないぜ」
グレイシアとマルコの抗議はもっともだ。
むしろここで決着をつけるべきだとグレイも感じている。
「邪神のお告げです!」
「グゥ!」
「……わかりました」
ゼニスのお告げを無視することはできない。
「グレイっ!」
ロムルスの雄叫びのような声。
「なんです!?」
「ありゃ…… なんだ」
ロムルスが示す方向には厄災が確かにあった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
火の精霊を呼び出す。
こいつには火の玉ボーイという攻撃スキルがある。
ふざけたネーミングだがれっきとしたスキルだ。
名前の通り火の玉となって敵に体当たりする。
正直使えるスキルじゃない。
ロックした敵をホーミングしてくれるが、攻撃対象は単体だし威力も微妙だ。
唯一、燃焼というバッドステータスで継続ダメージを与えられるが、まあ使い道はあまりないな。
で、このスキルだがバグがある。
攻撃対象が無い状態、敵のいない状態でスキルを発動すると、火の玉になったまま固まる。実際のフィールドだと、何がしかの敵がいるからほぼ起こらない。
発動時にフィールドのNPCなんかに話しかけるとか、特定の条件で発生する。
まあ、細かい仕様の話はどうでもよくて、これを使ったバグ技がいくつか発見された。
スキル発動中は精霊ではなくなるらしく、そのため別の精霊を同時に呼び出せてしまう。
ただ相性のようなものがあるらしく。検証の結果、火の精霊と同時に出せる精霊は風の精霊だけだった。
これを使ってスキルを掛け合わせるという実験が行われた。
いくつか動画サイトなんかにアップされて、にわかに盛り上がったが実用的なものはほぼなかった。
オレもいくつか試したが、大したことは出来なかったと思う。
遊び程度で攻略につながるような物は無く、真剣に検証するユーザーは次第に消えていった。
ただ、これが現実になるとどうなるか?
風の精霊、通称緑のキツネにはストームというスキルがある。
そのまま竜巻なんだが、火の玉と同時に使うとどうなるか。
広範囲かつ大規模な火災。
迷惑な花粉は燃やすに限る。
あ〜、スギ花粉も燃やし尽くしてぇなぁ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
煌々と輝く火柱。
それは遥か遠く、王都からも見ることができるほどの高さとなった。
炎は竜巻となってまるで暴れる竜のようであった。
人々はその姿に恐れおののいた。
火は天高く昇り、巻き起こる熱風は上昇気流を起こし、雨雲を作る。
炎はその威力とは裏腹にすぐに勢いを失い消えると、その後の雨が森林に残るくすぶっていた火も全て消した。
のちに王都にいたエルフにより、火は厄災を払う神の火であると声明が出された。
しかし、王都の民にはゼニスが語った事が間違って広まり、邪神ドモンの厄災、悪魔の火と呼ばれるようになる。
次第に邪神教が王都に広がるきっかけになる事件であった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「如何致しますか」
間者からもたらされた報告書に目を通す。
「北部森林を燃やすなど、帝国がどう動くか考えるだけでも頭が痛い」
実際は頭よりも胃が痛い。
しかし、考えようによっては利があるかもしれない。
北部森林があることで王国は帝国と距離を取れている。
その森林で何かあれば王国は動かざるをえない。
北部への防衛強化論が王国内で議論されるはずだ。
その際に共和国へ協力を申し入れることを盛り込めばいい。
王国内で共和国の存在を印象づけることができるはずだ。
「しかし、神の火とは畏れ多いな」
まったくここ最近は胃に悪いことばかりだ。
今回の件が片付いたら休養をもらうか。
「今回の件は、そうだな…… こうしよう。カレンナという危険な花が北部森林に群生していた。それをたまたまカンフェギルドの者たちが発見した。しかし、カレンナの花粉により我を失った。そこに王都ギルドの者たちが遭遇してしまった。これは悲しい事故だな」
「王都ギルドの者はそれでいいかもしれません。しかしながらあの者はそれで納得するか…… やはり、消しますか」
「いや、ここまで話が大きくなった以上、そうそう手出しすべきではない」
しかし、このまま王国に居られるのは不味い。
「そうだな…… 功績を称えて恩賞を出す」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「何が恩賞だよ」
十日以上も馬車で揺られ、身体中がカチコチに固まった。
それでようやく着いたと思えば、何もない荒野が待っていた。
あれから王都に帰ると、なぜか王国の宰相との謁見が待っていた。
そこで王国の危機を救ったとかで、恩賞を頂いた。
「なんか、話がうま過ぎると思ったんだよなぁ」
そこで貰った恩賞は、新たなギルドを立てる権利とそこのギルマスの権利。
そして新しく見つかったダンジョンの調査の三つだ。
順番としては、新たに見つかったダンジョンを調査するギルドが必要になった。
ギルドを作りそこを管理する人材が必要になった。
ただ、王都ギルドから出すにしても誰でもいいわけではない。
そこでオレ? となる。
ハメだろこんなの、ウチのシマじゃノーカンだわ。
「これが最寄りの町?」
新たに見つかったダンジョンは、荒野にポッカリと空いた穴を蓋するように重厚な扉がしてある。
そこで馬車から降ろされ、馬車は引き返していった。
そこから歩くこと半日以上。
カラカラに乾いたオレを待っていたのは、オレと同じくらいカラカラに乾いた町だった。
町には宿屋すらない。
酒場もない。
当然、ギルドにできるような建物もない。
「この町にギルドを作って、さっきのダンジョンを調査するって罰ゲームだろ」
オレとクルスの二人だけでだ。
何年かかるんだよ。
「できる気がしねぇ」
「マスター」
クルスが珍しくオレに声をかけてきた。
あれ? なんか変わった?
「なんだ?」
「マスターならできます。それに、私もついていますから」
ここまでが一章になります。
二章については考えてはいますが、まだ形になっていません。
特に後半、更新が目に見えて失速したので、次はもう少し余裕のある投稿にしたいと思います。
ただ、二章については書くかどうかも含めて未定とさせてください。
それでもいいよという方は、ブックマークを残していただけると嬉しく思います。
待てないよという方は、お読みいただきありがとうございました。
遅くなりましたが評価、さらには感想までいただきありがとうございます。
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次の作品で会えましたらよろしくお願いします。